▼中医学(東洋医学)から診た「自律神経失調症」▼
実は中医学では「自律神経失調症」はありません。なぜなら中医学では神経という概念がありませんので自律神経というものが存在しないのです。一見、乱暴な話にも思えますが、中医学は現代医学とは異なり、体内にある臓器や器官と言った物質的なものに注目するのではなく、働きに注目しているからなのです。このような考え方は物心がついた時から現代医学に慣れ親しんでいる我々にはなかなか理解しがたいところですが、つまりは現代医学とは生理感や病理感の概念が全く違うということです。そして、これはどちらが優れていてどちらが劣っているというものではありません。どちらにも得意・不得意があります。ですから病院で治療してみてあまりよい結果 が出なかった時に、中医学の受診をしてみたら治ってしまった、という事が起こるわけです。そして「自律神経失調症」もそんな疾患の一つだと思います。


○中医学の診察方法○
現代医学では診察をする際、近代的な器械や検査器具などを使用しますが、中医学では四診という手段を用いて診察をします。四診とは、全身や顔色や舌の状態を見る「望診」、声や話し方や臭いから情報を得る「聞診」、患者さんに色々質問して情報を収集する「問診」、脈をとったり、お腹や患部などを触ったりする「切診」、の四つから成り、これら全ての情報を総合して診察をおこないます。この診察方法は現代医学では行われない方法です。「四診」は東洋医学の独特でかつ興味深い方法なのでもう少し詳しく説明しましょう。例えば「脈」についてですが西洋医の先生方も脈をとりますが、診ている観点が違うのです。中医学では脈拍数だけではなく、脈の浮き沈み・太さ・触れ方などを見ます。更に手首で脈をとるのですが、その位 置を若干変えることで病気のある場所を探ったりもします。「舌」に関しても同様で、我々は形・色・苔・湿り気などを見て診察を行っております。現代医学はミクロの医学と言われ、より細かく細かく見てゆきます。その結果 、近代的な検査が必要になり、数値に注目する診察が行われています。それに対して中医学はマクロの医学と言われ、目には見えない働きや体内のエネルギーの歪みや臓器の相互関係や肉体と自然との関係等に注目して診察が行われます。
そしてこの目や数値では測れない体内の歪みを「四診」を用いて診察してゆくわけです。


○未病という考え方○
最近テレビのCMなどで「未病」という言葉を耳にするようになりました。「身体の調子が悪いので病院で検査をしたのに検査結果 はどこも悪くない言とわれた」といった話をよく聞きます。患者さんとしてみれば体調不良は確実にあるわけですからとても辛い状況です。なんとか治して欲しいと思うわけですが、データーを重視している現代医学では検査結果 が正常値であれば「異常無し」という診断になり治療は基本的には行われません。こういった状態を中医学(東洋医学)では「未病」と呼んでいます。
例えば、検査結果が正常値であっても異常値に近い場合もあるわけです、このような場合は例え正常な範囲であっても身体の不調に敏感な人であれば何らかの症状が現れます。身体の働きに注目する中医学では検査データーが正常値であっても身体の不調は身体の異常と考えます。
つまり、身体に不調があるということは体内のどこかの働きが失調をしているわけです。これは中医学的に言えば体内のエネルギーのバランスが崩れている状態で、身体の中で歪みが起きているわけです。そこで先ほど紹介した「四診」という手段を用いて、何処でどの様にエネルギーバランスが崩れているかを探し歪みを調整してゆきます。ですから「未病治療」「未病予防」は中医学の得意分野の一つなのです。
さて、話を「自律神経失調症」に戻しましょう。先ほど、近代医学から診た「自律神経失調症」で述べましたが、この疾患の特徴は様々な不定愁訴があるにもかかわらず、器質的な異常は無く検査をしても原因が見つからないという点でした。つまりは今説明した「未病」に含まれる部分が多い疾患といえます。


さて、中医学の観点で症状の説明をする前に少しだけ中医学の生理感について説明をします。


○中医学の生理感○
・・「気」「血」「水(津液)」・・
人間は基本的に「気」「血」「水(津液)」という3つの物質から出来ています。そして健康な身体は「気」「血」「水(津液)」が多すぎることも、少な過ぎることも無く、適量 な状態で且つスムースに流れていなければなりません。もし、どれかが少なくなったり、流れが滞ったりすると、身体の中で歪みが生じ不調が現れます。又、その状態が長引けば、他の部位 にも影響が出てしまい、症状は更に悪化します。「気・血・水」の各々の作用については病気の症状と照らし合わせて説明したほうがわかり易いと思いますので後述します。

・・「五臓六腑」・・
次に内臓について説明します。よく年配の方が「五臓六腑にしみわたる」などという表現をいたしますが、この五臓六腑というのは中医学が考える内臓をさします。五臓とは肝・心・脾・肺・腎を言い、六腑とは胆・大腸・小腸。胃・三焦を言います。五臓六腑の「三焦」以外は皆さんも知っている内臓の名称と同じですね。しかし、その働きとなると現代医学で考える働きとは大分違ってきます。尚、中医学が考える内蔵の働きについても「気・血・水」と同様に病気の症状と照らし合わせて説明します。

・・経絡・・
経絡とは簡単に言うと「気」「血」が流れる通路のようなものです。経絡は身体中に何本も走っており、一部例外はありますが経絡の上にツボが存在しております。針灸やツボ押しはツボに刺激を与えることにより、この経絡を通 じて全身や歪みのある部位へ刺激を流しているのです。また、経絡にはそれぞれに臓腑と深い関係のある経絡があります。


○病因○
病因とは病気を引き起こす原因です。中医学ではこの病因を外因・内因・不内外因の3つに分類します。

◎外因とは人体の外部が病因になることで主に環境をさします。「六淫」といい風・暑・寒・湿・乾・熱があります。

◎内因とは過度の精神状態が病因になることで「七情」といい怒・喜・思・悲・憂・驚・恐があります。

◎不内外因とは飲食の失調・外傷・寄生虫・過労・運動不足などがあります。



○中医学の観点から見る代表的な「自律神経失調症」の症状○

現代医学では原因が無い不定愁訴の総称を「自律神経失調症」としてひとまとめに考えたのに対して、中医学ではこれらの症状は全て独立した疾患と考え、個々に原因や病気の機序を診察して治療を施してゆきます。
それでは今から症状の説明をしてまいりますが、症状が多岐に渡るため全てを説明することや各々を深く説明するのは不可能なので、代表的な症状を「気・血・水」「五臓六腑」の働きと照らし合わせながら、簡単に説明をさせていただきます。尚、各々症状の細かい説明に関しては、既に当HPにアップされている疾患については別 記いたします。それ以外については次回の機会に回したと思います。


■頭痛・耳鳴り・難聴
「肝」はノビノビした環境を好みます。しかし、過度のストレス・イライラなどの状況下では「肝」はノビノビできず「肝の気」がスムースに流れなくなってしまい渋滞を起こします。気や血は渋滞を起こすと熱を生む特性を持っていますので、肝の気が渋滞したことにより熱が生まれてしまいます(肝鬱)。又、「肝」は「血」を貯蔵しており「腎」は水を主ります。
「血」も「水」もどちらも身体の熱を冷やす働きをしています。ところが睡眠不足・過労などにより肝に貯蔵されている「血」や腎の水が消耗してしまうと身体を冷やすことができなくなり熱を生んでしまいます。(肝腎陰虚)
皆さんもご存知のように自然界では熱は上に行きます。身体の中でもこれと同じことが起こります。肝の気の渋滞によって生まれた熱や「血」や「水」の不足によって生まれた熱は上に行き、頭や耳に影響を及ぼすことがあります。熱の影響が頭に及ぼせば頭痛で特に側頭部痛が起こりますし、耳に及ぼした場合は難聴や耳鳴りを起こします。

「脾」は運化といって飲食物から「気・血」を生成します。ところが「脾」の機能の失調がおこると水液を気化する力も減退してしまい体内に余分な水分が停滞してしまいます〔脾気虚〕。また、冷たい物や油もののとり過ぎや過度の飲酒も余分な水分を生みます。この余分な水分のことを「痰濁」といい、この痰濁により頭痛や頭重感・耳鳴り・難聴の症状が現れます。頭痛は前頭痛が多いようです、耳鳴りは重く濁った音がして難聴は耳が閉塞してはっきり聞こえません。又、「脾」の運化作用には食べ物から気血を作りそれを上にある肺などに送る働きも含まれます。この気血を上に持ち上げること「昇清機能」と言います。「脾」の運化作用が失調すると気血を生成できなくなるばかりか昇精機能も減退してしまいます。その結果 、頭部の栄養不足が起こり頭痛や耳鳴り・難聴を生じます。〔気血両虚〕

「腎」は『精』と言って生命の根本をなすものを蔵するとされています。『精』は両親から受け継いだ「先天の精」と飲食物から作られる「後天の精」により形成されます。『精』は腎に貯蔵されることから「腎精」とも言います。腎精の作用のなかに脳の滋養があります。老化・過労・睡眠不足は『腎精』を消耗させます。『腎精』が消耗すると脳の滋養不足が起こり頭痛や耳鳴り難聴を招きます。(腎虚)


■乾燥
「水(津液)」は皮毛・臓器・喉・目・鼻・口・耳・舌を潤しており、「血」にも潤す働きがあります。これらを滋潤作用と言い、これらが不足すると目・口・皮膚の乾きが生じます。〔陰血不足〕

「肝」は「血」を貯蔵しています。「肝」の「血」を貯蔵する能力が減退すると、「血」の不足が起こり目の乾きが生じます〔肝血虚〕


■胸痛
「気」は温煦作用といって身体を温める働きがあります。温煦作用が失調してしまうと気・血の流れが経絡で停滞を起こします。(陽虚)

「肝」の働きは疏泄といって気・血の流れの調節をしています。肝の疏泄が失調すると気・血の流れが経絡で停滞をお越します。)

「脾」の機能失調や油っぽいものや甘いものや味の濃いものを多量に摂取したり、過度の飲酒などにより作られた『痰濁』も気・血の流れを妨害して経絡で停滞を起こします。
経絡の流れが悪くなると停滞を起こした箇所で痛みが生じます。胸部で停滞が起これば胸痛が生じます。


■動悸・脈の異常・息切れ
「気」には推動作用といって気・血の流れを良くする働きがあります。推動作用が失調すると息切れが生じます。(気虚)

「心」は血を全身へ循環しています。「心」が失調することで血が全身を廻らなくなることで動悸・脈の異常・息切れの症状が現れます。(心血虚)

「肺」は呼吸をおこないます。「肺」が失調すると息切れ・呼吸がしづらい、などの症状が現れます。(肺気虚)


■消化器の失調
「血」の滋潤作用の失調が起こると腸が滋潤されず便秘になります。(血虚) 動悸の説明で述べましたが「気」には推動作用があります、推動作用が減退すると押し出す力がなくなってしまい便秘が起こります。(気虚)
辛い物の食べ過ぎや身体の中で熱がこもりやすい体質の人は「胃」に熱がこもり「水(津液)」を損傷してしまいます。その結果 、便秘が起こります。(胃熱)

「脾」の働きには「運化作用」といわれ、飲食物から「気」や「血」を作る働きがあります。「脾の運化作用」が失調すると食欲不振・腹部のもたれ感・食後の倦怠感・食後の眠気・軟便・下痢・などの症状が現れます。(脾気虚)

「胃」は初期消化の働きをしていますので、「胃」が失調を起こすと、上腹部のもたれ症状が現れます。又、「胃の気」がスムースに流れないと胃部の経絡で「気」が渋滞を起こし、胃腸の張った感じが現れます。更に「胃」は通 常食べた物を食道から受け取り、下にある小腸に引き渡します。これは「胃の気」の流れが上から下に流れることにより食物も上から下に落ちて行っているわけです。ところが何らかの原因により「胃の気」が下から上に流れてしまうことが起こります。この「気」の流れが逆になること『気逆』(胃の場合は上逆とも言う)と言い、「胃の気」の気逆や「胃」に余分な水分が溜まり熱化するとゲップ・食欲不振・悪心嘔吐が起こります。(湿熱)

中医学では「肝」が障害されると、それ続いて「脾」「胃」が障害される場合があります(木克土)。これは中国の古代哲学(五行説)の考え方からきたものですが「肝気犯胃」)とか「肝気横逆」といい、ストレスなどで「肝の気」が停滞を起こし、その影響が「脾」に及ぶと下痢になり(肝脾不和)、「胃」に及ぶと「胃気の上逆」が起こります。
長期に渡る病気や疲労により「胃」の中の必要な水分が損傷されると、食欲不振をまねきます。(胃陰虚)又、「脾」と「胃」の気が衰退しても、食欲不振が起きます。(脾胃虚弱)


■イライラ・怒りっぽい・憂鬱感・ため息・不眠・思考力低下・不安感・多夢・精神疲労
先程も記載しましたが、腎精の作用のなかに脳の滋養があります。「腎精」が不足して脳を滋養できないと精神疲労を起こします。〔腎精不足〕
「血」は精神活動に対しての栄養源になっています。「血」が充実していれば情緒も安定しますが、不足すると不安感・不眠・情緒不安定などの症状が現れます。(血虚)
「心」と「脾」が失調すると血が生まれず不眠になります(心脾両虚)
「肝」は「血」を貯蔵しております。この貯蔵力が減退することで不眠が起こります。〔肝血虚〕又、肝の疏泄が失調して血が全身へ廻らなくなっても精神症状があらわれます。〔肝鬱〕 身体の中の余分な水分が熱化し「心」を犯し不眠をまねきます。(痰火擾心)
ストレスなどにより「肝の気」が停滞を起こし熱化したことにより「心」に影響をおよぼし不眠が起こります。(肝火上炎)
「心」は精神の働きを統括していますので、「心」が失調すると様々な精神症状があらわれます。
臓腑と精神の関係をもう少し詳しく説明すると、「肝」は理性・判断・意思の調節、「脾」は思考・記憶・集中の調節、「腎」は意思・信念・記憶力が宿り、これらを「神」と言い、「心」が「神」を統括しています。


■めまい・ふらつき・健忘・頭がボーっとする
「血」は脳髄を栄養しています。「血」が不足すると脳髄が栄養されなくなり結果 としてめまいが起こります。(血虚)

「脾」の作用には「昇提作用」といわれ、飲食物から作られた「気・血」を上にある「肺」まで送る働きがあります。「昇提作用」が失調するとめまい・ふらつき・健忘・頭がボーっとするなどの症状が現れます。(脾気虚)

「腎」は髄を作ります。中医学では脳は髄が集まって出来ると考えますので、「腎」の働きが失調するとめまい・健忘・頭痛や、頭がボーっとしたりします。〔腎精不足〕


■疲れ易い・無汗・多汗・息切れ・倦怠
「気」には気化作用といって物を変化させる働きがあります。例えば食べた物を「気」や「血」に変化させたり不要な水分を汗や尿に変化させています。気化作用が失調すると無汗や尿が出づらくなります。又「気」は栄養作用といって身体の隅々を栄養しています。栄養作用が失調すると、痩せ・疲れ易い・倦怠などの症状が現れます。その他に「気」には固摂作用といって異常発汗や出血を防ぐ作用があります。固摂作用が減退すると多汗が生じます。(気虚)

「心」や「脾」は気血の生成や循環に深く関与します。これらが失調すると疲労や倦怠を感じます。(心脾両虚)又、「腎精」の不足でも疲労や倦怠がおこります。(腎精不足)

「肺」は宣発粛降といって「脾」で作られたエネルギーを全身へ散布します。「肺」が失調してしまうと、エネルギーを全身へ送ることができずに息切れや疲れ易くなります。また、宣発には発汗の作用もありますので、失調を起こすと無汗になることもあります。逆に「肺」は発汗だけでなく皮毛や汗孔を閉じ、発汗を抑えることもしていますので失調を起こすと多汗にもなります。(肺気虚)


■不妊・性欲減退・インポテンツ・早期の閉経
「腎精」により人は発育します。逆に「腎精」が衰えると、老化が始まります。「腎精」がある一定のレベルを超えると精子が作られたり排卵が始まったり性欲がでてまいります。ですから「腎精」が衰えると不妊・性欲減退・インポテンツ・早期の閉経といった症状が現れます。

△インポテンツ
身体の中に余分な水分が貯まり熱化し起こります(湿熱)
過剰な精神状態(恐怖)などから「腎」と「心」が犯され起こります(七情内傷)
過度な性交など(房事過度)により「腎」のエネルギーが消耗したり、下半身を冷やしたりしても起こります。(命門火衰)
過度な思い悩みで「心」や「脾」が障害され気血が作られなくなり起こります(心脾両虚)


■体温調節不能
「気」の温煦作用が失調すると手足の冷え・寒がり・などの症状が現れます。(気虚・陽虚)

代表的な「自律神経失調症」の症状を中医学の見地から「気血水」や「五臓六腑」の生理作用と照らし合わせながら説明してみました。今回は症状が多岐にわたったため簡単な説明になってしまいましたが、今回皆さんに一番理解して頂きたかったのは、「自律神経失調症」を現代医学と中医学の二つの視点で見たときに、全然違う観点で診察をしてゆくという事です。又、それぞれの症状はどのような機序でおこると中医学では考えるかをイメージできていただけたらと思います。
どうでしょう、理解して頂けましたでしょうか?

皆さんの中に「自律神経失調症」と診断され症状が改善されない方や、体調が優れないのに検査をしても異常が見つからないでおられる方は、是非一度別 の視点から身体の歪みを診てみてはいかがでしょうか?

***今回の症状で既に『病気別・わかる東洋医学診断』にアップせれている疾患のナンバーです
うつ・・・・・・・NOー9
過敏性大腸炎・・・NOー17〜18
不眠・・・・・・・NOー21
冷え症・・・・・・NO−39
高血圧・・・・・・NO−42
ストレス・・・・・NO−43
未病・・・・・・・NO−44
めまい・・・・・・NO−47

ご質問等ございましたら、お気軽に当院までご相談ください。

 


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