{今後使われる専門用語等については、今まで説明してあるもののみを使用しますので、もし分からない言葉がありましたら、もう一度★中医学の基礎概念★を参照してください。}


★疳積(疳証)★
さて、先ず「疳」という字について説明しましょう。
「疳」には大きく2つの意味があります。
1つは「甘」という意味で、病因である「甘いもの・味の濃いもの・脂っこいもの」を表し、もう1つは「乾」で、病機である「気・血・水」の消耗と、症状である「身体に潤いが無く痩せる」ことを意味します。
5歳以下の小児にみられ、特に3歳前後に多くみられます。
症状は「痩せ」「脱毛」「食欲の異常」「冷え」「精神衰弱」「静脈が浮き出る」・・・・・など多種多様です。
主な病因・病機は、授乳を止めるのが早すぎたり、不適切な栄養状態、長期にわたる下痢や嘔吐、寄生虫感染、などにより脾胃が損傷を受け、消化吸収能力が低下し、その結果 飲食物が体内で停滞を起こし、これが長引くことにより、熱が発生し気血水が損耗してしまい五臓を栄養できなくなり、症状が発症します。

症状が多種多様に及ぶことからこの疾患の分類法も、
1.症状の進行段階によるものと、2.症候によるものの2つがあります。
この中で一番その患者さんにあった弁証を行い、治療法を選択し治療にあたります。
そこで、「疳積」の説明は、先ずは病因・病機を紹介し、次に、1.症状の進行段階による分類と、それについての症状と治療を説明します。
次に2.症候による分類と、それについての症状と治療を説明したいと思います。


▼病因・病機▼
「疳積」の病因は、小児期の飲食不節・栄養の不足・寄生虫・慢性病・があります。
それでは病因別に病機を説明しましょう。

T,【小児期の飲食不節】
小児期の飲食不節とは、食事の過多であったり、不規則や不適切な時間に食事を採ったりといった事と、病因の不内外因で説明した「肥甘厚味の過食」「生冷の過食」などです。
これらは全て脾胃を損傷させてしまいます。
すると胃の受納*や脾の消化機能が低下してしまい、食べた物が胃腸で停滞を起こします。このことを「食積」又は「宿食」「宿滞」といい、そのまま長引くと脾の消化吸収の働きである運化作用**が低下をしてしまいます。
すると今度はいくら食べても食物から栄養を摂取できなくなり、やがては気血の生成不足→臓腑への滋養不足へと発展してしまいます。
(受納*:胃の生理を、運化作用**:脾の生理を参照してください。)

U,【栄養の不足】
小児の成長に対して栄養的に不十分な食事や、母親が栄養失調のために、母乳に含まれる栄養分が希薄であったりすると小児にも栄養不足が生じます。
その結果、脾胃の機能低下が起こり気血が生成されなくなり、体を栄養することが出来なくなります。

V,【慢性疾患・寄生虫】
慢性的な下痢は体内の水分を損耗させたり、脾胃を損傷させてしまい、胃の受納作用や脾の運化作用を低下させてしまいます。
又、寄生虫も人体内で脾胃を損傷し、臓腑を乱し精微*が吸い取られてしまいます。
その結果両者とも、「気・血・水」が著しく不足を起こし、身体が極度に痩せてしまいます。
(精微:内臓の説明の中の《食物の流れ》を参照してください)

以上が「病因・病機」になります。このような機序で「疳積」が発症します。
次に、症状の進行による分類により弁証・症状・治療・について説明をします。


▼症状の進行による分類と弁証▼
症状の進行による分類は、
1.初期の「疳気」
2.中期の「疳積」
3.後期の「乾疳」の3段階に分類できます。

【疳気】
初期の症状です。食物が胃腸で停滞を起こしている「食積」*の状態で、脾への影響についてはまだ軽く及ぼしている程度であったり、母乳不足や偏食による栄養バランスが崩れている状態です。
いずれもまだ軽症の段階です。
(食積:食物が胃腸に滞っている状態です。詳しくは病因病機の【小児期の飲食不節】を参照してください。)

《弁証》
「脾気虚弱疳証」又は「脾胃不和」

《症状》
○痩せ・・・
  脾胃の損傷により、気血が生成されないために栄養不足となり起こります。
○食欲不振・・・
  胃の受納作用の低下や、脾の運化作用の低下によるものです。
○食後にお腹が張る・・・
  胃腸の中に「食積」があるためです。
○元気がない・・・
  脾の運化作用が低下して「気」の生成が出来ないためおこります。
○顔色にツヤがなく血色もよくない・髪もツヤがなく薄い・・・
  脾胃の損傷により、気血が生成されないために栄養不足となり起こります。
○軟便、又は乾燥便・・・
  全く逆の症状ですが、軟便は脾胃の損傷により発症します(詳しくは脾の生理を参照してください)。
乾燥便についてですが、中医学では本来流れているものが滞ると、熱化する傾向があると考えます。この疾患の病因である「食積」は食物の滞りですから熱化してしまう可能性があります。腸のなかで熱化をすれば周りの水液を損耗させてしまい、大便は乾燥します。
○大便に未消化物が混じる・・・
  運化作用の低下により消化吸収能力が低下しているためにおこります。
○精神不振・目に光がない・・・
  脾胃の損傷により血が生成されないために精神が栄養されなくなりおこります。(詳しくは血の生理を参照してください。)

《治療》
「脾気虚弱疳証」に対しては・・・・「益気健脾」
損傷をうけている脾をたて治し気を益す治療を行います。
ツボ:中カン・天枢・足三里・気海・三陰交・脾兪 など
漢方:参苓白朮散加減・六君子湯 など

「脾胃不和」に対しては・・・・「健脾和胃」
脾と胃をたて治す治療を行います。
ツボ:中カン・下カン・天枢・足三里・三陰交・脾兪・胃兪 など
漢方:資生健脾丸 など



【疳積】
中期の症状です。「食積」や脾の機能低下(脾気虚)もだいぶ進んだ状態です。

《弁証》
『積滞傷脾疳証』

《症状》
○痩せは「疳気」より進行・・・
  脾胃の損傷により、気血が生成されないために栄養不足となり起こります。
○腹部の張った感じ(特に食後)・・・
  食物が胃腸に停滞を起こし、さらに脾の働きが低下して起こります。
○お腹の静脈が浮き出る・・・
  気血の流れが悪くなり、経絡が詰まった状態です。
○食欲不振・・・
  胃の受納作用の低下・脾の運化作用の低下によるものです。
○多食・多便・・・
  上記とは逆の症状です。これは、「胃強脾弱」といい、胃の受納作用の過剰な亢進と、脾の運化作用の低下を意味します。
このような状態だと脾と胃の協力関係のバランスが崩れてしまい、食欲が旺盛になり、食後にお腹が張り、大便は最初は硬く最後には軟便となります。
○顔色は黄色っぽく・髪もツヤがなく薄い・・・
  脾胃の損傷により、気血が生成されないために栄養不足となり起こります。
○精神不振・・・
  脾胃の損傷により血が生成されないために精神が栄養されなくなりおこります。(詳しくは血の生理を参照してください。)
○落ち着かず胸がそわそわする・イライラ・不眠・・・
  血や水(津液)は体を冷却する作用がありますが、「食積」により熱が生まれ、その熱が周りの水液を損耗し、更に運化機能の低下で血や水(津液)が生成されないと、体内では熱が盛んになってしまいます。その熱が肝と心に影響を及ぼした状態です。
(精神状態と「心」「肝」の関係は、「心」「肝」の生理を参照してください。)
○未消化物の嘔吐・大便に未消化物や寄生虫が混じる・・・
  運化作用の低下により消化能力が低下すると未消化物が排出されます。
寄生虫は寄生虫感染を意味します。

《治療》
「益気健脾・消積」といい、やはり脾をたてなおし、食積を解消させる治療を行います。
ツボ:中カン・天枢・足三里・気海・三陰交・章門・公孫・脾兪
   胃兪・四縫穴 など
漢方:肥児丸加減・消疳理脾湯 など



【乾疳】
後期の症状です。気や血がだいぶ失われた状態で、臓腑肌肉が儒養されない重症です。

《弁証》
『気血両虚疳証』

《症状》
○極度の痩せ・腹部に陥凹ができる・元気がない・泣き声に力がない・・・
  気の不足により全身を栄養出来ない状態です。 (詳しくは、気の生理を参照してください。)
○食欲不振・・・
  胃の受納作用の低下・脾の運化作用の低下によるものです。
○汗を大量にかく・・・
  気の不足により体を引き締める働き(気の固摂作用*)の低下によるものです。 (気の固摂作用*:気の生理を参照してください。)
○軟便又は便秘・・・
  脾胃の機能低下によるもので、脾は持ち上げる働きである「昇提作用」・胃は降ろす働きである「和降」の両方の働きが無力(昇降無力)になってしまい起こります。(詳しくは脾・胃の生理を参照してください。)
○唇の乾燥・髪につやがない・・・
  血や水(津液)が損耗して潤せない状態です。
○精神衰弱・・・
  気血が精神を栄養出来ない状態です。
○紫斑の出現・・・
  陽気は陰陽論では温性に属します。この場合、気の中でも特に陽気の不足により、体を温められず気血が滞り起こし紫斑が出現します。
○微熱・・・
  陽気は温性でした。温かい空気が上に行くのと同じように、陽気の不足が起こると本来は全身にあるはずの陽気が、全て上にある頭に集まってしまいます。しかし陽気は不足している状態ですから、少ししか集まらず、微熱程度の熱しか上がりません。
○大量の汗・呼吸が弱い・手足が冷たい・失禁
(一般に言う危篤状態です)・・・
  陰と陽の相互関係が完全に壊れた状態で「陰陽離決」といい、とても危険な状態です。「乾疳」の場合は体内のエネルギーが尽きた状態になり「陰陽離決」が起こります。

《治療》
『益気養血』『健脾和胃』・・・・気と血を補う治療と脾と胃をたてなおす治療をします。
『回陽固脱』・・・危篤状態の時の治療になります。
ツボ:腎兪・脾兪・血海・天枢・気海・下カン・関元(回陽固脱)
   神闕(回陽固脱)
漢方:人参養栄湯加減・帰脾湯・八珍湯


次に、症候による分類を紹介しましょう。
症候による分類は主に「五疳」・「熱疳」・「口疳」・「丁奚疳(ていけいかん)」などがあります。


『五疳』
疳積を五臓にもとづいて分類したもので、「五臓疳」とも言われます。
「肝疳」「心疳」「脾疳」「肺疳」「腎疳」の5つがありますので、一つ一つ説明してまいりましょう。
(尚、症状については今まで説明してきたものとほぼ同様ですので、詳しくはそちらを参照してください。)

* 「肝疳」・・・・脾胃が損傷を受け、運化作用が低下すると、結果 的に、気血不足が起こることは今まで何度も説明してまいりました。
さて、気血の不足が起こると様々な悪影響が出てまいります。その悪影響の1つとして、肝の陽気を抑えきれなくなり、肝の熱が原因となって起こる疳積が「肝疳」です。

《症状》
顔色が青黄色・痩せ・腹部の張り・目の乾燥・下痢・などです。

《治療》
「清肝瀉熱」「健脾消積」といい、肝を整えて熱を下げ、脾を立て直して運化作用を高め食積を消失させる治療を行います。
ツボ:行間・中カン・足三里・三陰交・気海 など
漢方:瀉青丸・合羊肝丸加減・加味逍遥散 など


*「心疳」・・・・偏食などにより脾胃が損傷され、食積が形成され、それが長引くことにより生まれた熱が「心」へ影響を及ぼし、心の熱が原因となって起こる疳積が「心疳」です。

《症状》
顔色が黄色い・両頬が赤い・痩せ・イライラ・驚きやすい
高熱・発汗・尿の色が黄色や赤っぽい

《治療》
「清心瀉火」といい、心を整えて熱を下げる治療を行います。
ツボ:内関・中カン・足三里・三陰交・気海・四縫穴 など
漢方:導赤散加減 など


*「脾疳」・・・・過食や偏食により脾胃が損傷され食積が形成されます。それが湿熱に変化して発症する疳積が「脾疳」です。又、重症化すると「丁奚疳」に発展します。

《症状》
顔色が黄色い・痩せる・髪が薄い・お腹が張る・疲れやすい
常に眠い・話すのも億劫・下痢・便に未消化物が混じる

《治療》
「清熱利湿」と言い、湿を体外に出し熱を下げる治療を行います。
ツボ:豊降・中カン・天枢・足三里・三陰交・気海・四縫穴 など
漢方:集聖丸 など


*「肺疳」・・・・過食や偏食により食積が形成され、長期化することにより熱化し、肺に影響を及ぼし発症する疳積が「肺疳」です。

《症状》
顔色が白い・痩せ・髪が薄い・腹部が張る・咳嗽・鼻づまり・鼻水

《治療》
「清肺瀉熱」・「益気健脾」と言い、肺を整えて熱を下げ、脾をたてなおして気を益す治療を行います。
ツボ:太淵・中カン・天枢・足三里・三陰交・気海 など
漢方:瀉白散 など


*「腎疳」・・・・脾胃の損傷により湿熱が生まれ、それが長期化することにより腎陰* を損耗してしまい発症するのが「腎疳」です。
(腎陰*:腎の生理と陰陽を参照してください。)

《症状》
顔色が白い・両頬が赤い・痩せ・髪が薄くツヤがない・腹部が張る
歯肉から出血する・寝汗・午後の発熱・下痢 など

《治療》
「滋陰養腎」と言い腎陰を滋養する治療を行います。
ツボ:太谿・腎兪・脾兪・中カン・天枢・三陰交・気海 など
漢方:六味滋養丸 など


『熱疳』
脾胃の損傷により生じた湿熱が肌膚に入って発症する疳積が「熱疳」です。

《症状》
顔色が黄色い・髪が薄い・痩せ・腹部が張る・ノドが乾き、冷たい飲み物を欲する・発熱・イライラ・皮膚の痒み など

《治療》
「清熱消疳」と言い熱を下げる治療を行います。
ツボ:曲池・内庭・中カン・足三里・気海・四縫穴 など
漢方:黄連丸加減 など


『口疳』 口の中に「びらん」を伴う「疳積」で、食積が長期化することにより体内の水液(津液)を損耗し、 胃陰*が不足して虚火**が生じたり、陰虚体質***の方が毒邪を受けた時に発症します。
(胃陰*・虚火**・陰虚体質***については陰陽を、参照してください。)

《症状》
口の中や舌に「びらん」が生じる・顔色が黄色い・痩せ・髪が薄い・腹部の張り

《治療》
「滋陰清熱」と言い、陰を滋養し熱を下げる治療を行います。
ツボ:内庭・中カン・足三里・三陰交・気海 など
漢方:青黛散 など


『丁奚疳(ていけいかん)』
脾胃の損傷により運化作用が失調し気血が作られなくなり、肌肉が滋養されなくなり発症する疳積が「丁奚疳」で、骨格の軟弱化や弱体化を伴う疳積です。先程説明した「脾疳」の重症化したものです。

《症状》
顔色が蒼白・痩せる・腹部が張る・髪の毛にツヤがない・微熱・下痢 など

《治療》
「補脾養胃」といい、脾と胃をたてなおす治療を行います。
ツボ:中カン・天枢・足三里・三陰交・気海・脾兪・胃兪
漢方:肥児丸加味

以上が症候による分類と症状・治療になります。


「疳積」の病因は主に、授乳を止めるのが早すぎたり、不適切な栄養状態、長期にわたる下痢や嘔吐、寄生虫感染、などでそれ程多くはありません。
病機についても、脾胃の損傷→運化機能の能力低下→食積形成→長期化による熱化→水液(津液)の損耗や気血生化不足、といった一連の流れになります。
ところがこの後に様々な臓腑に影響が及んでしまいます。
そして、その影響を受けた臓腑により症状が違うので、症状が多種多様になってしますわけです。
臨床では多種多様の症状の中から患者さんが、何が病因で、どのような病機でどういう症状が出ているのかを見極めて、一番適切な治療法を選択して治療にあたります。
皆さんに理解していただきたいのは、中医学は病因や病機や症状といったもの全てを考慮に入れて治療方針を決めます。
当然、治療方針が違えば使用するツボや漢方薬も違ってきます。
けして、この病気にはこのツボとか、この漢方薬といった短絡的なものではないということです。

最後に疳積の予防について簡単に紹介してみたいと思います。


★疳積の予防★
1.幼児に必要な栄養価のある食事を与える。
2.母乳が不足している場合は捕食を与える。
3.消化不良に気をつける。消化能力が減退している場合は、消化力に合わせた量 や時間を考慮する。
4.食事の時間は出来るだけ定時にする。
5.偏食に注意する
6.ストレスのない規則正しい生活をおくる。
などがあります。

以上が「疳積」についての説明です。

ご質問等ございましたら、お気軽に当院までご相談ください。
鍼灸・漢方全般のご相談もお気軽にどうぞ。
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◎ 当院での治療をお考えへの方へ
=本来の東洋医学の治療の姿に関して一言=
当院では局所治療に限定せず、あくまでも身体全体の治療・お手当てを目的としております。
普段の生活状況を伺う詳細な問診や、舌の色や形などを見る舌診などを行い、中医学(東洋医学)の考えによる病状の起因診断を行い、身体の中で生じている検査などには出てこない生命活力エネルギーのバランスの失調をさぐり見つけ出し、その失調をツボ刺激で調整し、元の良い(元気な)状態へ戻すことが本来の治療のあり方です。
ゆえに、慢性の症状を1〜2回の治療で治すというのは難しいです。
西洋医学で治しにくい病・症状は、中医学(東洋医学)でも治しにくいのは同じです。只、大切なのは、あくまでも違う角度・視点・診立てで、病・症状を治してゆくというところに中医学(東洋医学)の意味合いがございます。
又、ツボにはそれぞれに作用があり、更にツボを組み合わせることで、その効果 をより発揮させる事が出来ます。
しかしながら、どこの鍼灸院でもこの様な考えで治療をおこなっているわけではありません。一般 的には局所的な治療を行なっている所が多いかと思います。この点をご理解して頂ければ幸いかと思います。

 


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