女性の身体にとって、出産は、かなり大きな変化をきたします。
妊娠から約10ヶ月かけて徐々に大きくなり、胎児の命も支えてきた母体が、急速に元の身体に戻ろうとするのですから、とても大変なことです。

現代医学では、産後8週間目位までの母体が回復する時期を産褥期といい、大きく膨らんでいた子宮もほぼ元の大きさに戻ります。
最初の4週間は「悪露」とよばれる出血が続きます。これは子宮内や産道からの出血やリンパ液、胎盤の組織の残りなどが混じり合ったもので、赤色から、茶褐色、黄色、白色と変化していきます。
出産時に胎盤がはがれることにより、それまで胎児に酸素や栄養を与えていた血液の流れも変わります。ホルモンの分泌も妊娠を維持するために働いていたものから、急に変化して子宮を収縮させたり、母乳を分泌させるものに変わっていきます。
初産の場合は特に、その急激な変化に加え、慣れない赤ちゃんのお世話もあり、精神的にも肉体的にもお母さんは心配事が尽きないのではないでしょうか。
産後、1ヶ月位は実家にもどるなどして、赤ちゃんのお世話以外の家事は休ませてもらう方がよいとされていますし、その後も徐々に身体を動かすようにして、産後の身体の回復をはかることが大切です。
とても大きな変化が身体に起こるのですから、産後の腹痛やめまいを感じる方も多いようです。
しかし現代医学では、まずは安静にして精神的にもゆっくりすることが大切としており、よほどの激痛や貧血・マタニティブルー(産後うつ)の心配などがないかぎり、母乳への影響も考えて、薬を処方されることは、あまりありません。
確かにきちんと健診を受けていれば、多少の不調があっても、薬を控えることは大切です。
ただ、本人の訴えとして、不調があるのであれば、ただ休んでいるのではなく、積極的に治して、元気になり、明るく育児をする事も、とても大切です。
中医学の基本は身体の「気・血・水」のバランスを整えることですから、このようなケースで、仮に血液検査で異常がなくても、患者さんの自覚症状で腹痛やめまいがあるのであれば、ただ「安静にして下さい」で終わることはありません。
その自覚症状を緩和するために適切な施術をすることは出来ます。

中医学では病気がすすんでしまう前に、体調を整えていくことが大切と考えています。(未病治といいます)
中医学では、身体の働きに関する考え方が、根本的に現代医学的とは違っています。
まずは中医学的にみた身体の働きについて簡単に説明します。
詳しくは、「わかりやすい東洋医学理論」が、病気別わかりやすい東洋医学診断のまとめのページの上段にありますので、ご参考にして下さい。

現代医学では身体を細かく分析し、細胞レベルでとらえますが、中医学では身体を大きく捉えて、小宇宙であると考えます。
地球は大宇宙に存在する小宇宙の一つです。これと同じように地球からみれば、身体は小宇宙といえるのです。
宇宙に存在するものにはすべて意味があり、無駄なものはひとつもありません。
それぞれが、互いに影響しあいながら、バランスを保ち、大自然の法則に従って動いているのです。
人間も同じように、体内に存在するものすべてが重要な意味を持ち、個々の臓器も互いに影響しあいバランスを保って、健康を維持しているのです。

小宇宙である身体を構成し、生命活動の源として働くものは『気・血・水』です。
気・血・水が、身体を流れ良く巡る事で、身体内の臓器(五臓六腑)も、うまく働くことが出来、健康でいられると考えます。

1.気・血・水について
<気>
気は人間が活動するために必要な基礎物質です。そのため気の働きは様々です。
主な作用には、物を動かす「推動作用」・栄養に関わる「栄養作用」・身体を温める「温煦作用」・身体を守る「防衛作用」・ものを変化させる「気化作用」・体内から血や栄養物が漏れるのを防ぐ「固摂作用」など様々な働きがあります。

<血>
血は様々な器官に栄養や潤いをあたえます。
ここにも中医学独特の概念があり、血は精神活動の栄養源でもあります。
ですから血の不足は精神不安や不眠を発症させます。
また、身体が熱くなりすぎないように冷却する働きもあります。

<水(津液)>
水は津液とも言い、体内にある正常な水液のことをいいます。
主な作用としては身体の各部所に潤いを与えたり、血と同様に冷却する働きもあります。

2.五臓六腑について
五臓六腑というのは中医学の考える内蔵のことです。
西洋医学とは違って、中医学では内臓を物体として区別するのではなく、働きで区別 します。
具体的に五臓とは「肝」「心」「脾」「肺」「腎」があり、六腑には「胆」「小腸」「胃」「大腸」「膀胱」「三焦」があります。
五臓六腑には沢山の働きがあります。しかし、各々の臓腑には西洋医学と同じような働きをするものや、全く違う働きをする臓腑もあります。中医学では臓腑の働きに注目しておりますので、名前が同じでも全く同じ物を指しているわけではありません。
臓腑には情思(精神)活動にも関与しています。
各臓腑に「気・血・水」の働きなどが加わって、人体の働きを構成していると考えています。

それぞれの臓器は、特有の働きがあり、さらにお互いに協力しあい、制御しあいながら、バランス良く健康を保っていると考え、個々の働きと同じに、それぞれの関連性も重要になります。

さて、小宇宙である身体の働きの主になっているのは、「臓」である 肝・心・脾・肺・腎 です。
「腑」は飲食物の消化吸収を行い、五臓が栄養分から「気血水」を作ったり運んだり貯蔵をしています。

五臓の働きについて簡単に説明します。

  ・肝: 全身の気の流れを良くし、各器官の働きを助けます。
血を蓄えているので、貧血には関係深い臓器です。
筋肉の働きや精神活動にも関係しています。
肝の働きが悪くなるとイライラと怒りやすくなったり、
目や疾患・生理痛・手足のしびれ等を起こす事があります。
情思(精神)面では、ストレスを感受しやすく、ストレスが
一定のラインを越えると、肝の気の流れが低下し、
鬱滞感やイライラ、あるいはウツウツとした気分等が生じます。

  ・心: 血の循環をしています。
精神活動に関係し、五臓の働きをとりまとめています。
働きが悪いと、動悸や不眠・舌の先が赤く痛んだりします。
情思(精神)面では、不安感・不眠・夢をよく見る・物忘れが多いなどの症状があります。

  ・脾: 食べたものをエネルギー(気・血・水)に変え、身体の機能を活発にします。(運化作用)。
この働きが悪くなると、活力不足で疲れやすくなり、下利しやすくなります。
血を脈外に漏らさないようにする働きもあります(統血作用)。
この働きが低下すると、内出血しやすくなります。少しぶつけただけでも青あざが出来ます。
情思(精神)面では、落ち込むことが多い・無気力などの症状があります。

  ・肺: 吸することにより、気を全身に巡らし、水分の調節をします。
汗腺の働きにも関与し、皮膚の状態にも関係します。
この働きが弱くなると、呼吸器疾患・鼻炎・などを起こすというのは分かり易いと思いますが、蕁麻疹などの皮膚科疾患も肺の働きに関係しています。
情思(精神)面では、憂鬱で気分が晴れない・悲観的などの症状があります。

  ・腎: 生命力の源、先天の「気」を蓄えています。骨や髪・耳と関係します。
成長や生殖能力に関連深く、年齢と共に変化します。
女性では、月経や妊娠と関係します。
腎のエネルギー(先天の気)は、脾から作り出すエネルギー(後天の気)により補充されます。
腎の働きが弱いと、元気がない・不妊・生理不順・腰痛・冷え症などになります。
加齢と共に腎の働きは弱くなっていきますから、骨が弱ったり、髪がぬ ける、耳の聞えが悪くなるなどの症状がでてきます。
情思(精神)面では、驚きやすい・恐い夢を見る・元気がない等の症状があります。

以上の五臓がバランス良く働いてくれるように調節してくれているのが、「気・血・水」です。
中医学の場合は、症状と、どの「臓」の気・血・水の働きが失調し、関係しているかを分析し見極める事が、中医学的診断となり、治療方針をたてていくことになります。

中医学では患者さんの症状を、検査に頼らずに、どのように把握していくのでしょうか。
もちろん、じっくり問診をして、患者さんの訴えを伺いますし、他にいろいろな方法で、何が原因でその症状が起きているのかをみていきます。

他覚症状として重要なのは、「舌診」・「脈診」です。

「舌診」では、舌を拝見します。
舌はその時の病態を良く表しますし、内蔵の調子やストレスがあるかどうかなど、数カ月前からの体調も類推出来るからです。

「脈診」では手首にある橈骨動脈に触れてみて、脈の速さや強弱・流れ方・脈管の柔軟性などから、患者さんの健康状態を把握します。

脈の流れ方は体調によってずいぶん違い、熟練した中医師や鍼灸師は脈からいろいろな情報を得ます。
気・血・水の状態や五臓のバランス状態、邪気の侵入の有無など、実に細かい事が分かるのです。
針灸治療の後では脈も変化し、治療前より落ち着いた脈になります。

以上のようにいろいろな角度から診察をして治療方針を決め、一人一人の患者さんに最適な治療をしていくのが中医学です。

☆ タイプ別 症状と中医学的治療について

【産後の腹痛】
*血虚タイプ
  症状: 下腹部がしくしく痛む。腹は柔らかく押さえると落ち着く。悪露の量 は少なく色は淡い。
顔色に艶がない。動悸。めまい。
舌診: 淡舌・薄苔   脈診:細
  治則: 補血益気 調理衝任
気血を補い、働きをよくする治療をします。
また、婦人科疾患に関係深い任脈・衝脈の働を整えていきます。

*寒凝タイプ
  症状: 下腹部が冷えて痛む。温めると痛みは軽減する。悪露の量 が少ない。
手足が冷える。
舌診: 薄滑苔   脈診: 沈緊
  治療: 助陽散寒 ・ 温通胞脈
身体を温める力を強めて冷えを取り去る。子宮を温めて血行を良くする治療をします。

*血瘀タイプ
  症状: 下腹部の脹痛。痛みが胸郷まで及ぶ。悪露は紫暗色で血塊を伴う。悪露の量 は少なく排泄が悪い。
舌診: 紫舌   脈診: 弦渋
  治療: 行気化痰 ・ 通絡止痛
気血の流れを良くして、悪露の排泄を促し、痛みを緩和する治療をします。


【産後のめまい】
*血虚気脱タイプ
  症状: 産後の失血過多により、めまい・顔面 蒼白・意識が薄れる。もとの体質が気血不足
舌診: 淡舌   脈診: 微細
  治療: 補気養血 ・ 回陽救逆
気血を補い、意識をはっきりとさせる治療をします。

*血瘀気閉タイプ
  症状: 産後のめまい。目がかすむ。さむけ。(出産時に冷えたため)
舌診: 紫舌  脈診: 渋
  治療: 温経散寒 ・ 祛瘀経閉
身体を温めて冷えをとる。 血の滞りをなくし、気の流れを良くする治療をします。


以上のように、中医学では、一人の患者さんを全体的にみて、どこに問題があって、どのような進行状態であるのかを慎重に考えて、「証」をたて、治療方針を決めていきます。

証とは、中医学の診断名です。症状の情報収集をし、症状の程度・進行具合を見極め気血水の失調具合により、病態を把握します。

患者さんの性格や生活環境も考慮しながら、日常生活のアドバイスをする事もあり、まさに全人的な医学です 。

身体に対してはもちろん、心に対しても優しく、学問的にも奥の深い中医学は、幅広く いろいろな疾患に対応することが出来ます。

当院では個人個人の体質に合わせた治療を行います。
お気軽にご相談ください。


=本来の東洋医学の治療の姿に関して一言=

当院では局所治療に限定せず、あくまでも身体全体の治療・お手当てを目的としております。
例えば、ギックリ腰や寝違いといった急激な痛みに対して、中医鍼灸の効果 は高いですが、これも局所の治療にとどまらず全体的なお手当てを行なっているからなのです。
急性の疾患にせよ慢性の疾患にせよ、身体の中で生じている検査などには出てこない生命活力エネルギーのバランスの失調をさぐり見つけ出すことで、お手当てをしております。
ゆえに、慢性の症状を1〜2回の治療で治すというのは難しいのです。
西洋医学で治しにくい病・症状は、中医学(東洋医学)でも治しにくいのは同じです。
ただ、早期の治療により中医学の方が治し易い疾患もございます。
例えば、顔面麻痺・突発性難聴・頭痛・過敏性大腸炎・不眠・などがあります。
大切なのは、あくまでも違う角度・視点・診立てで、病・症状を治してゆくというところに中医学(東洋医学)の意味合いがございます。

当院の具体的なお手当てとしては、まず、普段の生活状況を伺う詳細な問診や、舌の色や形などを見る舌診などを行い、中医学(東洋医学)の考えによる病状の起因診断を行います。これは、体内バランスの失調をさぐり見つけ出すために必要な診察です。この診察を踏まえたうえで、その失調をツボ刺激で調整し、元の良い(元気な)状態へ戻すことが本来の治療のあり方です。
又、ツボにはそれぞれに作用があり、更にツボを組み合わせることで、その効果 をより発揮させる事が出来ます。

しかしながら、どこの鍼灸院でもこの様な考えで治療をおこなっているわけではありません。一般 的には局所的な治療を行なっている所が多いかと思います。

さて、もう一点お伝えしたいことが御座います。
当院では過去に東洋医学の受診の機会を失った方々を存じ上げています。
それは東洋医学に関して詳しい知識と治療理論を存じ上げない先生方にアドバイスを受けたからであります。
この様な方々に、「針灸治療を受けていれば・・・」と思うことがありました。
特に下記の疾患は早めに受診をされると良いです。
顔面麻痺・突発性難聴・帯状疱疹・肩関節周囲炎(五十肩)
急性腰痛(ぎっくり腰)・寝違い・発熱症状・逆子
その他、月経不順・月経痛・更年期障害・不妊・欠乳
アレルギー性鼻炎・アトピー性皮膚炎、など
これらの疾患はほんの一例です。
疾患によっては、薬だけの服用治療よりも、針灸治療を併用することにより
一層症状が早く改善されて行きます。
針灸治療はやはり経験のある専門家にご相談された方が良いと思います。

当院は決して医療評論家では御座いませんが、世の中で東洋医学にまつわる実際に起きている事を一人でも多くの方々に知って頂きたいと願っております。

少しでも多くの方に本当の中医鍼灸をご理解して頂き、お体のために役立てていただければ幸に思います。

 


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