今回のテーマは脳卒中の後遺症です。
皆さんは脳卒中の後遺症に対しての針治療は、麻痺のある部位にのみ針を打つと思っている方もいらっしゃると思います。
しかし、それは大きな間違いなのです。中医針灸では麻痺の部位にも針を打ちますが、頭から足の先まで針を打ちます。例えば顔の歪みの治療であっても足の甲のツボを使います。
ではどうして麻痺の無い足にまで針を打つのでしょうか?それは中医学の生理観が我々の親しんでいる西洋医学の生理観とはまったく違うからなのです。中医針灸とは、決して患部にのみ針を打つような単純な治療ではないのです。

さて、中医学については後程説明するとして、先ずは皆さんが慣れている西洋医学の観点から話を始めたいと思います。

皆さんは「脳卒中」以外に「脳」という字が付く病気を幾つ知っていますか?
「脳梗塞」「脳軟化症」「脳塞栓」「脳血栓」「脳出血」「脳溢血(のういっけつ)」・・・などがあります。
皆さんもいくつか知っている病名があったと思いまが、違いがおわかりになりますか?
実は今挙げた病名は全て『脳卒中』なのです。つまり脳卒中とは、1つの病気を指す病名ではなく、いくつかの病気の総称なのです。そして今挙げた他に皆さんもよくご存知の「くも膜下出血」なども脳卒中に含まれます。
ここで、脳卒中の説明に入る前に脳卒中について、少し恐ろしい数字を皆さんに紹介したいと思います。決して脳卒中は他人事でないことが実感できると思います。


▼日本は脳卒中がとても多い国ってご存知ですか?▼
1951〜1970年まで、脳卒中は日本国内の死因の第一位でした。実に10万人に125〜176人の方が亡くなるという高率でした。その後1970年をピークに死亡率は減少しはじめ、1981以降は癌が死亡率の第一位 となり、1986年には心臓病が第二位となりました。以降、脳卒中は第三位 を続けております。(1995〜96年は再び第二位となりましたが、1997年以降再び入れ替わり第三位 となっております。)
2000年では死因の13.3%を占めておりました。いかがですか、皆さんはこの数字をどう思いますか?
「なんだー、患者数は減ってるんだー」とか「多いと言っても三位なんだー」と思われますか?
では、もう少し具体的な数字を使ってみましょう。まず、今紹介した数字は「脳卒中が死因の第三位 」ということです。つまり、患者数が減っているのではなくて、減っているのは死亡率のみなのです。あくまでも脳卒中で死ぬ 確立が低くなったということです。
では総患者数はどの位かというと、癌の総患者数127万人に対して脳卒中は147万人です。しかも癌の場合は体の全ての癌を含んだ数字です。これで患者数は脳卒中の方が多いことがわかります。
次に死亡数を見てみると、脳卒中で亡くなる人数は年間で13万人です。これは癌で亡くなる人の半数だそうです。しかし、交通 事故で亡くなる方は年間1万人位ですから、三位とは言っても、いかに13万人という数字が多いかがわかっていただけると思います。因みに日本の脳卒中の死亡率は欧米の2倍だそうです。
さて、日本の脳卒中患者数が多いことがわかっていただけたところで、脳卒中自体の説明に入りたいと思います。今回は『脳卒中の後遺症』というテーマですが、脳卒中だけでなく「生活習慣病」にも少しスポットを当ててみたいと思っています。「生活習慣病」は脳卒中と深い関係がありますし、皆様に少しでも正しい生活習慣の大切さが伝わればと思っています。


▼現代医学からみた脳卒中▼
ところで、皆さんは「脳血管障害」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?「脳血管障害」とは読んで字のごとく、脳の血管の障害です。例えば、脳の血管が詰る(虚血性病変)・又は破れる(出血性病変)などがあります。
脳卒中は脳血管障害によって、障害が起きた血管の先へ栄養が送られなくなってしまい、細胞が死んでしまうことにより、急に倒れる・大小便の失禁・半身麻痺・ロレツが回らない・などの発作を起こす疾患です。脳卒中は生活習慣の積み重ねで起こる生活習慣病の一つです。急性の発作により死亡することも珍しくなく、回復しても後遺症が残り易く長期のリハビリテーションが必要とされています。死亡率は低下したものの後遺症に悩まされている方はとても多いのが実情です。


=脳卒中の分類=
冒頭でも触れましたが、脳卒中とは脳血管障害による病気の総称ですので、ここで1つ1つ説明してゆきましょう。
脳血管障害には血管が詰まって起こる【虚血性病変】と、破れる場合【出血性病変】の2通 りあります。脳卒中を分類する場合は、まず大きく虚血性と出血性に2分します。

1.【虚血性病変】
虚血性病変とは血管に何かが詰まって起きる病変で、皆さんもよく耳にする『脳梗塞』がこれに当たり、『脳軟化症』ともいわれます。
更に脳梗塞は、心臓や比較的太い血管にできた血栓などが脳に達して血管を閉塞させる「脳塞栓」と、血管に血栓が生じて血管を閉塞させる「脳血栓」に分けられます。
更に、「脳血栓」は、コレステロールの固まりが脳の太い血管の内側にできることにより、血管を詰まらせる「アテローム性梗塞」と、動脈硬化により脳の深部の細い血管が詰まる「ラクナ梗塞」に分けられます。『脳梗塞』は脳卒中死亡の62.4%(2000年)を占めると言われております。上記のことからも動脈硬化やコレステロールが怖いことがご理解いただけると思います。
又、『一過性脳虚血発作』というものあります。これは脳の血管が微小の塞栓によって起こり、24時間以内に回復するものをいいます。年間発症率は約5%といわれております。症状は一時的に半身麻痺が起きたり言葉が喋れなくなったりするのですが、血流が回復すれば症状は消えてしまいます。しかし、一過性脳虚血発作は「脳血栓症の前触れ」と言われ、一時的とはいえ脳の血管が詰まったわけですから、再度詰まる可能性があるわけです。実際に一過性脳虚血発作患者さんの脳梗塞へ移行する確立は30%と言われており、発作発症後1年以内、特に1ヵ月以内の脳梗塞発症がもっとも高い状況です。もしこの様な状態になったら必ず専門医の受診をして下さい。


2.【出血性病変】
出血性病変とは脳の血管が破裂して出血を起こす病変で『頭蓋内出血』がこれに当たり「脳溢血(のういっけつ)」ともいわれます。血管が破れる位 置によって更に「脳出血」「くも膜下出血」に分かれます。
脳内の細い血管が破れて起こるのが「脳出血」です。高血圧や動脈硬化などが主な原因になり、精神的緊張・飲酒・過労・などが誘因となります。脳卒中死亡の23.4%(2000年)を占めます。
さて、脳は3層の膜に覆われており、内側から軟膜・くも膜・硬膜といいます。このくも膜と硬膜の間の血管が破れて起こるのが「くも膜下出血」で、年間10万人に15〜17人前後発症しているといわれています。原因の90%以上が脳動脈瘤破裂によるもので、脳卒中死亡の11.2%(2000年)と言われております。
(参考;本来、頭蓋内出血は出血の起きた場所によって、硬膜外出血・硬膜下出血・くも膜下出血・脳葉型出血・外側型出血・内側型出血・橋出血・小脳出血・といった具合にもう少し細い分類があります。)
因みに、1950年代まで「出血性病変」の方が多かったのですが、今では「虚血性病変」の方が多いようです。以前は高血圧の治療やコントロールが上手く出来ていないところに加え、食生活においても高塩分・低脂肪食により血管が弱くなっていたために多かったようです。しかし現在は肥満・糖尿病・高脂血症が増えたため「虚血性病変」のほうが多くなってしまったのです。


=脳卒中の危険因子=
次に一般的な危険因子を紹介します。

*大量飲酒
一日にアルコール換算で30ml以上の飲酒をされている方に脳卒中で死亡される方が増えています。(アルコール換算で30mlとは、ビールなら中ビン1本・日本酒では1合・ワインは2杯・ウイスキーはダブルで1杯・焼酎はぐい飲み1杯に値します。)

*たばこ
一日に40本の喫煙をされる方の脳卒中の死亡者数は、吸わない方の40倍と言われております。

*運動不足
運動不足は、肥満・糖尿病・高脂血症・高血圧を招きます。

*肥満
肥満は、高血圧・高脂血症・糖尿病を招きます。

*脳塞栓は、心房細動・心筋梗塞・僧房弁狭窄症・感染性心内膜炎、といった心疾患を持っていると発症しやすいです。


=主な症状=
脳は大きく「大脳」「小脳」「脳幹(間脳・中脳・延髄・橋)」に区分することが出来き、さらに各々が細かく区分されております。そして各区分ごとに働きが異なります。
したがって、脳卒中の症状は梗塞や出血が起きた場所によって症状が異なるわけです。又、左右でも違差があり、例えば左の脳に梗塞が起きると右半身に運動障害・知覚障害などが発症します。又、右利きの方で左の大脳に梗塞が起こると、言語障害が伴いやすかったりします。では、それぞれの疾患別 に特徴を説明します。


**脳梗塞**
主な症状としては、
麻痺・知覚障害・失語・失行・意識障害・感覚障害・病態失認・半側空間無視・同名半盲
自発性の低下・眼球運動異常・回転性のめまい・などがあげられます。
(失行とは:麻痺がないのに、ある目的を持った動作が困難な状態です。)
(同名半盲とは:両目の麻痺側半側の視野が欠損してしまう状態です。)


○アテローム梗塞○
症状としては、発症に先立ち、先程説明した「一過性脳虚血発作」が起こることがあると報告されています。
片麻痺・片側の感覚障害
優位半球(右利きの人であれば、左脳)の障害であれば:失語・失認・失計算などの症状
非優位半球のしょうがいであれば:着衣失行などがあげられます。
又、意識障害も認められますが、麻痺などに比べると軽度のことが多いようです。
(失認とは:知能障害がないのに物体や概念の認知・把握が困難な状態です。)
(着衣失行とは:麻痺がないのに着衣ができない状態です。)


○ラクナ梗塞○
アテローム型と異なり、「一過性脳虚血発作」が前駆することは少ないようです。又、意識障害も通 常は認められません。80%が無症状ですが、多発すると脳血管型痴呆の原因となります。


○脳塞栓○
脳塞栓の症状の特徴は急激に発現することがあげられます。片麻痺など、局所的な症候が特徴です。
主な症状としては意識障害・失語・病態失認・脳浮腫があげられます。


○一過性脳虚血発作○
大部分の患者さんは運動障害を認めることが多いようです。又、1回の発作中に体の一部分に感覚障害が認められ、他の症状は伴いません。一般 的には、発作は5分以内(多くは2分以内)に極期に達し、持続時間は2分〜15分と言われております。


**脳出血**
突然の激しい頭痛に襲われ、続いて麻痺や意識障害などが起こることが多いようです。脳出血は頭蓋内で出血が起きているため脳梗塞に比べて頭蓋内の圧力は高くなっております。そのため意識障害は出現しやすいといわれています。
症状については、脳梗塞と同様に出血が起きている部位によって異なりますが、主な症状としては以下になります。
片麻痺・知覚障害・意識障害・瞳孔が縮む・眼球運動の障害・四肢麻痺
呼吸障害・嘔吐・嘔気・めまい・頭痛・歩行障害・運動失調・失調性失語
ケイレン・一過性の精神症状・半盲・失書・失読
優位半球の障害 :失語     非優位半球の障害:失認・失行


**くも膜下出血**
経験したことがない激しい頭痛が突然生じ、嘔気・嘔吐を伴います。頭痛の特徴としては、「後頭部をハンマーで殴られたような痛み」としてよく表現されます。また、頭痛の発症時間を患者さんが正確に言えるほど突然に発症します。頭痛の部位 は額や後頭部が多いようです。軽症の場合は目の奥や側頭部の痛みが数日間続くこともあります。ケイレンなどもよく起こります。意識障害については、ボーっとする程度のものから、数日間意識がはっきりしないものまであり、意識がなくなり急死することもあります。意識障害は約半数に認められ、片麻痺などの局所神経症候は通 常示しませが、場合によっては、局所的神経症候を伴う場合もあります。


▼脳卒中の主な治療法▼
先ず、CT・MRI・MRAなどを使用して脳のどこにどのような異常があるのかの検査に加え、家族などの病歴などを参考にして適した治療が行われます。又、脳塞栓の場合は脳の検査のみでなく、心エコー・心電図・頚動脈エコー、といった検査を行い、塞栓源の発見に努めます。必要であれば手術が行われ、それ以外の場合は内科的治療が行われます。

=手術=
手術により血管の中の血栓を溶かしたり削ったりします。また、破れた血管にクリップをかけたりもします。

=内科的治療=
主に点滴により血栓を溶かす薬などを投与します。また、脳浮腫や肺炎の防止に努めます。

=治療の段階=
脳卒中の治療の段階は急性期と回復期(慢性期・維持期)に分けられます。
急性期とは脳内の病変がまだ進行中だったり、意識障害があって生命の危険が残っている状態です。発症から数日〜4週間の間を言い、その後を回復期といいます。
上記の治療は主に急性期に行われ、慢性期はリハビリが主体になりますが、再発防止のため、血液が固まりづらくなる薬(抗血小板薬)を使用します。


▼脳卒中のリハビリテーション▼
リハビリテーション科の外来・入院患者の50〜60%はなんと脳卒中の患者さんだそうです。ここでも、日本の脳卒中の患者さんの多さがうかがえます。

=急性期のリハビリ=
病気で入院をしてベッドに横になっていると、本来の病気とは関係の無い様々な症状が出てまいります。このような二次的障害を「廃用症候群」といいます。これらの症状は入院後数日から現れ、回復には何倍もの時間がかかったり、最悪の場合は治らないこともあります。
具体的には、筋肉の萎縮・関節が動かなくなる・骨粗髪症・尿路結石・循環障害・床ずれ・意欲の低下・不眠・痴呆・失禁・頻尿・便秘・などの症状があらわれます。
そして、この廃用症候群はリハビリテーションの阻害因子になります。そして、急性期はこの廃用症候群が急激に起こっている時期でもあります。したがってこの時期は、先ず、呼吸管理・血圧管理・呼吸器や尿路の感染予防などの全身管理が大切で、次に血圧が安定し嘔吐・痙攣などの急性症状が落ち着いたら、廃用症候群予防のリハビリを出来るだけ早期に開始します。又、起立性低血圧の予防のための訓練も早めに開始します。

=回復期のリハビリ=
急性期を脱して、生命の危険がなくなり意識が清明となったら本格的なリハビリの開始です。具体的には自力による、寝返り・起き上がる・座る・立つ・歩く・といったことから、ベッド上での自立動作・トイレ動作・移動動作・整容行為・食事行為・更衣の自立・入浴更衣・といった訓練をおこないます。そして、退院後は自宅でのリハビリになります。

=脳卒中リハビリテーションのまとめ=
脳卒中のリハビリ訓練は発症後6ヶ月までは集中的な訓練が必要と言われております。その後は継続的な訓練を行うことで、ゆるやかではありますが回復すると言われております。ですから、リハビリは根気強く続けることがとても大事になってきます。そして何より大切なのは本人のやる気と家族の支えです。「病気に負けない」という強い意志がとても大切になってきます。

いかがでしょうか、西洋医学の見地から「脳卒中」について、その原因からリハビリテーションまでを簡単に説明してみました。ご理解していただけたでしょうか?
いつもなら、次に中医学から見た「脳卒中」の説明に入るのですが、今回はもう少し西洋医学的な話にお付き合い下さい。

 


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