● 日本における鍼灸治療の現状●

▼本内容を読むに当たり▼
この文章は、鍼灸・漢方医療の治療を真に求めている方の為に、現状の鍼灸・漢方医療を深く理解して頂きたく、また安易に受診することを避けて頂きたいとの思いから、現状の日本に於いての鍼灸・漢方医療の真実を書き込んでおります。
そして、受診されたい方々に、確り学習と臨床経験を積んだ良い先生方を見つけだして頂く為の指針・道しるべになればと思っております。
ですから、内容そのものは決して批判・批評を行っているものではございません。
真実を伝えているものでございます。誤解の無い様にお願い申し上げます。

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「あなたは鍼灸治療をご存知ですか?」と訊かれたらどう答えますか?
おそらく「はい、知っています。」と答えるでしょう。
では、「東洋医学をご存知ですか?」と訊かれたらどう答えますか?
やはり「知っています。」と答えるでしょう。
逆にこれらの質問に「いいえ、知りません。」と答える方は少ないと思います。
日本で生活しておられる方なら『鍼灸治療』や『東洋医学』という言葉を聞いたことがない、もしくはイメージが出来ないという方はいないでしょう。
では、「『鍼灸治療』は『東洋医学』ですか?」と訊かれたらどうでしょう?
おそらく「はい、そうです。」とお答えになる方が多いと思います。
針やお灸は中国から伝わった治療法であるから「鍼灸治療イコール東洋医学」
とお考えになられると思います。
しかし答えは「YES」でも「NO」でもありません。
何故なら今の日本では、東洋医学とは全くかけ離れた治療をおこなっている鍼灸院の方が多いからです。
実際に私が卒業した鍼灸学校の卒業生で東洋医学による治療を行っている鍼灸師は5%もいないでしょう。
しかも、日本の場合は「医療」ではなく「癒し」が目的の治療院の方が多いと言えます。
このような日本の現状を考えると、先程の質問の答えはどちらかと言えば「NO」の方が正解に近いかもしれません。
更に残念な事に、一般の方なら上記のような考え方をしても仕方がありませんが、東洋医学による治療を行っていないのに、鍼灸治療を行っているというだけで、自分は東洋医学を行っていると誤解をしてしまっている鍼灸師さえいます。
東洋の国である日本に住んでいながら鍼灸師までも何故このような誤解が生じてしまうのか皆さんは不思議に思うかもしれませんが、日本における東洋医学がおかれている現状を考えてみると、これは一概に誤解をしている鍼灸師だけの問題ではなく、医療制度や鍼灸学校の教育システムにも問題があるように思えます。
又、近年は「東洋医学ブーム」とやらで、テレビや雑誌などで東洋医学が頻繁に紹介されておりますが、かなり本物の東洋医学からかけ離れた情報もみうけられます。
このような状況を総合して考えてみると、一般の方々が東洋医学を誤解してしまうのも仕方のないことだと思います。
そこで今回は皆さんが知っていそうで、実はよく理解されていない鍼灸治療や東洋医学の日本の現状の話をしたいと思います。

★医学とは?★
では先ず「東洋医学」についての説明をする前に「医学」について少し考えてみたいと思います。
皆さんは「医学」とはどの様な学問だと思いますか?
例えば、お医者さんになるために学ぶ学問は勿論「医学」ですよね。
では、最近テレビで人気の健康番組などで得た「○○病には○○がいい」といった知識は「医学」と言えるのでしょうか???
皆さんはどう思いますか?
答えは「NO」です。これは医学とは言えません。

何故なら、「医学」とは病気を治す為の学問ですよね。
では病気とはどの様な状態かといえば、正常な体のしくみが崩れた状態です。
この正常なしくみを「生理」といいます。
さらに病気を発病させる仕組みを「病理」といいます。
つまり、病気を治すということは元の正常な状態へ戻すということです。
その為には、正常な体の仕組みを知らなくてはなりません。
ですから、「生理学」や正常な構造を学ぶ「解剖学」、「病理学」といった学問を学ばなくては、病気を治すことは出来ません。
又、これらを知っているだけでは病気を治すことが出来ません。
次に必要になるのは病気の診断方法である「診断学」や治療法を学ぶ「治療学」を知らなくてはなりません。
つまり「医学」とは、根底にしっかりした、「解剖学」「生理学」といった正常な体の仕組みや構造についての知識があり、次に「病理学」があり、その上に「診断学」「治療学」が存在していなければなりません。
このなかのどれか一つが欠けても「医学」とは言えないのです。
更に、同じ種類の「医学」を勉強した人は基本的に1つの疾患に対してはどの先生が施術をしても同じ結果 が出なければなりません。
例えば、一般的な疾患にかかってしまった時にどの病院へ行っても治療ができるということです。
つまり「再現性」がなければ「医学」ではないということです。
ですから「西洋医学」にせよ「東洋医学」にせよ「医学」という言葉が付く以上は上記の条件を満たしているのです。

それでは先程の条件をまとめてみましょう。
@、 健康な状態の体の構造や仕組みの概念がしっかりあること
(西洋医学では生理学・解剖学など、東洋医学では臓腑学・経絡経穴学など)
A、 病気が発症するメカニズムの概念がしっかりあること
(西洋医学では病理学など、東洋医学では病因病機学など)
B、@やAの上に診断や治療についての方法論があること
(西洋医学では診断学・治療学など、東洋医学では、弁証学・治療学など)
C、治療には再現性があること
これらが条件になります。

つまり、西洋医学であれ中医学であれインド医学であれ、医学と名のつくものには各々の概念による、生理学・解剖学・病理学があり、その上に各々の概念による、治療学が存在するのです。
1つの疾患であっても、各医学によって生理学〜治療学まで各々の概念があるということです。

さて、「医学」と言われるものの条件を理解して頂いたところで、次に「現代医学」と「伝統医学」を簡単に紹介しましょう。
「現代医学」とは、日本でよく「西洋医学」と言われているもので、皆さんが病院などで受診される最先端医療をさします。
それに対して「伝統医学」とは現代医学とは違う理論による治療を意味します。
つまり、現代医学(西洋医学)と伝統医学の違いは、先程紹介した、生理学・解剖学・病理学・診断学・治療学などの概念が違うということです。
そして「東洋医学」もこの「伝統医学」の1つなのです。

★東洋医学とは?★
ここ数年、日本では予防医学への関心が高まっており、それにともない東洋医学への注目や期待といったものも高まりつつあります。
実際にCMなどでも「未病」といった東洋医学の言葉などを耳にする機会も増えてまいりました。
しかし残念な事に、東洋医学について表面上の紹介はされているものの、きちんとした説明までしているものは少ないようです。
逆に東洋医学を間違った解釈で紹介したり、受けて側に誤解を与えるような表現をしているメディアも多々見受けられます。
これはとても残念なことであります。
又、日本では「東洋医学」=「中国で生まれた医学」と思っている方が多いようですが本来の東洋医学とは、それだけを指すものではありません。
「東洋」という意味は「中国」という意味ではないのと同じように、「東洋医学」とは「東洋の医学」ということです。
つまり、「東洋医学」には、中国で生まれた「中国伝統医学(中医学)」の他にも、有名なものでは、インドのアーユルヴェーダやユーナニー・インドネシアのジャム医学・チベット医学などがあります。

では、中国で生まれた医学だけを言う場合は何というかというと「中国伝統医学」又は「中医学」といいます。
如何ですか「東洋医学」と「中医学」の違いがおわかりになりましたか?
当院の治療はこの「中医学」に基づいて行っております。
そこでこれ以降は混乱を避けるため、中国で生まれ伝承された医学のことは「中医学」と呼ぶことにいたします。
そして、中医学を含めた東洋の医学のことを「東洋医学」と呼びます。

さて、ここまで読まれると、西洋医学も中医学も同じ医学であるのがご理解できたと思います。
又、中医学のみに限らず、その他の東洋医学もれっきとした医学です。
しかし、日本の一般の方々は東洋医学を西洋医学と同等に考えている人は少ないでしょう。
なかには、「東洋医学」を、民間療法の1つ・非科学的な治療・いかがわしい・「お呪い」や「迷信」といった認識で捉えておられる方もいらっしゃいます。
何故、その様なことになったのか?
その答えは日本おける中医学の歴史や、鍼灸学校の教育システムの中に隠れております。

それでは中医学の歴史からのぞいてみましょう。

★ 日本における中医学の歩み★
=中医学の受容期(飛鳥〜室町)=
中医学はいつごろ中国で生まれたと思いますか?
中医学の原典といわれる書に「黄帝内経(こうていだいけい)」という書物があります。
この書は紀元前200年頃の「前漢時代」に編集されたと言われます。
更にそれからさかのぼること500年前の「春秋時代」には、既に鍼灸治療は行われていたそうです。
この様に中医学は長い年月をかけて経験と実績を積み重ねて除々に出来上がってきたのです。
因みに中医学の基本的な部分は「漢」の時代に出来上がっておりますから、日本では中医学のことを「漢方」と呼びます。
皆さんもよくご存知の「漢方薬」はここからきております。
さて、そして日本には伝わったのは6世紀の半ばに、中国人が鍼灸治療の方法を持込んだのが始まりだと言われております。
その後「遣隋使」や「遣唐使」などにより徐々に伝えられ、平安時代には日本に定着していったそうです。
平安後期から室町時代にかけての医療は寺院により行われていたので、中医学は僧侶によって伝承されてゆきます。
その後、室町時代に入ると医師を専門職とする人が現れ始め、中国(明)に漢方を学ぶために留学をする者まで出てまいりました。
飛鳥時代から室町時代にかけてが、中医学の受容期とも言われます。
因みに、中国から医学が伝わる以前の日本の医学は「和方」と呼ばれ、現在でも民間療法として残っているものもあります。

=漢方の最盛期と日本の漢方(和漢)の誕生(安土桃山〜江戸)=
さて、漢方が日本に定着してくると、日本人の漢方医の手によって書かれた医書が出回るようになります。
その中には、本来の漢方理論を無視したハウツー本的な本も出回るようになり、これが安土桃山時代には大流行したそうです。(今も昔も日本人はハウツー本が好きなようですね。)
そして、これが日本特有の漢方(和漢)を生むきっかけになってゆきます。
江戸時代へと入ると経済や社会も安定してまいり、益々医療が盛んになってまいります。
江戸時代が漢方の最盛期といってよいでしょう。
やがて江戸時代も中期になると漢方の理論を受け入れず、日本独自の漢方を目指す派閥も現れてまいりました。
この一派の理論は簡便であったことから、多くの医師から支持を受け、やがて全国へと広まってゆきました。
そしてその後明治以降も受け継がれることとなるのです。

=鎖国と日本漢方の発展(江戸)=
江戸時代の大きな出来事として「鎖国」がございます。
この「鎖国」は日本の漢方にとっても大きな影響を及ぼします。
先ず鎖国により中国からの情報が途絶えてしまいます。
この時点で中国から日本に伝わっていた漢方の情報は不十分であったため鎖国以降は不十分な漢方の情報を元に日本独特の漢方へと発展してゆくことになります。

=転換期(江戸)=
江戸幕府は鎖国時代にもオランダとは国交を保っていたのは皆さんもご存知のことと思います。
江戸中期にそのオランダから現代医学のルーツである「蘭方」が入ってまいりました。
やがて徐々に「蘭方」は「漢方」に代わり、日本の医療の主役となりってまいります。
とはいうものの、まだまだ鍼灸治療は明治維新までは盛んに行われていたそうです。

=衰退期(明治〜昭和初期)=
時代は明治時代へと入ってまいります。
漢方は江戸時代中期に入ってきた「蘭方」によって主役の座から降ろされてしまっていたわけですが、今度は明治維新により医療の表舞台からも消されてしまいます。
明治政府は西洋医学のみを医療として普及させたのです。
具体的には、西洋医学を修得した者のみを医師として認めました。
つまり、明治以降の医療制度では、漢方医や鍼灸師は医療の枠から外されてしまったわけで、これは現在も続いております。
しかし明治維新以降、漢方や鍼灸治療が消えたわけではありません。
何故なら、現在と同様にこれらの治療に頼っている患者さんが存在するからです。
この様に医療の表舞台から降ろされた鍼灸治療や漢方薬は、民間療法・民間薬として医療の枠の外で生き残ってゆきます。
以上の政治的な方針により、今現在も残る鍼灸治療のイメージや中国漢方と同じ名前を持つのに効能が全く違う漢方(和漢方)が存在したりするのです。
明治の後期になると、臨床に携わる一部の医師から漢方の効果を認める者も出てきて漢方の学習を始める者も現れたそうです。

=再注目期と現代の問題点(昭和〜現代)=
時代は昭和へ入り漢方が再度注目を浴びる時代がやってまいりました。
第2次世界大戦が終戦をむかえ、社会が落ち着きを取り戻すと、漢方薬の慢性病への効能が評価をされ始めます。
昭和47年には日中国交回復により閉ざされていた中医学の知識が再度日本へ入って来るようになり、これを学習する医師・薬剤師・鍼灸師が現れます。
昭和50年代前半には健康保険適用の漢方エキス剤が増え、これを機会に漢方が再び見直されるきっかけとなり、以降漢方エキス剤を使う医師は現在まで増え続けております。
漢方が見直され漢方エキス剤を使う医師が増えるのはとても良いことなのですが、その反面 新たな問題も発生しております。
医師が漢方エキス剤を使用する場合、本来の漢方の理論ではなく現代西洋医学の病名に合わせて使用せれていることの方が多いため、効き目が無かったり、副作用の問題も出てきております。

以上が日本における中医学の歩みです。
当初は医療として日本に入ってきた中医学が明治維新以降、医療制度から外されてしまい現在に至っていること。
また、中国から伝わった漢方が簡易的なものとして一部の流派に伝わっていったこと。
日本漢方が鎖国により独自の発展をしたことなどが、おわかりになったと思います。
これらの歴史が日本の一般の方が持つ「東洋医学」や「鍼灸治療」のイメージを作り上げるきっかけになってしまったのです。
更に、この様な歴史は、現代において下記のタイプの漢方薬や鍼灸に携わる人達をうみました。
タイプ@:中医学を1からしっかり学ぼうとするタイプ
タイプA:中医学をしっかり学んではいないのに、学んだ気になっているタイプ
タイプB:中医学の理論を受け入れず、日本独自の漢方処方や鍼灸を行うタイプ
タイプC:中医学の理論を受け入れず、現代医学の概念で漢方処方や鍼灸を行うタイプ

現在の日本で漢方薬や鍼灸に携わる仕事をしている人々の考え方は概ね上記の4パターンになります。
そしてこれらの人々の多くが東洋医学を実践していると言うでしょう。
このことが一般の方々を混乱させる根源になっているのです。

さて、ここでちょっと矛盾を感じる方はいませんか?
先程「医学」とは、「生理学」や「解剖学」といった正常な身体の働きの知識の上に病気の成り立ちである「病理学」があり、さらにその上に「治療法」がありました。
漢方薬や鍼灸治療とは、中医学による治療法の1つであります。
つまりこれらの根底には中医学による生理学や解剖学(経絡・経穴学、臓腑学)病理学(病因・病機学)などの基礎的な理論の上になりたつものです。
先程のABCのパターンの場合だと、基礎的な中医学理論を受け入れずに、最後の治療法のみを利用しているにすぎません。
例えば、現代西洋医学と中医学ではそれらの学問の概念や理論が全く違います。
生理学などの基礎的な学問から最終的な治療学まで現代西洋医学の概念で行えば矛盾はありませんが、基礎的な理論は現代西洋医学で治療法は中医学というやり方では治療効果 を100%発揮することは難しいと思います。
針治療の場合は最初から最後まで現代西洋医学の概念で治療をすることは可能ですが、現代西洋医学では、中医学による針治療の全てが解明されてはおりませんので、全てを現代西洋医学の概念で治療できる疾患は限られてしまいます。
しかしながら、針や漢方薬は基礎的な学問や理論を知らずに、「○○病には○○が効く」といった使用法でも効果 が出る場合も多いのも事実です。
ですからABCのパターンの場合でも全く効果がでないというわけではありません。
ただし、鍼灸や漢方の効果を100%発揮させるのは不可能でしょう。
それどころか身体に対して悪影響や副作用を及ぼしてしまう場合もあります。
よく、針や漢方薬には副作用が無いと言われますが、それは全くの嘘です。
病を治すものですから、間違った使い方をすれば副作用がでるのは当たり前のことです。
日本国内における漢方薬の世界では、最初から診断までを現代西洋医学の概念で行い最後に現代西洋医学の病名に合わせて漢方薬を処方したり、症状のみに合わせて簡易的に漢方薬処方を行っている所もよくあります。
その場合、たまたま薬が合えば効き目はありますが、効き目が出ない場合も多々あります。
当院にも、中国で処方してもらった漢方薬は効いたのに、帰国して日本の病院や薬局で漢方処方をしてもらったら、以前の症状が再発してしまったという相談が度々あります。

さて皆さんの中には、
{お医者さんは中医学や東洋医学の知識をもっていて当たり前だろう}とか
{お医者さんは針の知識は無くても漢方薬の知識は持っているだろう}とか
{鍼灸師は皆中医学や東洋医学については詳しいだろう}
などと思っている方も多いと思います。
では、次のコーナーではその辺について紹介をしてみたいと思います。

 


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