今回のテーマは夜尿症です。別な言い方としては「遺尿」とも言います。
「夜尿症」の定義としては、4〜5歳のお子さんが寝ている間に起こる付随意の排尿のことを言います。
数字的には、女児より男児の方が2倍多いと言われております。
では早速、いつものように現代医学の観点から「夜尿症」を紹介してゆきましょう。

☆☆現代医学から診た夜尿症☆☆
先ずは、尿量調整や膀胱の貯尿量についての話から始めましょう。
皆さんもご存知のように、尿は腎臓で作られます。
腎臓で作られた尿は膀胱で一定量になるまで貯められ、尿量が一定量 に達すると尿意をもようし尿道を通過して体外に排尿されます。
腎臓で作られる尿量を決める要因としては、水分摂取量・塩分摂取量 ・腎臓の尿を作る働きを抑制するホルモン(抗利尿ホルモン)などがあります。
水分や塩分摂取量が多いと尿量は増え、抗利尿ホルモンの分泌が多いと尿量 は減ります。

実はこの仕組みが、昼と夜間睡眠中とでは以下のように変化が起こります。
@夜間睡眠中は抗利尿ホルモンが昼間の約2倍分泌されます。
A夜間睡眠中は自律神経の調節により、膀胱の大きさが昼間の約1.5倍になります。

以上の変化により、夜間睡眠中は腎臓で作られる尿量が昼間の60%に減少し、 膀胱の貯尿量も増量します。
この変化のおかげで、我々は夜間睡眠中の尿意も無く「おねしょ」もせずに、 グッスリと眠れるのです。
そしてこの身体の仕組みが完全に作られるのが、個人差はありますが3〜4歳頃と言われております。
以上の事から、通常は3〜4歳を過ぎたお子さんは、夜間睡眠中の尿量 の減少が起こり、更に膀胱の貯尿量が増加することにより、朝までおしっこを膀胱に貯めておくことが出来るようになります。

つまり、夜尿症は上記の尿量と膀胱の貯尿量のバランスが崩れて起こると言えます。
通常は睡眠中に尿意は発生しているのですが、お子さんは睡眠が深いために、 それに気付かず排尿してしまうのです。
夜間睡眠中の尿量減少が起こらないのは抗利尿ホルモンの分泌不足、膀胱貯尿量 の増量不足は自律神経のアンバランスが原因です。
では、何故そのような事が起こるのか、その原因を紹介しましょう。

☆尿量と貯尿量のバランスを崩す原因(夜尿症の原因)☆
@ 早すぎるトイレ・トレーニングや強制的過ぎる場合。
お子さんが膀胱を抑制できるようになる年齢は個人差がありますが、通 常3歳以前ではトレーニングができる状態ではありません。
この様な時期にトイレ・トレーニングを開始したりすると「夜尿症」を発生させることがあります。
A 膀胱の筋肉の発達の遅れや、尿量が多い時にその圧力に耐え切れない場合。
B もともと膀胱の容量が少ない
C 睡眠が深い
D一時的な退行現象によるもの
Eストレスなどからくる適応障害の一種として発生するもの
F身体の冷えによるもの
G習慣性の多飲や塩分の過剰摂取
H糖尿病によるもの
I尿路感染によるもの
J脊髄の損傷によるもの
K尿路や生殖路の先天的奇形によるもの
などがあげられます。
但し、身体的な理由で「夜尿症」が起こることはまれであります。

☆夜尿症の分類☆
さて、夜尿症は先程の尿量と貯尿量のバランスの崩れ方から分類することができます。
そしてこの分類によって治療法が異なります。

▼ 多尿型・・・尿量の多いタイプです。原因の殆んどが抗利尿ホルモンの分泌不足ですが、塩分摂取量 過多の場合もあります。
(前者はうすい尿が、後者は濃い尿が多量に出ます)
▼ 膀胱型・・・膀胱の貯尿量が少ないタイプです。
(膀胱の容量が夜間のみ少ない場合と、昼夜共に少ない場合があります)
▼ 混合型・・・「多尿型」と「膀胱型」の両方の要因があるものです。

治療としては、先ず身体的原因がないかを検査します。
もし、そのような原因であればそちらの治療を行います。
身体的原因がない場合は
@薬物治療
A行動療法
B心理療法
C生活指導
Dアラーム療法
E低周波電気刺激療法等   などが行われます。

簡単ではありますが、以上が現代医学から診た「夜尿症」の説明になります。
次に中医学から診た「夜尿症」の説明に入りましょう。


☆☆中医学から診た夜尿症☆☆
** 初めに ** 中医学は独自の理論によって構成され、専門用語を多く使用します。
それらの理論や用語は現代医学に慣れ親しんでいる我々にとっては、非常に難解で馴染みづらいものであります。
そこで、先ず、中医学による夜尿症の説明を読まれる前に、当HPの「わかる東洋医学理論」をお読みになって、予め東洋医学の概念的なイメージを掴まれてから、この後を読まれることをおすすめいたします。
これ以降については、説明を出来るだけ簡素にするため、皆様が「わかる東洋医学理論」を読まれているという前提で説明させて頂きますので、ご了承下さいませ。

さてここでは、中医学による夜尿症を理解するために、「わかる東洋医学理論」をもう少し補足したいと思います。

☆ 夜尿症を理解するために必要な基礎知識☆
《陰陽》
陰陽の概念については既に皆さんはイメージが出来ていると思いますので、ここでは主に遺尿に関係のある陰陽の分類について紹介します。
○ 「気・血・水」
気血水も陰陽に分類することができるのです。
「気」は陽に属し、「血」と「水」は陰に属します。
○ 「昼・夜」
昼が陽に、夜が陰に属します。

《気》
「気」は「血」と「水」と伴に、人体を構成する基礎物質であり、健康な身体は「気・血・水」が適量 でスムースに流れていなければなりません。
ところが何らかの原因により「気」が不足を起こすことがあります。
この状態を「気虚」といいます。
「気」とは一種の生命エネルギーで各々の臓腑が持っているものなので、各臓腑ごとに気虚を起こします。
遺尿の原因には腎の気の不足(腎気虚)・脾の気の不足(脾気虚)・肺の気の不足(肺気虚)などがあります。

《臓腑》
臓腑とは内臓のことでした。
中医学で考える内蔵の働きと、現代医学のそれとはだいぶ違いがあることはもう皆さんはご存知のことと思います。
ここでは夜尿症に深く関係のある臓腑について少し説明してゆきます。
先ず、各臓腑の説明に入る前に、中医学が考える人体内の水液代謝と、それに関わる臓腑について説明します。
水液代謝についても、中医学独特の考え方をしますので、皆さんの常識は一度封印してこれから先をお読み下さい。

@、 口から入った飲食物(水分)は胃に送られ小腸に送られます。
A、 小腸は運ばれてきた飲食物(水分)を人体に必要な物と不必要な物に分けます。
その後、必要な物は脾に送られ、不必要な物の中で水液は膀胱へ、そうでない物は大腸へ送られ、排出されます。
B、 脾は小腸から送られてきた体に必要な物から有益な水液を吸収し肺へ送ります。
C、 肺は送られてきた水液を全身へ行き届かせます。
肺は身体の中では比較的上の方にありますので、水液を全身へ行き届かせるには都合がよいのです。
D、 全身を巡ってきた水液は腎臓に集められます。
そこで再利用出来る物は再吸収し、再度肺に戻します。不要な物は膀胱に送ります。
E、 膀胱へ送られてきた不要な水液は尿に変えられ排出されます。
また、膀胱へ運ばれる前の不必要になった水液は汗として排出される場合もあります。

これが大まかな体内の水液代謝の流れになります。
このように体内に入った水液は必要な物は再利用され、不必要な物は汗や尿として排出されます。
水液代謝に関わる主な臓腑は今の説明に出てきた脾・肺・腎が主役となり、それを補助する臓器として三焦(さんしょう)・膀胱・肝・心などが関与してまいります。
三焦とは、水液が流れる通路みたいなもので、現代医学には存在しない物です。
それでは次に各臓腑について説明してゆきましょう。

<腎>
腎は夜尿症にとってとても繋がりの深い臓器ですので、しっかりイメージを作ってください。
腎は「水を主る」と言われ、体内の水液代謝には大切な臓器です。
腎は全身を巡ってきた水液を必要な物と不必要な物にわけ、それらを吸収して肺に戻したり、膀胱へ送ったりしています。
更に、先程説明した水液代謝は全て腎の気化作用によって保たれております。
そしてこの気化作用を支えているのが腎陽というものです。
これは、腎の働きを「陰」と「陽」で分けた場合の「陽」の働きを指すことばで、身体を温める働きである「温煦作用」をさします。
ですから体内の水液代謝は腎の「温煦作用」によって支えられていると言っても過言ではありません。
そういったことから『腎は水を主る』と言われるのです。
この他に腎は「蔵精を主る」と言われます。
精とは広義の意味と狭義の意味がありますが、広義の精とは人体を構成し人体の各機能を支える基礎的な物質であります。
簡単に説明すると生きるために必要なエネルギーとイメージして頂ければよいかとおもいます。
狭義の精は生殖や発育を主ります。
精には「先天の精」と「後天の精」の2つがあります。
「先天の精」は両親から受け継ぐ精です。
ですから、赤ちゃんが母親から生まれ出た時にはしっかり赤ちゃんの身体の中に蔵されております。
それに対して「後天の精」は、飲食物から作られます。
これらの精は腎で貯蔵されますので、腎は「蔵精を主る」といわれるのです。
そして腎の中に蔵されている精を「腎精」と言います。
ところが、生まれつき「先天の精」が通常より少なく生まれてくるお子さんがいます。
この様な状態を「先天不足」といいます。
「先天不足」は腎の機能低下を起こすことがあり、これにより腎陽が不足して遺尿が起きることがありますので覚えておいてください。
又、腎は「骨を主り髄を生じる」と言われます。
先程説明した腎精には髄を生じる作用があります。
髄は骨を滋養しておりますので、腎精の不足は骨の滋養不足をまねきます。
さらに骨髄の不足は「腰膝酸軟腰(ようしつさんなん)」といって、腰や膝をだるくさせたり、痛みを生じさせてしまいます。
ですから腎は『腰の府』とも言われております。
さらに髄は「骨髄」と「脊髄」に別れます。「脊髄」は脳とつながります。
中医学では脳は髄が集まっていると考えます。
ですから、腎精の不足は知能にも影響を及ぼします。

<膀胱>
膀胱の主な生理作用は貯尿と排尿です。
膀胱の「気化作用」により尿は体外に排出されます。
「気化作用」は細かく分けると、「気化作用」と「制約作用(約束)」にわけられますが、通 常はこれらをひとまとめにして「気化作用」と言ってしまいます。
膀胱が失調を起こした場合、「気化作用」が失調を起こすと、排尿困難・排尿障害・尿閉といった症状が現れ、「制約作用」が失調を起こすと頻尿・失禁といった症状が現れます。
いずれにしても膀胱の機能が正常に保たれるのも、腎陽の温煦作用と水液調節作用の助けが必要です。
ですから腎の失調は膀胱の機能失調を起こし遺尿の原因になります。

<脾>
脾の主要な生理作用として「運化作用」と「昇清作用」があります。
【運化作用】
「運化作用」の『運』は転運輸送で、『化』は消化吸収を意味します。
つまり、飲食物から栄養分を吸収して、栄養分を全身へ運ぶ作用です。
先程説明した水液代謝の説明をもう一度思い出してみましょう。
飲食物は口から胃を通り小腸に運ばれます。
小腸では身体に必要な物と不要な物が分けられ、必要な物は脾に運ばれます。
脾はそこから有益の物を吸収して肺へ送り、肺から全身へと送られ、腎へ集められていました。
これらの口から始まって腎までの一連の流れが「運化作用」です。
脾の主要な生理作用は運化作用ですから、脾はこれらの働き全てを管理しているのです。
「納得できない」とおっしゃる方もいらっしゃると思いますが、中医学の臓腑の捉え方は現代医学のそれとは違い、臓腑を物体として見るのではなく、働きに注目しているのでこの様な考え方ができるのです。
又、運化作用は栄養分を吸収する働きがありますので、脾が損傷してしまうと気血を作る能力が低下してしまい、気血の生成不足をまねきます。
その他の運化作用の失調の症状は、食欲不振・下痢・軟便・むくみ・などが現れます。

【昇清作用】
先程の説明にあったように脾は小腸から送られてきた必要な物から、有益の物を吸収して肺へ送っておりました。
肺へ有益な物を持ち上げる作用が「昇清作用」です。
「昇清作用」が失調を起こすと、有益な物が肺まで持ち上げることが出来なくなってしまい、めまい・ふらつき・などが起こります。
又、「昇清作用」の失調が原因で起こる遺尿もありますので覚えておいてください。
因み、この持ち上げる作用には、臓腑や器官を正常な位置に保つ作用もあります。
この様な場合は「昇提作用」と言い、「昇提作用」の失調は胃下垂や脱肛などが現れます。

<肺>
肺の作用の中で遺尿に関係する作用は、『宣発作用』『粛降作用』『水道通 調作用』『治節』と沢山あります。

【宣発】
「宣発」とは宣布・発散の意で、広く発散させ行渡らせるという意味です。
水液・栄養物・気や濁気などを全身へ散布することです。
この働きにより脾から送られてきた、有益な水液は宣発作用によって全身へ散布されるのです。
又、濁気や汗もこの働きによって排出されます。
宣発作用の失調は、皮膚の乾燥・抵抗力低下・疲れやすい・各種の機能低下・汗が出ない・などの症状が現れます。

【粛降】
「粛降」の「粛」は清粛・粛清を意味し、「降」は下降を意味します。
粛降とは気や水液などを下部に輸送する作用です。
肺の宣発作用によって散布された有益な水液は粛降作用によって全身へ渡り腎へと送られます。
粛降作用の失調は、腎に気が届かなくなったり・不要な水液が体内に溜まったり・むくみ・息切れ・疲れやすい・尿量 減少・汗が止まらない・などの症状が現れます。
「肺は宣発・粛降を主る」と言われ、宣発・粛降といった作用を用いて水液や気を全身へ巡らせております。

【水道通調】
「水道」とは、先程水液代謝で説明した、脾→肺→全身→腎→膀胱→排出 といった一連の流れの全通 路を指します。
「通調」の「通」は疎通を意味し、「調」は調節を意味します。
肺は先程の宣発・粛降といった作用を用いて水道の流れがスームースに流れるように調節しております。
このことを「水道通調」といいます。
水道通調の失調は、むくみ・汗が出ない・といった症状が現れます。

【治節】
治節とは管理・調節を意味しますので、色々な働きがあります。
その中で遺尿に関係のある働きとしては、先程説明した「宣発・粛降」の作用により、水液の輸布・運行・排泄の管理・調節を行っております。

〈肝〉
肝の主要な生理作用に「疏泄を主る」があります。

【疏泄機能】
疏泄の「疏」は流れが通るの意で、「泄」は発散・昇発の意があります。
「疏泄」とは、全身の気を順調に運行させる・精神状態を安定させる・消化の補助・などの働きを言います。
ですから、「肺」の生理作用で説明した「水道通調」も疏泄の力を借りています。

【肝の特性】
肝は五行学説*では「木」に属します。木はのびやかに枝を伸ばします。
ですから、肝はノビノビとした状況や秩序のある状況を好みます。
逆を言えば物事が秩序よく進まない状況などを嫌います。
もしこのようなストレスにさらされると肝は損傷を受けてしまいます。
肝が損傷してしまうと、先程説明した疏泄機能の低下がおこりますので、様々な症状が現れてきます。
(五行学説*:「わかる・東洋医学理論」の五行学説の説明を参照してください)

<三焦>
三焦は現代医学にはない概念ですので、最初は理解するのに抵抗があるかもしれません。
三焦とは体内にあり、体内の水液や気が流れる通路とイメージして下さい。
あえて現代医学に例えると、リンパ管・汗腺・涙腺・といったような物ですが、全く同じ物ではありません。

<心>
心の主要な生理作用としては、「心は血脈を主る」と言い、全身の血液運行の原動力になります。
遺尿に関係のある作用としては「心は神を蔵す」と言い、心は精神活動の統括をしております。
「神」とは精神・意思・思惟活動を指し、血によって栄養されています。
何らかの原因で「心」へ血が巡って来ないと「神」が栄養されず、精神疲労や精神不安などがおこります。

《経絡》
経絡については「わかる・東洋医学理論」で説明されております。
その中に正経12経と言われる経脈がありました。
これは経脈の中でも特に重要なもので、それぞれ一対の臓腑と深い関係のある経脈でした。
遺尿に特に深く関係する経脈が正経12経の中にあります。
それは、肝と関係のある経脈で「足厥陰肝経」と言う経脈です。
足厥陰肝経のルートは陰部を通りますので、外邪*がこの経脈に入ると膀胱まで外邪を運んでしまい遺尿が起こることがあります。
(外邪*:「わかる・東洋医学理論」の病因を参照してください)

《病因》
病因についても「わかる・東洋医学理論」で説明しております。
病因には、様々なものがありましたが、この中で遺尿に関係があるのは、「湿熱・飲食不節・情志の失調」があります。
湿熱の場合は2通りあり、外因によるものと、飲食不節によって体内で生まれるものがありますので、先ずは外因による湿熱から説明してゆきましょう。

【外因による湿熱】
湿熱とは外因に含まれていた湿邪と熱邪が合わさったものです。
遺尿の場合はこの湿熱が体内に入り、更に足厥陰肝経に入り膀胱へ達して遺尿をおこします。

【飲食不節】
飲食不節に含まれている「肥甘厚味」「過食辛辣」「過度の飲酒」は体内で湿や熱を生みます。
飲食物は胃で受納され、脾は運化を主りますから、飲食不節によって生まれた湿熱を「脾胃湿熱」と言います。
こうして体内で生まれた湿熱は外因の湿熱同様に足厥陰肝経に入り込みます。

【情志の失調】
情志の失調は病因の中の内因で説明されております。
遺尿については、特にストレスなどの情志の抑鬱状態が原因となります。
肝の特性で説明いたしましたが、肝はストレス状態にさらされると損傷しやすい臓器です。
このことが遺尿の原因になることがあります。

さて、予備知識もだいぶ頭に入ってきたところで、「夜尿症」についての説明に入りましょう。

 


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