《中医学的考え方》
さて、中医学では貧血をどのように考えているでしょう。
病名としては「貧血」に一致するものはありません。
なぜなら、中医学では人体をみる時、西洋医学のように細かく分析して検査の結果 からみるのではなく、全体をとらえてみますから、血液検査の値だけが異常であるという病気はないのです。
血の不足ということだけで考えると「血虚」に近いのですが、イコールではありません。
血虚は何らかの原因により、「血」が不足したり、働きが悪くなって起きる病態と考えますから、血液検査の値が正常でも「血虚」という状態は有り得るのです。

この話は後半で詳しく述べますが、その前に中医学の根本的な考え方について、簡単にお話しておきます。

中医学では身体のみかたが根本的に西洋医学とは違います。西洋医学では身体を細かく分析し、細胞レベルでとらえますが、中医学では身体を大きく捉えて、小宇宙であると考えます。地球は大宇宙に存在する小宇宙の一つです。これと同じように地球からみれば、身体は小宇宙といえるのです。宇宙に存在するものにはすべて意味があり、無駄 なものはひとつもありません。それぞれが、互いに影響しあいながら、バランスを保ち、大自然の法則に従って動いているのです。人間も同じように体内に存在するものすべてが 重要な意味を持ち、個々の臓器も互いに影響しあいバランスを保って、健康を維持しているのです。

小宇宙である身体を構成し、生命活動の源として働くものは『気・血・水』です。
気・血・水が、身体を流れ良く巡る事で、身体内の臓器(五臓六腑)も、うまく働くことが出来るわけです。
それぞれの働きについて、少し詳しく説明していきましょう。

1・「気・血・水」について
「気」というのは、気持ちの気と同じような意味合いもありますが、中医学では、活力という意味であり、血脈の流れを推進し、臓器組織の活動を促進すると考えます。

気という言葉は日常生活の中でも使っていますね。例えば気が短いとかやる気が無い等々。
しかし、気とは何かというと、大抵の人が説明出来ないのではないでしょうか。目に見えないから信じないという人もいるくらいですが、そういう人でも「やる気」が出る事はあるだろうし、「気が向かない」時よりずっと物事が捗るなどという経験はあるでしょう。

中医学では気を大変重要な要素として認識しております。
気にはいろいろな作用があります。
血液の循環をよくする為に血液を押し流して、血流を良くする手助けをしたり、体が冷えないように暖めたり、ウイルスや細菌等が体に入り込まないよう防衛してくれたりしているのが気の作用なのです。
気はいつも充分に体に存在しているわけではなく、普通に生活しているだけでも消耗されてしまいます。
ですから、正しい食事・正しい呼吸をして補う必要があります。気の働きが弱くなった状態を気虚といい、疲れやすい・動くと症状が悪化する・身体が冷える・感染症にかかりやすい等の症状が出ます。
ウイルスや細菌等に感染し易くなり、体が冷えたり、血液の流れが悪くなったりします。
また気はストレス等によって容易に動きが悪くなり、滞ってしまいます。この状態を気滞といいます。
ため息やゲップ、ガスが多い等などの症状がでますし、気が滞ると、血の流れも悪くなり、血の働きにも悪影響がでます。

「血」は西洋医学で言う血液とは違い、広い働きを持ち、全身を栄養する働きだけでなく、精神活動も支えていると考えます。血の不足で起こる症状には、めまいなどもありますが、不眠・不安・などもあります。
また、血が滞ると血オという状態になり、オ血という病理産物が発生します。
オ血は固定性で激しく刺しこむような痛みを起こします。
女性では生理不順や生理痛、生理の出血にレバー状の塊が出る事等があります。

「水」は身体をうるおす水分の事です。これらは飲食から得られ、臓腑で消化吸収して作られていきます。
正常な水分が変化し、停滞すると湿という病理産物を生成してし、体がむくんだり、体が重い、めまい等を起こします。

気・血・水は『経絡』という、人体の上下・内外を貫く道筋によって流れ、全身を栄養したり、臓器の機能を調節したりしています。健康な状態では、経絡は全身を滞る事なく流れています。

気・血・水が、身体を流れ良く巡る事で、身体内の臓器もうまく働くことが出来るのです。


2・「五臓六腑」について
五臓とは肝・心・脾・肺・腎、六腑とは胆・小腸・胃・大腸・膀胱・三焦の事をさしますが、西洋医学でいう臓器とは違います。

それぞれの臓器は、特有の働きがあり、さらにお互いに協力しあい、制御しあいながら、バランス良く健康を保っていると考えます。
西洋医学に比べると、個々の臓器の機能以上に、それぞれの関連性について重要に考えています。
例えば、肝臓にとって良い薬でも心臓には負担になってしまうというような事もあるわけですし、個々の臓器だけをみるのではなく、身体全体をみてバランスを大切にしなくてはいけません。

さて、小宇宙である身体の働きの主になっているのは、「臓」である 肝・心・脾・肺・腎 です。
「腑」は「蔵」にタイアップしながら、従うような働きをしますので、ここでは割愛させていただいて、「五蔵」の働きについて、説明しておきます。

  ・肝: 全身の気の流れを良くし、各器官の働きを助けます。
血を蓄えているので、貧血には関係深い臓器です。
筋肉の働きや精神活動にも関係しています。
肝の働きが悪くなるとイライラと怒りやすくなったり、
目や疾患・生理痛・手足のしびれ等を起こす事があります。

  ・心: 血の循環をしています。
精神活動に関係し、五臓の働きをとりまとめています。
働きが悪いと、動悸や不眠・舌の先が赤く痛んだりします。

  ・脾: 食べたものをエネルギー(気・血・水)に変え、身体の機能を活発にします(運化作用)。
この働きが悪くなると、活力不足で疲れやすくなり、下利しやすくなります。
血を脈外に漏らさないようにする働きもあります(統血作用)。
この働きが低下すると、内出血しやすくなります。少しぶつけただけでも青あざが出来ます。

  ・肺: 呼吸することにより、気を全身に巡らし、水分の調節をします。
汗腺の働きにも関与し、皮膚の状態にも関係します。
この働きが弱くなると、呼吸器疾患・鼻炎・などを起こすというのは分かり易いと思いますが、蕁麻疹などの皮膚科疾患も肺の働きに関係しています。

  ・腎: 生命力の源、先天の「気」を蓄えています。骨や髪・耳と関係します
成長や生殖能力に関連深く、年齢と共に変化します。
女性では、月経や妊娠と関係します。
腎のエネルギー(先天の気)は、脾から作り出すエネルギー(後天の気)により補充されます。
腎の働きが弱いと、元気がない・不妊・生理不順・腰痛・冷え症などになります。
加齢と共に腎の働きは弱くなっていきますから、骨が弱ったり、髪がぬ ける、耳の聞えが悪くなるなどの症状がでてきます。

以上の五臓がバランス良く働いてくれるように調節してくれているのが、
「気・血・水」です。

中医学の場合は、症状と、どの「臓」の気・血・水の働きが失調し、関係しているかを分析し見極める事が、中医学的診断となり、治療方針をたてていくことになります。


さて、ここから本題の貧血についてのお話になります。

中医学では貧血に現れる症状を、血液検査に頼らずに、どのように把握していくのでしょうか。
身体全体をみる学問ですから、いろいろな方法でみていきます。

西洋医学の病院に行き、診察室に入った後のことを思い出してみて下さい。
お医者さんの視線はどこにありますか? 最近ではコンピューターの画面 を主に見ながら、患者さんの訴えを耳だけで聞くというパターンも多いようですね。

中医学では、その人を全体的に診るわけですから、患者さんに目を向けてお話をします。
診察室に入ってからの歩き方や、椅子への座り方、話のしかた、体臭等にも、その人の体調を表す メッセージが沢山含まれています。患者さんの感じている主訴以外にも問題点はないかどうか、診る側も五感を駆使して探っていくのです。
その上で、患者さんの訴えをよく聞き、問診をしていきます。

今回のテーマである貧血に関していえば、他覚症状として重要なのは、
「顔色」・「舌診」・「脈診」です。

「顔色」が青白いような時はかなりな貧血になっていると考えてよいでしょう。
一般的には眼瞼結膜(まぶたの裏側)をめくって、白いかどうか確認するようですが、最近では アレルギーやコンタクトレンズによる炎症で赤くなっている場合も多いので気をつけましょう。

「舌診」は中医学独特のものと考えていらっしゃるかたも多いようですね。
もちろん医学的理論体系がきちんとしているのは中医学ですが、日本でも昭和初期のお医者さんは舌を診察しました。
なぜなら舌はその時の病態を良く表しますし、内蔵の調子やストレスがあるかどうかなど、数カ月前からの体調も類推出来るからです。
戦後、西洋医学が主流となってから医学を学んだお医者さんは、なぜか舌の診察をしなくなってしまいました。検査によって病気が判明しやすくなってしまった為かもしれませんね。

舌の色や形・苔のつき方などは人によってかなり違うものですし、自分の舌でも毎日観察してみると 体調によってずいぶん違っていることが分かります。
健康であれば色は淡紅色で薄く白い苔があり、形も整っていますが、貧血であると白っぽくなりますし、胃腸の調子が悪いと苔は黄色く厚くなります。ストレスがあると、舌の先が赤くなりますし、他にも沢山の情報を得る事が出来ます。

「脈診」は中医学独特のものです。手首にある橈骨動脈に触れてみて、その人の病態を伺うのですから、知識はもちろん経験も必要です。
脈の速さや強弱・流れ方・脈管の柔軟性などから、患者さんの健康状態を把握します。
なぜ分かるのかというと、先に説明しました「血」は「気」の働きによって押し流されているわけですから、「血」の流れる状態を診れば、その人の「気・血・水」の状態を伺い知ることができる・というわけなのです。
つまり身体のどこかに問題が起きれば、「気・血・水」に影響が及び、「血」の流れ方に現れるという事になります。

脈の流れ方は体調によってずいぶん違います。
健康な時でも走れば変わるくらい変化しやすいものなのに病態がつかめるのかと、疑問に思われる方も いらっしゃるかもしれません。そんな方は是非試しに、ご自分の脈に触れてみて下さい。
例えば安静にして横になっている状態でも、健康な時と病気の時では全然違います。
分かりやすいのは痛みがある時とか、発熱している時です。痛みがある時は緊脈といって張りつめたような脈になりますし、熱のある時は速くて浮いているような脈になります。

熟練した中医師や鍼灸師は脈からいろいろな情報を得ます。
気・血・水の状態や五臓のバランス状態、邪気の侵入の有無など、実に細かい事が分かるのです。
針灸治療の後では脈も変化し、治療前より落ち着いた脈になります。

以上のようにいろいろな角度から診察をして治療方針をきめていくのが中医学です。


では次に貧血について症状別にみていきましょう。

貧血は身体の栄養分である「血」が不足し、その働きが悪くなっている状態です。
主な症状は顔色に艶がなく土気色・唇や爪の色が薄い・めまい・動悸・疲れやすい・不眠・不安・手足の麻痺・月経が遅れがちなどです。

貧血の原因としては、長期的な出血の他に「血」をつくる機能の低下があります。
気血生化の源は「脾」ですから「脾」の働きが弱くなると気血が作られず貧血の状態(脾虚)になります。
この他、「血」に関係するのは「心」と「肝」で、「心」の働きが悪い時(心血虚)とか、「肝」の働きが悪い時(肝血虚)にも、「血」の働きが悪くなります。
さらに気血不足が進んで、陽気も損なわれた状態(脾腎陽虚症)でも貧血症状が現れますので、それぞれの症状と対応について書いておきます。

☆脾虚:気血を作る脾の機能が低下
  症状: 顔色に艶がなく土気色、めまい、食欲不振、疲れやすい、生理が遅れがち
舌質:淡  舌苔:白   脈:沈無力
  治療: 健脾益気
脾の機能を高め、気血を増やす作用のあるツボをつかいます。
  食品: 消化の良いものをとり、油もの冷たいものは避けましょう。
ほうれん草・にら・人参・ナツメ・松の実・梅・木耳・豚肉・牛肉など
(注:植物性食品の鉄分は、ビタミンCと一緒に摂ると吸収が良くなります)

☆心血虚:「心」の働きが低下した事による「血」の不足
  症状: めまい、動悸、不眠、不安、健忘、よく夢を見る
舌質:淡泊  脈:細弱
  治療: 補血安神
血を補い血流を良くして、精神的にも安定するようにします。
  食品: 三つ葉・にがうり・よもぎ・あさり

☆肝血虚:「肝」の働きが低下した事による「血」の不足
  症状: 顔色に艶がなく土気色、めまい、目が疲れやすい、爪がもろい、
毛髪に艶がない、手足のシビレ・ひきつり、月経が遅れがち、無月経
舌質:淡泊  脈:弦細
  治療: 滋補肝血
肝の働きを補い血の働きを良くするようにします。
  食品: あさり・ごま・春菊・三つ葉・キャベツ・しいたけ・小松菜

☆脾腎陽虚:気血の不足が陽気を損ない、さらに気血が不足した状態
  症状: 顔色が土気色、めまい、疲れやすい、寒がり、手足の冷え、足腰が重だるい、軟便、下利
舌質:淡 胖大   脈:沈細
  治療: 温陽助運
身体を暖めて脾の運化作用をたすける治療をします。
  食品: 身体を暖めるものをとり、冷やすものは避けましょう。
にら・小松菜・くるみ・黒ゴマ・羊肉・えび

以上のように、中医学では、一人の患者さんを全体的にみて、どこに問題があって、どのような進行状態であるのかを慎重に考えて、「証」をたて、治療方針を決めていきます。
患者さんの性格や生活環境も考慮しながら、日常生活のアドバイスをする事もあり、まさに全人的な医学です 。

身体に対してはもちろん、心に対しても優しく、学問的にも奥の深い中医学は、幅広くいろいろな疾患に対応することが出来ます。

当院では個人個人の体質に合わせた治療を行います。
お気軽にご相談ください。


◎ 当院での治療をお考えの方へ

= 本来の東洋医学の治療の姿に関して一言 =
当院では局所治療に限定せず、あくまでも身体全体の治療・お手当てを目的としております。
例えば、「ギックリ腰」や「寝違い」といった急激な痛みに対して、中医鍼灸の効果 は高いのですが、これも局所の治療にとどまらず全体的なお手当てを行なっているからなのです。

急性の疾患にせよ慢性の疾患にせよ、身体の中で生じている検査などには出てこない生命活力エネルギーのバランスの失調をさぐり見つけ出すことで、お手当てをしております。
ゆえに慢性化した、慢性の症状を1〜2回の治療で治すというのは難しいのです。
西洋医学で治しにくい病・症状は、中医学(東洋医学)でも治しにくいのは同じです。ただ、早期の治療により中医学の方が治し易い疾患もございます。
例えば、顔面麻痺・突発性難聴・頭痛・過敏性大腸炎・不眠・などがあります。
大切なのは、あくまでも違う角度・視点・診立てで、病・症状を治してゆくというところに中医学(東洋医学)の意味合いがございます。

当院の具体的なお手当てとしては、まず、普段の生活状況を伺う詳細な問診や、舌の色や形などを見る舌診などを行い、中医学(東洋医学)の考えによる病状の起因診断を行います。
これは、体内バランスの失調をさぐり見つけ出すために必要な診察です。この診察を踏まえたうえで、その失調をツボ刺激で調整し、元の良い(元気な)状態へ戻すことが本来の治療のあり方です。
又、ツボにはそれぞれに作用があり、更にツボを組み合わせることで、その効果 をより発揮させる事が出来ます。

しかしながら、どこの鍼灸院でもこの様な考えで治療をおこなっているわけではありません。一般 的には局所的な治療を行なっている所が多いかと思います。

少しでも多くの方に本当の中医鍼灸をご理解して頂き、お体のために役立てていただければ幸に思います。

 


home

Copyright2002 by YANG CHINESE MEDICINE CLINIC .all rights reseserved.
This material may not be copied without written from
YANG CHINESE MEDICINE CLINIC.