★★中医学から見た発熱★★
中医学も現代医学と同様に医学です。医学である以上そこにはしっかりとした学問体系や理論が存在します。医学には正常な身体の状態を考える『生理観』(現代医学では生理学や解剖学など・中医学では臓腑学や経絡経穴学や気血津液学など)というものがあり、その上に病気の成り立ちを考える『病理観』(現代医学では病理学・中医学では病因学説や病機学説)が存在します。
つまり、病気を理解するためには、まず正常な身体の仕組みや構造を理解しなければ病気を理解することは出来ません。ですから、まずは中医学の生理観を理解しないと、中医学から見た病気も理解することは出来きません。
しかし中医学の生理観は現代医学のそれとは全く異なった考え方をし、とても奥深いもので簡単に理解することは出来ません。そこで、とりあえず「発熱」に関係する生理観にしぼって説明をさせていただきます。


★中医学の基礎概念★
≪気・血・水≫
中医学では人の身体は「気」「血」「水」の三つの物質により構成されると考えます。そしてこれらが多くも少なくもなく適量 で、バランスよく且つスムーズに流れてこそ健康でいられると考えます。

『気』
気とは「人体を構成し、人体が生命を維持するための基本物質の一つ・臓腑の生理機能」と定義されております。何だか、分かった様な、分からない様な感じですね。
本来は「気」の説明だけでも数冊の本が書けてしまうほど深いものなので、一言で理解しようとするのは不可能なことです。しかし、中医学を理解するには「気」の概念を理解する必要があるのも事実です。そこでここでは「発熱」を理解するのに必要なものだけを出来るだけイメージしやすい様に簡単に説明します。

*気の作用*
気の働きは多種多様ですが、その中で主だった物としては、物を動かす「推動作用」・栄養に関わる「栄養作用」・身体を温める「温煦作用」・身体を守る「防衛作用」・物を変化させる「気化作用」・体内から血や栄養物が漏れるのを防ぐ「固摂作用」など様々な働きがあります。
ここで「推動作用」について少し補足をしておきます。推動とは「推進」・「促進」の意があり、臓器の活動促進や気血の流れの推進の作用があります。ですから推動作用の低下は気血の流れの滞りを起こすことがあります。

*気の種類*
気には「元気(原気)」「宗気」「営気」「衛気」「臓腑の気」「経絡の気」と言った具合に種類があり、その種類によって構成要素や働きが違います。
この中の「元気」「宗気」「衛気」については発熱そのものや、随伴症状に関係しますのでもう少し詳しく説明します。

「元気」
真気・原気とも言われ、生命活動の原動力になります。作用も様々で臓器の機能を発揮させたり、成長発育の促進などがあります。元気の不足は様々な症状が現れます。また、元気の不足から推動作用の低下といった具合に、元気の不足は様々な気の作用の低下にもつながります。

「宗気」
宗気は先程説明した気の作用の中の「推動作用」と深く関係し、特に胸部に集まって来るので心拍運動や呼吸運動の促進や発声の働きがあります。

「衛気」
衛陽とも言われ、体表を保護し体外から体を襲う病気の原因(外邪)から人体を守る働きや、汗孔の開閉調整を行い体温の調整をしております。体外から病気の原因となる物に襲われると、衛気が閉塞を起こすことがあり発熱を発症させることがあります。又、衛気は温煦作用も強いため、衛気が寒邪に障害されると悪寒や冷えの症状がでます。
(寒邪については後ほど説明します)

気は本来スムーズに流れていなければなりません。しかし、何かしらの原因で気の流れが滞ることがあります。この状態を「気滞」と言います。長期間の気滞は熱を生むことがあり、これを「気鬱化火」と言い発熱の原因になることがあります。

『正気』
人体の抵抗力や回復能力を指します。人体を襲う病気の原因(病邪)に対して体はその構成物質である「気・血・水」の全てを使って戦います。したがって「気・血・水」のどれか一つでも欠けても抵抗力は落ちてしまいます。「正気」とはこれら全てを含んだ病邪に対する抵抗力のことです。

『血』
血の作用は、全身を栄養し潤すことや、精神活動を支えるなどがあります。本来は血も気と同様にスムーズに流れていなければなりません。しかしながら、何らかの原因で血の流れが滞ることがあります。これを「オ血」と言い、発熱の原因になってしまうこともあります。

『水(津液)』
水は津液とも言い、体内にある正常な水液のことをいいます。主な作用としては身体の各部所に潤いを与えたり、体が熱くなり過ぎないように冷却する働きがあります。又、体表で衛気とともに体外から襲ってくる病気の原因物質(外邪)の体内への侵入を防いでいます。


《内臓(五臓六腑)》
さて、次は内臓です。よく「五臓六腑にしみわたる」などといいますが、この五臓六腑が中医学の考える内蔵のことです。
西洋医学のそれとは異なり東洋医学では内臓を物体として区別するのではなく、働きで区別 します。六腑は飲食物の消化吸収を行い、五臓が栄養分から「気・血・水」を作ったり運んだり貯蔵をしています。
具体的に五臓とは「肝」「心」「脾」「肺」「腎」があり、六腑には「胆」「小腸」「胃」「大腸」「膀胱」「三焦」があります。
先程の働きの他にも五臓六腑には沢山の働きがあります。しかし、各々の臓腑は西洋医学と同じような働きもあれば、西洋医学では考えられない働きもあります。それは、西洋医学と同じ臓腑の名前を使ってはいますが、冒頭で説明したように中医学では臓腑の働きに注目しておりますので、名前が同じでも全く同じ物を示しているわけではありません。こういったところが皆さんが混乱してしまうところだと思います。
ですから、今から発熱に関係のある臓器ついて説明をいたしますが、名前が同じでも西洋医学のそれとは違う物という認識で(別 物と思って)これから先を読まれた方がよろしいかと思います。

『肺』
肺の主な働きは、呼吸・宗気の生成・水液代謝の調整・全身の気の調整・鼻や皮膚の生理機能の管理などがあります。この中で、今回理解していただきたい作用は、全身の気の調整・水液代謝の調整・皮膚の生理機能の管理です。
全身の気の調整や水液代謝の調整といっても多種多様ですが、特に肺は「宣発・粛降」と言い、気や水液を全身に行渡らせる働きをしています。
皮膚の生理機能の皮膚とは体の表面部をさしますので、皮膚以外に、汗腺・うぶ毛を含みます。肺はその宣発作用で衛気と津液で皮膚表面 を養っております。このことによって体外から襲ってくる病気の原因物質(外邪)の侵入を防いでいます。
又、肺は汗を排出したり、逆に排出を抑えたりもしています。ですから、肺の失調は汗が大量 に出たり、逆に全く出なくなったりします。

『脾』
脾の生理作用としては、運化を主る・昇清を主る・統血を主る・肌肉を主る・四肢を主する などがあります。
この中で発熱の症状に関係がある作用は、運化作用です。
運化作用とは「消化・吸収」のことです。脾は消化・吸収の全てを統括しています。又、吸収した栄養分を肺まで送ります。
ところで、脾のある場所から肺に栄養分を送るということは、言い代えれば栄養分を肺まで持ち上げるということになります。ですから、持ち上げる物は出来るだけ軽い方が効率が良いわけです。ところが何らかの原因により体内に余分な水分が溜まると、その湿気が体内の様々な物を重くしてしまいます。その結果 、運化作用の機能低下が起こります。又、運化作用が低下すれば当然、食欲不振や下痢が起こります。
脾の上に持ち上げる作用を「昇提作用」と言い、栄養分以外にも「気」を持ち上げたり内臓を下垂させない働きがあります。
もし「昇提作用」が低下すると、「気」が上に昇れなくなり、めまい・だるい・息切れ・内臓下垂といった症状が現れます。この様な状態を総称して「脾気下陥」といいます。気の不足(気虚)による発熱の機序になりますので覚えておいてください。
又、「思は脾の志」とされていて、脾は思い悩むと損傷され易い臓器です。
その他に「甘は先ず脾に入る」と言われ、甘味には脾胃を調和してくれる作用がありますが、甘味の食べ過ぎは湿を生み、脾胃を損傷させ作用低下をまねきます。

『心(しん)』
心の主な作用は血の循環と精神活動の統括になります。
心は血と深い関係があり、特に心が関与している血のことを心血(しんけつ)と言い、心が関与する血の不足を「心血虚」といいます。心血は心を養っておりますので、「心血虚」は心の様々な症状を発現させます。
また、精神活動の統括は発熱の随伴症状に関係があり、心が損傷されると精神活動が不安定になってしまいます。その結果 、不眠や精神不安といった症状が発現します。

『肝』
肝の主な作用は、疏泄を主る・血を蔵す・筋を主る・などがあります。この中で発熱と関係が深いのは、疏泄作用と蔵血作用です。
疏泄作用には、「気機の調整」・「消化吸収の促進」・「精神活動の調整」があります。先ず、この中の「気機の調整」に注目してみましょう。
気機の調整とは、気血の流れなどスムーズにして体内の機能の働きを促進させる作用です。
ですから、肝はスムーズな状況をとても好みます。また、五行説では「木」に属し、ノビノビした状況を好みます。逆を言えば肝はストレスを嫌います。もし、ストレスにさらされると肝の気は渋滞を起こします。この状態を肝鬱と言い、さらに長引けば熱化してしまいます。これを「肝鬱化火」と言い、「肝鬱による発熱」の病理機序になりますので覚えておいてください。
次に、精神活動の調節ですが、「心」は精神活動の統括をしておりました、それに対して「肝の疏泄作用」は心の機能を促進させております。つまり、精神活動は心と肝が協力して行われていると理解してください。
次に肝の蔵血作用ですが、肝は血を貯蔵するだけではなく、例えば運動時など血が多量 に必要な時には貯蔵してある血から補給も行います。つまり、血流量 のコントロールをしているわけです。この肝に貯蔵されている血のことを「肝血(かんけつ)」と言い、肝血の不足を肝血虚と言います。

『胆』
胆の主な働きは、胆汁の貯蔵と決断です。胆汁はとても苦いですから、胆や肝が失調すると、口の中が苦くなります。

『三焦』
三焦は西洋医学には存在しない臓器ですが、中医学ではとても大事な働きをしております。三焦とは簡単に言うと、気や水液の循環通 路です。もし、湿や湿熱が三焦に留まると発熱を起こすことがあります。


《経絡》
経絡とは、一言で言えば気血水を全身の各部位へ運ぶための通路みたいなものです。経絡の作用は「生理作用」「病理作用」「治療作用」の3つにわけられます。上記の気血水が流れる経路としての働きが「生理作用」になります。ところが経絡が何らかの病因物質によって塞がれてしまうことがあります。
経絡は人体を縦方向に走る「経脈」と経脈の分枝の「絡脈」に分かれます。又、経脈の中には正経12経と言われる経脈があり、これは経脈の中でも特に重要なもので、それぞれ一対の臓腑と深い関係があります。例えば、肝や胆が失調を起こすと、それに関係の深い経脈が走行している胸脇部が張った感じがします。この症状は「湿熱による発熱」や「肝鬱による発熱」の随伴症状で発現しますので覚えておいてください。


《病因》
病因とは病気となる原因のことです。中医学ではこの病因を「外因・内因・不内外因」の3つに大別 します。

『外因』とは身体の外の環境が病因となるものをさします。これらは「風・湿・熱(火)・暑・寒・燥」の6種類あります。これらを総称して「外邪(がいじゃ)」とか「六淫」といいます。
この中で特に「発熱」と関係があるのは「風」「寒」「湿」「暑」です。

「風」
特に春に多く見られますが、どの季節にも発生します。また、「風は百病の長なり」といわれ、他の外邪を連れてやってきます。この様な場合は風寒・風熱・風湿といった具合に複合した邪になります。
自然界では風は枯葉などを空高く舞い上げます。又、熱は対流により上に昇って行きます。体内でもこれと同じように、風や熱は上昇部を侵しやすい特性があります。

「寒」
冬に多く見られますが、冬以外でも、雨に濡れたり、汗をかいた後に風に当たると寒邪が入り込みます。
寒邪は一番イメージしやすい病邪で、陰性が一番強く陽気を傷害させ体を冷やします。
又、寒邪の特性の一つとして凝滞性があります。これは種々の物質は冷えることによって流動性が失われるのと同様に、人体も寒邪に襲われると気血の流れが滞ってしまいます。
他には収引性があります。これは一般に筋肉などは温めると弛緩しますが、寒い所などでは、かじかんでしまって動かせなくなってしまったりします。寒邪はこの様に収縮させてしまう性質があり、毛竅を閉塞させ気の出入りや発汗を抑制してしまいます。

「暑」
主に夏場に見られます。これもイメージしやすい外邪で、体内に入り熱化してしまいます。

「湿」
梅雨時期に多く見られます。湿の特性は「脾を傷(やぶ)りやすい」とあります。湿は脾の持つ運化作用の失調を招きます。
又、湿邪と熱邪が同時に体内に入れば「湿熱」といいます。
湿は「重い」という特性があります。水が高いところから低いところに流れるのと同じように、体内の湿もどちらかと言えば体の下部を侵します。
又、湿は更に悪化して痰に変わることもあります。


☆外邪の体内への侵入ルート☆
外邪が体内へ侵入する場合は、人体と外界の接点である表皮の孔と呼吸器(鼻・口)から侵入してきます。外邪が体表付近にいる場合は表証といい、体内に侵入してきていると裏証といいます。同じ病因であっても表証と裏証とでは症状も治療法も違ってきます。

『内因』とは体の内部の環境が病因となるもので、具体的には過度の精神状態が病因となるものをさし、「喜・怒・思・悲・恐・憂・驚」の7種類あることから、これらは七情と呼ばれます。
七情は健康な方も持っていますが、これらの感情が過度であったり、長時間持続的に続く場合は正常ではありません。この様な状態を「情志失調」といい、病因になってしまいます。
ところで、現代医学では感情の変化と内臓の相関関係はまだ認められていませんが、中医学では感情の変化が各臓腑と深く結びついており、情志の失調が臓腑の働きに障害をおよぼすと考えています。以上の理由から七情が病因に含まれているのです。
では、せっかくですから結びつきの深い五臓と七情のペアーを紹介しましょう。

喜⇔心 怒⇔肝 思⇔脾 悲⇔肺 憂⇔肺 恐⇔腎 驚⇔腎
これらのペアーはお互いに刺激しあいますので、五臓に異常が発生すれば感情も変化し、逆に過度な感情は臓器を障害してしまいます。

この中で発熱と関係があるものは、
○思は脾に属し、思い過ぎると脾を傷る・思えば則ち気は結ぶ○
思とは、「思考・思慮」のことをさします。正常な思考は悪い影響は与えませんが、過度の思慮は脾を損傷してしまいます。
思慮により精神疲労が過度になると、気の流れがスムーズでなくなり、脾の運化作用に影響がおよび、食欲不振や消化吸収障害が発症してしまいます。
これらの症状は栄養素の摂取の障害につながり、ひいては気血不足を起こします。
また、脾の運化作用に影響がおよぶということは湿を産むことにも繋がります。

『不内外因』とは内因・外因のどちらにも属さないものをさします。これらは「不節な飲食・外傷・寄生虫・過労・運動不足」などがあります。この中の「不節な飲食」について補足します。
不節な飲食とは、飲食偏嗜(偏食)と飲食不潔があります。
飲食不潔は、腐敗物の飲食や細菌・毒物・寄生虫の感染などを言います。
飲食偏嗜は「肥甘厚味の過食」「生冷の過食」「辛辣の過食」「飲酒の過度」などがあります。
「肥甘厚味の過食」は甘い物・脂っぽく脂肪分の多い物・味の濃い物などの食べすぎのことを言います。
「生冷の過食」は生ま物と、冷たい物の採り過ぎを言います。
「辛辣の過食」は辛くて熱い味の物の採り過ぎをいいます。
「飲酒の過度」はお酒の飲みすぎです。
この中で「肥甘厚味の過食」「生冷の過食」「飲酒の過度」は脾胃を損傷させ、結果 的に「気虚による発熱」や「湿熱による発熱」を招きますので覚えておいてください。


《陰陽》
陰陽とは古代中国哲学を構成するものの一つで、中医学にもその考え方は深く影響を及ぼしています。陰陽は一言で説明しきれない奥深いものですので、ここでは簡単に説明します。
陰陽とは「全ての事物や現象には相反する二面性があり、これらは対立しあいながら統一し、互いに色々影響しあう事によりバランスをとっている」という考えです。つまり、陰と陽のバランスが取れていれば自然界は平常な状態です。例えば、上下・左右・内外・夜昼・男女・静動・・・・・と言った具合です。この理論に医療実践を積み重ね確立されたものが「陰陽学説」です。
さて、陰陽が人間に及ぼす影響は多種多様ですので、「発熱」に関係することのみを説明します。
陰陽を寒熱で分類すると、陰が寒性で陽が熱性に分けられます。陽は体を温める作用があり、陰は体を冷やす作用があります。陰陽のバランスが取れていれば体温は平常体温ですが、陽気の亢進や陰気の不足は熱症状を、陰気の亢進や陽気の不足は冷えの症状が現れます。このように陰陽関係のバランスが崩れてしまうことを「陰陽失調」といいます。
又、「気の種類」で説明しました「衛気」は陽に「営気」は陰に属し、陰陽失調から「営衛不和」を招き発熱の原因になることもありますので是非覚えておい下さい。
次に人間の基礎的構成物質である「気・血・水」を陰陽で分類すると、気は陽に血と水は陰に分類されます。これも後ほど、発熱の症状で出てまいりますので覚えておいて下さい。

さて、発熱を理解するために必要な知識を紹介したところで、いよいよ発熱についての説明に入りたいと思います。

 


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