☆夜尿症について☆
中医学では夜尿症のことを、現代医学同様に「遺尿」又は「尿床」といいます。
中医学の「遺尿」とは、お子さんが夜間睡眠中に尿をもらし、目覚めてからそれに気付くものをいい、満3歳以上のお子さんを対象とします。
3歳〜10歳位に多くみられるようですが、場合によっては成人まで引きずることも稀にあります。
(3歳未満のお子さんの夜尿は、知能・臓腑・気血・経脈が未発達のために、排尿制御能力の不足や、正常な排尿習慣がついていない為であるので、病態には属しません。又、就寝前の水分の過剰摂取や過労などによる夜尿も属しません。)

遺尿はその病因・病機により下記の3つに分類できます。
T、腎の気の不足によるもの
U、肺と脾の気の不足によるもの
V、肝と関係のある経絡に湿熱が入ることによるもの

では、この分類別にそれぞれ病因・病機・弁証・症状・治療の順に説明してまいります。

T、【腎の気の不足によるもの】
《病因・病気》
腎気の不足により膀胱が温煦されず、起こる遺尿です。
先ず、膀胱の働きを思い出してください。膀胱は小便の排尿や貯留を行っておりました。
そして、その機能は腎陽によって温煦されることで維持がされておりました。
病後や先天不足*又は虚弱体質などにより、腎気の不足が起こりると、それに続き腎陽**の不足が起こります。
昼と夜を陰陽で分けると、夜は陰に属します。
したがって夜は陰が主り、陽気は体内に納まる時間帯です。
しかし、この時に腎陽が不足していると膀胱は温煦されず、制約機能が失調すると遺尿が起こります。
(先天不足*・腎陽**:腎の説明を参照してください)

《弁証》
腎気虚証、又は腎陽虚証

《症状》
〈主症状〉
尿量は多く、回数は1〜数回・・・・腎気虚のため腎の固摂作用*と温煦作用が失調して起こります。
冬季や寒冷によって症状が増悪する・・温煦作用が低下しているためです。
疲労によって症状が増悪する・・・・気虚の特徴です。この場合は腎の気の不足の為に起こります。
(固摂作用*:わかる東洋医学理論の気の説明を参照してください)
<随伴症状>
顔色が白い・精神疲労・気力がない・下肢に力が入らない・寒がり・手足の冷え・・・陽気の不足により陽気(清陽)が全身に行き渡らなくて起こります。
知能遅れ・・・・・先天の不足*が脳に影響を及ぼしていると起こります。(詳しくは腎の説明を参照してください)
腰に力が入らない・・・腎は「腰の府」でもあり、骨とも関係がありました。
腎虚によって起こる症状です。
(詳しくは腎の説明を参照してください)

<誘発素因>
熟睡すると尿意に気付かない

《治療》
治法・・・・「補益腎気」「温固下元」といい、腎の気を補充して腎陽を高め、温煦機能を改善し、これにより膀胱を温煦し、膀胱の制約作用を促す治療を行います。

U、【肺と脾の気の不足によるもの】
《病因・病機》
体内の水液代謝に関わる臓腑の主役は『脾・腎・肺』でした。
その中の脾と肺の機能が失調して起こる遺尿です。
大病や長期にわたる病気は、脾の気を損傷させてしまうことがあり、この状態を脾気虚といいます。
脾気虚になると脾の機能低下が起こります。
脾の作用の中には昇清作用といって、身体に有益な物を肺に持ち上げる作用がありました。
昇清作用が低下してしまうと、肺に持ち上げられるはずだった、身体に有益な水液が肺に運ばれなくなり、下部へ落ちて行ってしまいます。
更にこの場合は肺も失調を起こしていますので、肺の作用であった治節機能*が低下してしまい、膀胱の働きである制約作用を失調させてしまい遺尿が起こります。
(詳しくは脾・肺・膀胱・及び水液代謝の説明を参照してください)
(治節機能*:肺の生理作用の説明を参照してください)
この場合は、脾気虚と肺気虚が原因ですから、気虚に属します。
陰陽のところで説明しましたが、気は陽に属します。
したがって、気虚は陰盛を引き起こしますので、陰を主る夜に遺尿が起こります。

≪弁証≫
肺脾気虚証

《症状》
〈主症状〉
排尿回数は多いが量は少ない・・・この場合の腎は正常であるので腎気虚による遺尿に比べると尿量 は少ないです。
疲労によって症状が増悪する・・・・気虚の特徴です。
<随伴症状>
顔色が黄色い・精神疲労・気力がない・・・脾気虚により運化作用の低下がおこり、気血の生化不足が起きてしまい、更に肺気虚により宣発・粛降作用の低下も起き、気血が、顔・心・四肢・に巡らず栄養できなくて起こります。
食欲不振・軟便・・・・・脾気虚により運化作用が低下して起こります。
息切れ・話す事さえ億劫・多汗・・・・気虚の特徴です。

《治療》
治法・・・・補益肺脾・昇陽固摂・・・・肺と脾の気を補して治節機能や昇清作用の改善し、膀胱の制約作用を促す治療をします。

V【肝と関係のある経絡に湿熱が入ることによるもの】
〈病因・病気〉
肝の生理作用をもう一度思い出して見ましょう。
肝の「疏泄機能*」は肺の「水道通調**」を補助しておりました。
又、肝はストレスなどの「情志失調」で損傷され易い臓器でした。
ストレスなどが原因で「情志失調」が起こると、肝が損傷され「疏泄機能」が低下をいたします。
すると、「疏泄機能」の補助がなくなってしまった「水道通調機能」も低下を起こし、結果 的に膀胱の制約機能が低下し、遺尿を起こします。
又、「情志失調」の他にも、外邪の湿熱や、飲食不節により生まれた「脾胃湿熱」が「足厥陰肝経」に入り込む場合があります。
湿熱はその特性から経絡の中の気血の流れを阻滞させます。
「足厥陰肝経」は肝と深く関係しますので、気血の阻滞は肝の機能に影響を及ぼしてしまいます。
これにより肝の「疏泄機能」の低下が起こることもあります。
更に、「疏泄機能」の低下は気血の流れの滞りを助長させてしまうことになり、経脈に入り込んだ湿熱を化火させてしまいます。
先程も説明いたしましたが、「足厥陰肝経」は陰部や膀胱を通りますので、化火した火熱が膀胱に注がれてしまいます。
すると膀胱の制約作用が低下して遺尿が起こります。
(疏泄機能*は肝の、水道通調**は肺の、生理作用を参照してください)

≪弁証≫
肝経湿熱証

《症状》
〈主症状〉
回数も尿量も少ない・・・・疏泄機能の低下のためです。
小便が黄色く鼻をつく強い臭いがする・・・熱が膀胱へ入っているために熱症の特徴です。
<随伴症状>
歯ぎしり・怒りっぽい・・・・肝の気が抑鬱状態により渋滞を起こし、さらにそれが熱化してしまうと、肝火がうまれてしまいます。
自然界と同様に熱は上に昇る性質がありますので、肝火の熱が上部にある「心」へと昇り、「心」に蔵されている「神」へ影響を及ぼします。
「神」が影響をうけると、精神不安などの症状が現れます。
(詳しくは「心」の生理作用を参照してください)
顔・唇や目が赤い・・・・・・熱が顔まで昇ってきて起こります。

<誘発原因>
情志の抑鬱や緊張すると症状が悪化する・・・この病証は肝に関わるものなので、肝に影響を及ぼす要因により症状は悪化します。

<治療>
治法・・・清肝利湿・・・・肝の疏泄機能を高めると伴に、「足厥陰肝経」に入り込んだ湿を体外に排出します。

以上が中医学的「遺尿」の説明になります。
現代医学とではだいぶ違った発想で、人体や疾患を捉えているのがおわかりになったかと思います。
現代医学と違う発想だからこそ病院で治らなかった疾患が中医鍼灸で治ることがあるのです。
そしてもう1つ、おそらく皆さんは中医学的な説明を読まれて、「遺尿」に対してこれだけ分類をするとは思わなかったと思います。
これが「わかる・東洋医学理論」で説明している『弁証』です。
中医学は疾患を診ているのではなく、患者さんの身体の「気血水」のバランスの崩れを診ているということが少しでも理解していただければ幸いです。
又、同じ「遺尿」であっても、弁証が違えば、使用するツボや処方される漢方薬も違ってきます。
これも又「わかる・東洋医学理論」で説明している【理・法・方・薬(穴)】という大原則です。
最近、東洋医学ブームとかで、様々なメディアで東洋医学が取り上げられており、「この疾患にはこのツボが効く!」とか、「この疾患にはこの漢方が効く!!」とか言っておりますが、本来の東洋医学(中医学)はそれほど短絡的なものではございません。

さて、次は予防についての話をいたしましょう。
予防については、特に現代医学や中医学といった括りはせずに紹介したいと思います。

☆予防☆
@ お子さんの準備が出来ていないのにトイレ・トレーニングは避けましょう。
A 寝る前に水分を控える。(水分摂取は就寝の2時間半前に)・・・・現代医学の分類で [多尿型・混合型]のタイプに分類されたお子さんは気を付けてください。
特に夕食後や入浴後の過剰な水分摂取には気を付けましょう。
水分摂取は、朝・昼は多く、夕方から減らすようにしましょう。
B 塩分摂取量を控える ・・・・これも上記と同様に [多尿型・混合型]のタイプのお子さんは気を付けてください。
C 排尿をこころもち我慢させる・・・・[膀胱型・混合型] のタイプのお子さんの予防法です。
これは排尿抑制訓練と言い、膀胱容量を大きくする訓練ですが、決して無理はさせないで下さい。
D 規則正しい生活リズムの確立をしましょう。
E 遅めの食事はやめましょう。
F 身体を冷やさないようにしましょう。

☆治る時期の予想☆
夜尿症の重症度は、その時間帯である程度わかると言われており、重症度から治る時期もある程度わかると言われております。
参考までに簡単に紹介しておきます。
寝入後すぐ・・・・5〜6年後
夜中・・・・・・・3〜4年後
朝方・・・・・・・1〜2年後
以上になります。
これはあくまでも平均的な数字であり、個人差はありますのでご了承下さい。

☆夜尿症に効くと言われている民間療法☆
昔から伝わる民間療法や家庭薬の中には、ほとんど薬効がなくおまじないや迷信といっていいものもから、驚くほど効力があり、且つ科学も認める物まであります。
しかしながら、これらの効力の高い家庭薬は材料の入手が困難であったり、手間がかかるものも少なくありません。
ですから、ここでは入手も容易で、手間も出来るだけ掛からないものを紹介したいと思います。
(尚、出来るだけ数多くの情報を提供したいと思いますので、レシピについては省かせていただきます。もし、興味のある方はご遠慮なさらずに質問をお寄せくださいませ。)

*イタドリ*
道端や山野に自生する多年草です。
イタドリの根は利尿効果がありますので、根を煎じたり、黒焼きにして飲ませます。

*乾燥柿のへた*
乾燥柿のへたは夜尿症やしゃっくりに効果があります。
柿の種類は問いません。煎じて飲ませます。

*渋柿エキス*
渋柿エキスは脳卒中予防・夜尿症・しゃっくり・などに有効です。
渋の強いものほど効果的です。

=お茶=
「医食同源」と言う言葉は皆さんもご存知のことと思いますが、中国には「医茶同源」という言葉もあります。
お茶にも薬効があり、飲み方によってお茶は薬にもなるのです。
中国では、季節・体質・精神状態に合わせてお茶を選んで飲むことによって上手に体調を整えています。
今回は利尿効果のあるお茶を紹介しましょう。

*はとむぎ茶*
利尿効果の他に、皮膚の老廃物を取り除いてくれたり、胃腸を丈夫にしてくれたりします。

*スギナ茶*
高い利尿作用があります。
又、うがい薬としても使えます。因みに皆さんがよくご存知のツクシはスギナの子供です。

☆遺尿の注意点☆
最後に夜尿症についての3原則を紹介します。

夜尿症の3原則は『あせらず』『しからず』『おこさず』です。
夜尿症は『あせって』も治りません。
殆んどのお子さんが自然治癒いたしますので、おおらかな気持ちで対応しましょう。
『しかる』のは逆効果です。絶対に叱ってはいけません。
夜間にお子さんを『起こして』排尿させるのは、夜尿症を治すのに逆効果 になる場合がありますので、注意して下さい。

身体的原因がない夜尿症は、お子供さんの健康に何ら影響はありませんし、自然に治ることが多いので、ご家族の皆さんは必要以上に心配なさらないで下さい。
しかし、「おねしょ」が長期化すると、お子さんの精神衛生にも大きく影響する場合があるので、長期化するようであれば十分注意が必要です。あまり長引くようであれば、専門医への受診をおすすめいたします。
目安としては、4〜5歳位までの「おねしょ」は心配しないで大丈夫でしょう。
6歳を過ぎても「おねしょ」が続くようであれば、適切な対応をされた方がよいと思います。
通常、大部分のお子供さんは何らかの治療に反応します。

以上で「夜尿症」についての説明を終わらせたいと思います。
ご質問等ございましたら、お気軽に当院までご相談ください。

=本来の東洋医学の治療の姿に関して一言=

当院では局所治療に限定せず、あくまでも身体全体の治療・お手当てを目的としております。
例えば、ギックリ腰や寝違いといった急激な痛みに対して、中医鍼灸の効果 は高いですが、これも局所の治療にとどまらず全体的なお手当てを行なっているからなのです。
急性の疾患にせよ慢性の疾患にせよ、身体の中で生じている検査などには出てこない生命活力エネルギーのバランスの失調をさぐり見つけ出すことで、お手当てをしております。
ゆえに、慢性の症状を1〜2回の治療で治すというのは難しいのです。
西洋医学で治しにくい病・症状は、中医学(東洋医学)でも治しにくいのは同じです。
ただ、早期の治療により中医学の方が治し易い疾患もございます。例えば、顔面 麻痺・突発性難聴・頭痛・過敏性大腸炎・不眠・などがあります。
大切なのは、あくまでも違う角度・視点・診立てで、病・症状を治してゆくというところに中医学(東洋医学)の意味合いがございます。

当院の具体的なお手当てとしては、まず、普段の生活状況を伺う詳細な問診や、舌の色や形などを見る舌診などを行い、中医学(東洋医学)の考えによる病状の起因診断を行います。これは、体内バランスの失調をさぐり見つけ出すために必要な診察です。この診察を踏まえたうえで、その失調をツボ刺激で調整し、元の良い(元気な)状態へ戻すことが本来の治療のあり方です。
又、ツボにはそれぞれに作用があり、更にツボを組み合わせることで、その効果 をより発揮させる事が出来ます。

しかしながら、どこの鍼灸院でもこの様な考えで治療をおこなっているわけではありません。一般 的には局所的な治療を行なっている所が多いかと思います。

さて、もう一点お伝えしたいことが御座います。
当院では過去に東洋医学の受診の機会を失った方々を存じ上げています。
それは東洋医学に関して詳しい知識と治療理論を存じ上げない先生方にアドバイスを受けたからであります。
この様な方々に、「針灸治療を受けていれば・・・」と思うことがありました。
特に下記の疾患は早めに受診をされると良いです。
顔面麻痺・突発性難聴・帯状疱疹・肩関節周囲炎(五十肩)
急性腰痛(ぎっくり腰)・寝違い・発熱症状・逆子
その他、月経不順・月経痛・更年期障害・不妊・欠乳
アレルギー性鼻炎・アトピー性皮膚炎、など
これらの疾患はほんの一例です。
疾患によっては、薬だけの服用治療よりも、針灸治療を併用することにより一層症状が早く改善されて行きます。
針灸治療はやはり経験のある専門家にご相談された方が良いと思います。

当院は決して医療評論家では御座いませんが、世の中で東洋医学にまつわる実際に起きている事を一人でも多くの方々に知って頂きたいと願っております。

少しでも多くの方に本当の中医鍼灸をご理解して頂き、お体のために役立てていただければ幸に思います。

 


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