お年寄りの方も、若年の方も、「腰痛」で悩まれている方は多いのではないでしょうか。
人間が二足歩行である以上、腰に負担をかけることは、避けては通れない道なのかもしれません。
「腰痛」は、No.14で取り上げられた疾患ではありますが、今回は中医学的な観点で、さらに詳しく 腰痛を述べていきたいと思います。
ただし、内臓疾患の反射痛が原因の腰痛については、ここでは割愛させていただきます。
予めご了承ください。


<体内を構成する物質「気」「血」「津液」>

「病気別“わかる”東洋医学診断」の熱心な読者の方は、もうご存知かもしれませんが、人体は、 「気」「血」「津液」の3つの「物質」により成り立っています。

気(き)     → 生体の原動力
血(けつ)    → 体内組織への栄養源
津液(しんえき) → 体内組織の必要な水分

これらの「物質」が失調することで、体内のバランスが崩れ、限界点(人それぞれ異なります)に 達したところで、様々な症状として現れます。

<気血津液の失調>
これらの物質の失調は、必ずしも目に見えるものではなく、現代医学の検査における数値にも現れることはありません。しかし、これらの物質は、中国の伝統医学において、帰納的な裏付けのもとで、確実に存在していると位 置付けられてきたものです。
ですから、検査の結果、数値には異常がないのに体の状態がおかしいといった場合にも、処置や予防をすることができるのです。

腰痛についても、これらの物質の失調は、大きく関係してきます。

◇腰部における気血の運行障害によるもの
中医学では、「不通則痛」という言葉があり、これは気血の流れがスムーズに流れない状態であると、痛みを感じるというものです。
腰痛においても気血の運行障害により、痛みを誘発します。

◇気血が不足し腰部の滋養不足によるもの
気血が不足すると、筋骨を栄養できず、時に痛みとして現れます。
特に、中医学では、「腰部は腎の腑」と言われ、腰痛と腎には大きな関わりがあります。


<腰痛の原因>

では、気血の失調はどのようにして起こるのでしょう。中医学的な観点で原因を述べていきます。

◇外傷によるもの
・重いものを持った時の急性腰痛
・激しい運動をしている時に起きた急性腰痛
・事故の後遺症
これらは物理的な「外傷」が原因と言えるでしょう。「外傷」では、筋骨の損傷に加え、血の滞った状態である「お血」を誘発することが多々あります。

[症状]
腰部の刺痛、固定痛
  腰部の経脈に血が停滞することで、気血の運行が悪くなり痛みとして現れます。

夜間に痛みが増悪
  夜間は陽が弱まり、気の流れが悪くなります。そのため、血の運行も悪くなり痛みが増悪します。

局部の血腫
  お血が停滞しているために、血腫として見えることがあります。


◇六淫(ろくいん)によるもの
 「六淫」は、気候の異常であり、「風」「湿」「暑」「熱」「燥」「寒」という6種類の気候異常を言います。簡単に言ってしまえば、「湿度」と「温度」の著しい変化と言えるでしょう。

気候の著しい変化によって、その変化に体が対応しきれない場合に、腰痛が現れることがあります。例えば、梅雨時期に腰痛をぶり返すと言ったことは、  「湿」という「六淫」の一つが原因と考えられます。
腰痛では、特に「寒湿」と「湿熱」が関係しやすいと考えられています。

―寒湿―
冷気と湿気の多い環境で生活や仕事をしたり、梅雨時期で気温が低い時に関係しやすい「六淫」です。また他にも、運動で汗をかいて、それを長時間拭かずにいたりしても、「寒湿」による腰痛になることがあります。

[症状]
腰部が重だるく冷えて痛む
  湿邪は重濁の性質、寒邪は冷えの性質を持つため、このように痛みます。

雨天や寒冷時に増悪
  寒湿の邪が亢進するために、症状が増悪します。

温めると症状が軽減
  温めると寒邪が弱まるため、症状が軽減します。


―湿熱―
甘味、辛味のものを多く摂取し続けたり、梅雨時期で気温が高い時に関係する「六淫」です。さきほどは、「六淫」は、著しい気候の変化と述べましたが、摂取する食物によっても、「六淫」から受けた影響と同じような体内の状態を作り出すことがあります。
甘味、辛味のものを摂取しすぎると、体内に「湿」と「熱」が生じることがあり、これらが腰痛の原因となることもあるのです。

[症状]
腰部が重だるく、熱感をもって痛む
  湿邪は重濁の性質、熱邪は熱の性質を持つため、このように痛みます。

甘味、辛味のものの摂取で増悪
  湿熱の邪が亢進するために、症状が増悪します。

雨天や加温時に増悪
  これも、湿熱の邪が亢進するために、症状が増悪します。

冷やすと症状が軽減
  冷やすと、熱邪が弱まるため、症状が軽減します。



◇腎虚によるもの
腎は、元々人が生まれ持った気(先天の気)を蓄えている臓器です。
これを中医学では「腎気」と言い、人の成長や発育に関係しているとされています。
逆に捉えれば、加齢に対しても大きく関係していると言えます。
そのため、歳を重ねるごとに「腎気」は減ってゆき、これにより腰部の滋養が不足し、腰痛として現れることがあります。
特に外傷の既往もないのに、年々重だるい腰痛を覚えるといった場合は、この「腎気」の不足である  「腎虚」による腰痛が疑われます。

「腎気」は、「腎陰」と「腎陽」という二つを基礎物質としています。
この「腎陰」と「腎陽」のどちらかが失調することで、「腎虚」となり、腰痛が現れることがあります。


−腎陽虚−

[症状]
腰部の冷えや冷痛、寒がり
  腎陽(体内の温める作用)が、弱まることで、体内は冷えやすくなります。
腰部に冷痛は「腎の腑」である腰を温煦できずに気血の流れが悪くなるためです。

腰や膝の無力感
  「腎の腑」である腰を、栄養できないためです。

疲労による増悪
  疲労により、気がさらに損なわれると、腎陽虚が発展するためです。

腰部を揉み温めると軽減
  揉んで温めると、局部の陽気が通り、気血の運行が一時的に改善されるためです。



−腎陰虚−

[症状]
発育障害
  腎陰虚に到る前提として、発育に関わる「腎精」の不足がみられます。
そのため、発育が遅く体が小さい、若くして性機能の減退、老化が早い、といった発育に関わる障害が見られることがあります。

足腰がだるく痛む
  腎精が不足して「腎の腑」である腰を、栄養できないためです。

五心煩熱
  五心煩熱(手足の裏、胸中が熱く感じるといった症状)は、「腎精」の不足が発展して、「陰液(体内の熱を調節し潤す物質)」が不足するために起こります。

盗汗
  夜半になると体内の陽気が相対的に亢進しますが、陰液不足により、その熱を調節できずに、自然と発汗してしまいます。

  ※夜半だとしても室温が高いなどの環境による発汗は盗汗ではありません。



<腰痛の治療>
治療については、先ほど述べた原因ごとに異なります。
ここでは、治療原則とそれに対する主要配穴(圧痛点以外)について、述べていきます。


◇遠導刺による痛みの緩和
経絡に気血が疏滞して痛みを誘発している場合、圧痛点以外にも、遠導刺によって痛みを緩和することができます。
遠導刺とは、患部から遠く離れた同一経絡上の部位に取穴することで、患部を治療するという治療方法です。
この遠導刺による治療をするためには、まず、どの経絡に痛みがあるのかを判断する必要があります。

膀胱経 → 脊柱の両サイド、もしくは片サイドが痛む場合
督脈  → 脊柱ラインが痛む場合

痛みの関係する経絡を特定した上で、同一経絡上に取穴し、鍼治療を施すことで、気血の疏滞を取り除き、痛みを緩和することができます。


◇外傷による腰痛の治療

[治則]
止痛化お・・・お血を除去して、痛みを緩和する治療
活血行気・・・血液循環を良くし、気のめぐりも改善する治療

[配穴]
委中、気海、血海


◇寒湿による腰痛の治療

[治則]
散寒除湿・・・寒邪、湿邪を取り除く治療
通絡止痛・・・経絡に疏帯した気血の流れをよくして、痛みを緩和する治療

[配穴]
腰陽関、大椎、委中


◇湿熱による腰痛の治療

[治則]
清熱除湿・・・熱邪、湿邪を取り除く治療
通絡止痛・・・経絡に疏帯した気血の流れをよくして、痛みを緩和する治療

[配穴]
陰陵泉、委中、足三里、中かん


◇腎陽虚による腰痛の治療

[治則]
温補腎陽・・・腎陽を補い、さらに腎陽の温める作用を高める治療
強腰止痛・・・腎陽を強化し、腰部を滋養する作用を高める治療

[配穴]
命門、腎兪、太谿


◇腎陰虚による腰痛の治療

[治則]
滋補腎陰・・・腎陰を補い、体内の熱を抑え潤す作用を高める治療
補益精気・・・腎精を補い、先天的な滋養不足を軽減する治療

[配穴]
復溜、太谿、腎兪


いかがでしょう?
中医学における腰痛の治療は、ご理解いただけましたでしょうか?

腰痛というと、腰部の骨や筋肉などの物理的な外傷をイメージしがちですが、中医学では、気候や生活環境、体質も含めた上で、腰痛の原因を捉えて治療をしていきます。
腰痛の発症時期が偏っている方、慢性的な腰痛を持つ方は、一度、このような視点で腰痛のお手当てをしてみるのも良いかと思います。

ご質問等ございましたら、お気軽に当院までご相談ください。

 


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