書痙とは、一般の動作には問題はないのですが、字を書こうとしたり、また書き始めたりすると手に持続性の筋肉の緊張による強張りや振るえ(振震)がおきて、書字が困難になる病気のことをいいます。
この病気は人口10人対し5名程度の発症率で頻繁にみられる病気ではないのですが、職業などで手を長期にわたり頻繁に使う人にあらわれるため、社会生活に深刻な影響を及ぼします。

これから、書痙について西洋医学と中医学のそれぞれの考え方から治療まで紹介していきたいとおもいます。

<西洋医学から書痙を考える>

書痙は、長い間、神経症(心因的な原因から頭痛、動悸、不眠、振るえなどをおこす疾患で精神病とは違い人格が障害されず、身体的以上は認められないもの)の一部と考えられてきました。
現在では、ジストニアという脳の障害による筋緊張異常や姿勢異常、不随意運動の一つであると認識されています。
ただ、原因が脳の障害であるとはいえ、書痙の場合は少なからず精神的な要因も関与していると考えられています。
年齢は20才〜40才に多い。男性に多い。

また人前で字を書くときだけ手が震える神経症由来の書字困難もあります。これらは対人恐怖症の症状と考えられます。
このタイプの書字困難に対しては基本的には精神療法にて治療していきますが、状態に応じて抗不安薬や抗うつ薬を用います。

原因―はっきりとした原因はわかってはいないが、作家、ピアニスト、タイピストなど身体の一部を反復して長期に動かす人に多い傾向があることを考えると、過度の使用とストレスによる影響が考えられる。
発症の前に手の怪我が認められる場合もある。

症状―字を書く動作やピアノを弾く動作をしようとしたり、始めたりすると、手が強張り、捻じれ、振るえが出てきて動作が困難になる。
症例の25%ぐらいに反対側にも同様の症状がでることがある。
知的機能が障害されることはない。

治療―原因がはっきりしていないので、確実な治療法は確立していない。
対症療法として、薬物療法、ボツリヌス治療などがあり、外科的に治療して効果 があると判断されれば外科療法も選択される。
また、神経症由来の書字困難の可能性も考え、神経科、心療内科的な薬物療法(精神安定剤)や筋弛緩剤なども使用される。
指だけで持つと書痙が出るので、手全体で把握することができるような筆記用具などの装具を使用する。

@薬物療法― 一般的にはアーテンという抗コリン剤が使用される。
神経伝達に使われるアセチルコリンという物質を抑え、過剰な神経の興奮を抑える。

Aボツリヌス(ボトックス)治療―ボツリヌス菌という食中毒の原因の一つである毒素の力を利用する治療法。
緊張のある筋肉を特定して、毒素の量を調整しボツリヌス毒素を筋注射して緊張のある筋肉を麻痺させる。
ボツリヌスは美容整形でシワを取るときなどにも使われるので、使用方法を守り、ボツリヌス治療を許可された医師の下で使用されるので危険は少ない。
効果は3〜4ヶ月で、繰り返し注射をする必要がある。

B外科療法―定位脳手術を施す。
定位脳手術とは、頭蓋骨に500円玉ぐらいの穴を開けて、予めMRIやCTで確認してある目標点を針状の装置を使い凝固させる治療法です。
手術は局所麻酔の下でおこなわれます。
随時、患者の意識はあり手の動きを確認しながら書痙をおこす神経支配ポイントを凝固させます。
手術後は10日程度の入院が必要になります。
まだ症例数も少なく、外科手術にともなう危険性もありますが、経過が良ければ根治の望める治療法です。

<中医学から書痙を考える>

※中医学のお話しをする前に、ホームページのトップページのやや下にある「わかりやすい東洋医学理論」の中の中医学の陰陽、生理観、気血水(津液)、内臓(五臓六腑)、経絡を読んでいただきたいとおもいます。

中医学では書痙のことを「書写痙攣(ショシャケイレン)」といいます。
素問という中医学の基本になる考えの中に「諸暴強直、皆風に属す」という文があります。
(後述しますが、この中で「風」とは痙攣、四肢のひきつりなどの意味を指します)
この意味は、「急に発病する多くの痙攣、強直は大体、風証に属する」となります。
「痙攣」は身体を「風邪」という邪気が侵した結果あらわれる症状です。

では、これから「風邪」が起こる原因と関係の深い臓器、病理について説明していきます。

中医学における健康な状態とは気血水(津液)のバランスがとれ、滞りなく流れている状態です。
病気とはその反対で気血水のバランスがくずれ、弱くなったり、強くなりすぎたり、滞ったりしている状態です。
「風邪」も身体のバランスが崩れた時に身体の中から発生したり、外から侵されたりします。

まず、病気の原因からお話しします。
病気の原因には内因、外因、不内外因の三つがあります。
外因とは 体外より人体を襲う病邪(邪気)のことで、六淫(ろくいん)といって、風、寒、暑、湿、燥、火(熱)があります。

内因とは 情志(感情)のことで、怒、喜、思、悲、憂、恐、驚の7種類の感情が、臓器の働きを悪くして気血水が正常に働けなくなり、病気になると考えます。
内風、内寒、内湿、内燥、内火の5種類あります。

不内外因とは食生活、労働、安逸、性生活などで、これらを節制せずバランスが悪くなると臓腑に悪影響を与えて病気になります。

書痙の場合は、内風、外風では「内風」が多い。

風邪の作用には、
@風邪は陽邪、その性は開泄、上部を侵しやすい…
A風性は善く行り数々変ず…
B風は百病の長
C風性は動を主る
などがあります。
また、中医学の古典の中にも「諸風掉眩、皆肝に属す」という言葉があり、これは全ての風証やめまいに関わるものは皆肝に属する という意味である。
このことから、古くから痙攣や振るえなど原因の風証と肝は関係が深いと考えられている。

肝の機能は
@蔵血作用… 血液の貯蔵。血液量の調節。出血予防。などの作用
A疏泄作用… 気の流れをスムーズにする。脾胃(消化吸収、栄養運搬など)の働きを促進。情志のコントロール。
胆汁の分泌、排泄。女性の排卵や月経、男性の射精をスムーズにする。

※血液を貯蔵、調節し、排卵や月経に関係することにより 肝は婦人科疾患に非常に関係の深い臓腑といえる。
これらが肝の機能です。

そして、肝と関係の深い身体との連絡では
B 志(精神活動)は怒る
C (体)液は泪
D 身体は筋、その華は爪…この場合の筋とは靭帯のことであるが、この筋に血液(陰液と血液)が十分にいきわたっていれば正常に動くが、血液が少なければ、筋が栄養を失い、手足の痺れ、振動、曲げ伸ばしが不便になる。
E 開竅(孔)は目…肝の経絡は目に連絡している。


さらに、書く動作には 長時間座っていること、目を酷使することなども挙げられる。
中医学では、久視は血を傷る、久座は肉を傷る、久行は筋を傷る、久立は骨を傷る、久臥は気を傷る と言われる。
つまり、字を継続して書き続けると 久視により血を傷ってしまい、久座によって肉を傷ってしまうことになる。

書痙はこのように継続する姿勢や動作によって血を傷ったり、またストレスが肝に影響したりして発症すると考えます。


弁証論治(中医学診断と治療)

○(肝)血虚生風―生血不足、出血過多、久病により肝血が不足して筋骨が栄養できなくなった状態。

症状―書痙がおこる。筋肉のひきつり、振るえが起こる。

ストレスを溜め込みやすい、めまい、多夢、目がかすむ、顔や爪の色が悪い、月経が少ないなど。

治療―養血熄風(ヨウケツソクフウ)…血液を養い、風邪を自然消滅させる。

食べて治す―ごま、松の実、ぶどう、うなぎ、レバーなどは血虚を改善させ、肝を助けます。


○(肝)陰虚内風―房事の不摂生、久病、感情に極みや熱病などの原因により陰液が損傷し、筋骨を栄養できなくなった状態。
(陰とは津液のことで、津液は血の組成成分なので、血を消耗すると同時に津液も消耗することになる)

症状―書痙がおこる。筋肉のひきつり、振るえが起こる。
手足のほてり、午後に微熱でるなど。

治療―滋陰熄風(ジインソクフウ)…陰液を滋養し、風邪を消滅させる。

食べて治す―黒きくらげ、クコの実、山芋、スッポン、イカなどは陰虚を改善させ、肝を助けます。

※血虚生風と陰虚内風の症状は似たところがあります。これは血液の成分に津液が含まれるので血虚、陰虚共に影響し合う関係にあるからです。


○肝陽化風―肝、腎の陰虚が陽の亢進を制御できなくなるとおこる。

症状―書痙がおこる(痙攣、捻れなどが強くでる)。筋肉の引きつり、振るえ。症状は強めに出現。
めまい、頭痛など

治療―育陰潜陽、平肝熄風(イクインセンヨウ、ヘイガンソクフウ)…陰を補い、陰の力で陽を沈める。肝を整えて風邪を消滅させる。

食べて治す―陰虚内風と同じもの、その他にセロリ、金針菜、カニなどは肝の熱をとり、火を下げる作用があります。

◎まとめ
決してパソコンを打つ動作の時に手が引きつってしまうことが、すぐ書痙につながるとは考えられないが、頻繁にそのような症状がある場合は、精神的にも、身体的にも疲れているのだと自覚が必要であるとおもう。
書痙は治るまで非常に時間のかかる病気です。治療を受けるときは長期によって食事、生活を気をつけましょう。

 


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