〜 不眠について 〜

●なかなか寝つけないことだけが「不眠」と思われがちですが、不眠にはいくつかのタイプがあります。
あなたはどんな症状でお悩みですか?
当てはまる項目をチェックしてみましょう。

1.夜中に何度も目が覚める
2.寝つく時間がだんだん遅くなり、朝なかなか起きられない
3.長時間眠り過ぎてしまう
4.日中、眠気がとれない
5.早朝目が覚める
6.寝つきが悪く、眠るまでに時間がかかる
7.熟睡した気がしない

上記の項目が、ひとつでも当てはまり、その症状が1ヵ月以上続くなら、睡眠障害の可能性が大きいことになります。
1・5・6・7は「不眠症」の代表的な症状です。
また、2は「概日リズム睡眠障害」、3・4は「過眠症」の症状です。

「不眠」は現代人の多くが抱えている悩みですが、その原因は人それぞれです。眠れない理由を東洋医学(中医学)の面 から考え、理解し、その対処方法をご参考頂ければ、幸いです。


西洋医学的不眠治療とは???
病院を訪れる患者さんの中に、「眠れない」と訴える方が増えているそうです。
現代医学では、不眠症は一種の精神症状とされており、身体症状とは異なった特別 な症状と考えられています。精神科のあり方も、他の科とは独立し、色合いの異なる診療科と見られるのが一般 的です。西洋医学では安全で依存性の少ない睡眠剤による治療法が主です。


東洋医学(中医学)的不眠治療とは???
ところが中医学では、精神症状は身体症状と異質ものとは捉えず、精神と肉体を同じレベルで考えるのが特徴です。例えば「イライラする」という精神症状も、「お腹が痛い」、「頭が痛い」、「腰が痛い」といった身体症状と同じように現れるものと考えます。
中医学では病気の起こり方を、環境因子が身体に働きかける要素と、身体の中から変調がもたらされる要素の両方があると考えています。身体の中からの変調というのは、気血の乱れなどのように五臓六腑からくるわけですが、精神情緒の異常もこのようにして現れると考えられています。
さらに、中医学の特徴として、ある特定の感情の起伏が、五臓六腑の特定の臓器の機能を乱すという考え方をします。中医学では感情の起伏は怒・喜・思・憂・恐・驚・悲の七情に分けて考えます。
例えば、思い悩むという感情が長く続くと、脾の機能を乱します。脾は消化器の役割を持つ臓器なので、その機能が低下する結果 、胃腸が活発に働かなくなって食欲不振になるわけです。
では不眠と関わりの深い臓器は何だと思いますか?主に、3つの臓器が関与しています。

中医学では不眠を、感情と密接な関係があると考えています。精神活動が過度に長時間続くと、臓腑の気血に悪い影響を及ぼすと考えられています。
感情の種類によって影響をうける臓腑もそれぞれ異なっています。
心配で眠れない、興奮して眠れない、腹が立って眠れないなど、不眠と特に関係の深い情緒は憂・怒・思・悲の4つです。
そして不眠と関係する臓腑は「 心・肝・脾 」の3つです。
情緒の変化の影響を受けて3臓腑の機能が失調すると次のような機序を経て不眠がおこります。


「心」 「心は神(精神)の舎るところ」

中医学でいうところの「 心 」は西洋医学と同じ血液ポンプとしての役目に加えて、思考・精神作用の中枢とされています。
精神活動を安定させる(安神)のためには心を養う栄養物である血や陰(体液)・気(陽)などが充実していなければならないと考えています。
これが不足すると、不眠が起きます。心は意識のレベルと関係が深く、睡眠とは意識の動きと関わる生理活動ですから、睡眠の失調というのは心の機能と結び付けて考えられるわけです。ですから「 心 」を中心に治療していきます。


「肝」 「肝は血を蓄える」

肝には大量の血液を貯蔵している臓腑で、心とともに血と関係の深い臓腑です。血液の中には魂が宿るとされているため、「肝は血を蓄える」は「肝は魂を蓄える」といいかえることもできます。「魂」もまた精神活動に関与しており、血に滋養されて活動を安定させています。
しかし、憂鬱や激しい怒りによって肝を傷つけると、血を蓄える機能は失調してしまい、肝血(肝臓が貯蔵している血液)は減少し、魂は外へ流出してしまうため熟睡ができなくなります。心の動きは肝の機能に影響されています。そこで抑うつやいらいらが肝の乱れをもたらし、心の乱れに結びついて睡眠障害が起こりやすくなります。
肝の変化は、落ち込んで気分がすぐれない、抑うつ状態になる、イライラする、妙に怒りっぽいという情緒の変化と関係します。
肝血不足 → 心血損 → 驚嘆・多夢・夢遊・寝言・幻覚


「脾」 「脾は思を主る」

みなさんは考えすぎたり、心配ごとがあると食欲は減退した記憶はありませんか。考えすぎは体幹の中心部にある脾胃の栄養を吸収して血や水分を作り全身に運ぶ機能を失調させるため、気血の生成が少なくなります。
胃は西洋医学の機能とほぼ同じと考えられます。しかし脾の機能は、胃が消化した飲食物から栄養物質と水液を吸収し、肺に送り、肺から全身に送らせる作用があります。
心に届く血が不足すると「心神」は養分を失い、不安定状態の不眠が生じます。脾と不眠の関係はそれほど密接なものではありません。しかし、気血を産む源である脾の臓器は血脉を主る心に影響を与えるため、心血の不足による不眠の症状が現れます。

情緒失調はこのように心・肝・脾の3臓腑の機能に影響を与え、不眠が生じます。治療は心の治療を中心に行いますが、肝の問題、脾の問題を並行して解決してゆくことが大事になります。



弁証論治 <中医学(鍼灸・漢方)の診断と治療を指します>

 弁証論治とは、その人個々の体質、症状や状態に合わせて治療方法や鍼灸の経穴(ツボ)の処方(ツボの組み合わせ)や漢方薬を決めていきます。このような中医学的診断を証といいます。弁証論治とは証に従って治療を施すことです。これによって異なる病気でも同じ治療をしたり、同じ病気でも治療方法が全く違ったりします。
このことからもお分かりになるかと思いますが、西洋医学とは見立て方、診断基準、治療方法が全く違いますので、西洋医学で原因がわからないお辛い症状も東洋医学(中医学)で治る可能性は十分に有り得ることなのです。
さて、本題にもどりましょう。不眠をタイプ別に分けて明記しました。症状の中で最も多く当てはまる項目が、あなたのタイプになるといえます。


タイプ1.心脾両虚(しんぴりょうきょ)

「心」は血液を全身に送るポンプの働きをしており、「脾」はその血液を作り出すところです。ですから、「心」と「脾」がともに虚した状態だと血は心を養えず、神(精神)が舎をはずれると不眠の症状が現れます。

症状
寝つきが悪い
夢が多い
眠りが浅い
動悸・倦怠感・無力感
食欲不振・食後の腹張
顔色が悪い
舌が淡く、白っぽい・脈が弱い

治療原則:補益心脾・養血安神 (心脾の気血の不足を補い、滋養する。神経の鎮静を図る治療法)

漢方
帰脾湯(途中覚醒…眠りが浅く、良く目覚める方)
神経の使いすぎによる貧血、不眠などが気になる方
胃腸が弱いためのさまざまな症状にも効果的です。
連用すると精神安定作用があるので、疲労によるイライラがまず解消されてきます。
加味帰脾湯
甘麦大棗湯



タイプ2.心腎不交(しんじんふこう)

体の中で「心」と「腎」の陰陽のバランスが崩れることによって生じる不眠です。陰虚とは陰が不足していることです。陰が不足すると相対的に陽が増えます。
「陰」とは体内において陰液とも呼ばれている水分で血液などの物質を指します。熱を緩和させたりする力です。車のラジエータみたいな物です。「陽」とは熱エネルギーのことを指します。したがって「陰」が不足すると「陽」が増し、熱が火に変化し燃え盛ってしまうのです。それが神を炙るので不眠が起きてしまいます。
本来であれば…
腎陰(体を冷却する作用があります)が上昇して心陰(精神の栄養分)を滋養し、 心の火の高ぶりを抑えます。心火と腎水が協調してバランスを保つ関係が良い状態といえます。
不眠は腎陰の作用が衰えて上昇できないため心火が亢盛となっておこります。

症状
心煩(胸に不愉快な苦しさを感じること)
手足の裏が熱っぽい
寝汗
口が渇く
遺精・夢精・健忘
耳鳴り
腰痛
舌が暗紅色・脈が細い

治療原則:滋陰降火・交通心腎(腎を潤し、心の火を収める治療法)

漢方
天王補心丹(早朝覚醒…朝早く起きて後眠れない方
不安・自律神経失調症・心身症・神経症・口の乾きなど不安で不眠になりお困りの方
交泰丸
黄連阿髎湯



タイプ3.肝鬱血虚(かんうつけっきょ)

「肝」には血を蓄える働きがあります。肝血が不足してくると陰陽のバランスが崩れて人体のさまざまな部分が栄養不足状態になります。また、肝血の不足から血の流れが滞り、ストレスなどで「肝」が鬱々とした状態を起こしてしまいます。
「肝」の臓器は疏泄と言って気をスムーズに流す機能を促進させる作用があります。この疏泄作用は精神面 にも働いており、心神の活動をスムーズにして精神活動を調節します。また肝血は心血を補充することによって間接的に神を滋養します。したがって肝気が鬱々して流れがスムーズでなくなったり、肝血が不足したりすると、心神の活動や滋養が不十分となり、不眠の原因のひとつになると考えます。

症状
寝つき悪い
夢が多い
驚きやすい
胸脇脹満
ため息
怒りっぽい・イライラする
目が充血する
舌が紅い・舌苔黄・脈が弦を弾くように速い

治療原則:疏肝養血・安神
(肝の疏泄機能を活発にして、血を増やして運行をスムーズし、リラックスを図る治療法)

漢方
酸棗仁湯(入眠障害…いろいろ考えてしまって寝つけない方)
ストレスが溜まって、心身が疲れ果てているのに、床に入ると、かえって興奮して眠れなくなる。睡眠薬を飲むと翌朝がボーっとして困っているという方



タイプ4.痰熱内擾(たんねつないじょう)

体の中の水分代謝が上手くいかず留まっており、粘稠な物質が「痰」です。病的な水分物質でさらさらしているものは「飲」とよばれています。中医学では五臓(肝・心・脾・肺・腎)の中の「脾」が食物から栄養を作り出すと考えられています。それゆえ、脾および胃の機能が失調すると「痰」が生成され、それが熱をおびた状態が痰熱です。この痰熱が「神」を炙るので不眠の症状が現れます。
痰熱は湿より発生します。湿は食生活のかたより(脂っこいもの、しつこい味のものあるいは飲酒)、季節の影響(梅雨や高湿度)または臓腑の機能失調によって水分が体内に停滞したものです。湿と痰は双方とも動きがにぶく、一ヵ所にじっと停滞する特徴があります。痰の停滞が長引くと熱性をもち、痰と熱は互いに結して痰熱となります。

症状
心煩(胸に不愉快な苦しさを感じること)
口が苦い
めまい
頭が重い
舌が赤く、黄色帯びている、脈がなめらかで脈のスピードが速い

治療原則:清熱化痰・安神(熱をさまし痰を除きリラックスを図る治療法)

漢方
星火温胆湯(多夢…こわい夢など、夢をよく見る方)
飲酒、喫煙、肉類、揚げ物を好み、食事バランスが悪いと、驚きやすくなったり、悪い夢を見たり、不安やイライラが募ってきます。
コレステロールが高かったり、高血圧になりやすい方。
竹茹温胆湯



タイプ5.胃気不和(いきふわ)

胃気の不足、あるいは暴飲暴食などで胃を損傷するため、口から取入れられる飲食物を消化する機能が失調し、胃に食の滞りがおこります。
胃気とは消化を助ける気です。正常な状態では、胃気は下に降りる働きがあります。つまり、食べたものを食道から胃へ、胃から腸へと運んでいきます。この働きがうまくいかないことを胃気不和といいます。
食物が長く胃に停滞して胃気の下降を妨げると、胃気が上逆するような形になり不眠がおこります。胃がむかむかして、ゆっくり横になることもできないような状態が現れます。胃気不和によっておこる不眠は原因である宿食(胃腸の中に消化物が停滞した状態)を取り除けばよいので治療しやすいタイプです。つまり、急性の不眠に多いタイプです。しかし、が長引いて痰熱(体の中の水分代謝がうまくいかず、一箇所に長期間留まり続けると、熱性を持ち痰熱となります)に変化すると、その除去は容易ではなく治療は困難となります。慢性胃腸疾患の患者は常に胃部に不快感があり、熟睡することが出来ないのはこのためです。

症状
腹部脹満
腹痛
悪心・嘔吐
腐臭のあるゲップ
下痢または便秘

治療原則:和胃化滞(痰を除き胃を和ませる治療法)

漢方
保和丸
焦三仙(消化酵素をたっぷり含む食品が入っており、これを焦がすと消化する力が更に強化されます。胃腸虚弱や食欲不振のときに中国では代表的な消化剤として各家庭に常備され広く使われています。)
調胃承気湯


あなたはどのタイプでしたか?
上記に記載されている症状や漢方は参考にするものです。針灸治療、漢方治療を始める方は、先に専門的に弁証論治(中医学)の行える先生にしっかりとした診察を受けて下さい。
鍼灸・漢方治療は証を診立てる力が大切ですから。


睡眠の基礎知識
眠れない人のために、眠るための工夫をご紹介します。

Q1 寝る前のアルコールは不眠に効くの?
アルコールは摂取されると、消化器から吸収され、その一部が脳に達し、脳幹網様体賦活系というところに働きます。アルコールは、人を覚醒させる働きのある脳幹網様体賦活系を抑制するのでやがて眠くなります。残念ながら、アルコールには耐性という問題が生じます。
以前より飲酒量を増やさなければ、不眠が生じます。量を増やせば、しばらくは眠れますが、耐性が出現して不眠が生じるという悪循環に陥るのです。
一時的な不眠には効果がありますが、慢性的な不眠には避けたほうがいいでしょう。なお、薬剤との併用は危険ですので絶対にやめてください。

Q2 睡眠薬は依存性があるの?
現在の睡眠薬には、依存性はほとんどありません。長く飲むと効果がやや弱くなることがありますが、どんどん量 が増えてしまうことはありません。薬の乱用は慎むべきですが、上手に使えば、睡眠薬は非常に有効な薬です。ただ眠れないから飲むのでは遅いことが多いので「適切な時間に眠るために飲む」ようにしましょう。
睡眠薬に抵抗があって、他の方法で改善をはかりたいと思っている方は…
「楊先生のちょっとためになる話〜第十二回 不眠の解消法〜」をご参考ください。
キーワード検索・・・「不眠の解消法について」

不眠は入眠に関与する臓器エネルギーの失調、バランスの崩れが原因と言えます。これは失調したバランスを取り戻さないといくら睡眠薬を服用しても根本的には改善されません。

Q3 眠りに効果のあるお茶などがあれば教えてください。
シベリア人参は体を温め気分をリラックスさせ、眠りを誘います。
また、やる気・活力も与えてくれます。
カモミールは気分を鎮めます。
牛乳は豊富なカルシウムがイライラや高ぶった気持ちを鎮めます。

上記のお茶の他にも、バラ、菊の花、ミント、ジャスミン等のお茶は気持ちをリラックスさせてくれます。

中医学は国内で一般的に行われている(東洋医学・鍼灸・漢方)とはやや異なります。一言で言えば、診断する力、中医学という中国伝統医学の理論をフル活用する力を必要とします。
ゆえに治療方針は局所的な治療や対象療法とは異なります。個々の症状・体質・進行具合などを診断し、全体的なバランス調整の治療にあたります。

これが中医学的治療の特徴です。
当院のHPの内容を一通り読んでいただければ、他の東洋医学を行っている所との違いがおわかりになるかと存じます。
中医学を活用しますので、治療に奥深さと系統だった方針があり、鍼治療で言えば、単に鍼を局所に刺す治療とは異なり、もちろん治療結果 にも違いが出てきます。これは診断、タイプ別治療や鍼の手技、刺激の量 など、全てに係わっており、無論治療の際に全体のバランス調整を行うからです。
慢性症状や、色々な所で治療を受けてみたのですが、結果のおもわしくない方々へ、一度中医学の鍼灸を試みてはいかがでしょうか?

ご質問等ございましたら、お気軽に当院までご相談ください。
鍼灸・漢方全般のご相談もお気軽にどうぞ。
Email genki@dokutoruyo.com

 


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