子宮の位置は、通常骨盤のほぼ中央にあり、先端は膣の中に少し突き出た状態にあります。
子宮下垂とは子宮が正常な位置から離れて、膣に沿って下降した病変をいいます。
そのうち、膣から外に出ていないものを子宮下垂といい、子宮の一部または全体が膣外に脱出しているものを子宮脱といいます。
子宮が下がっている場合、子宮の前にある膀胱、子宮の後方にある直腸がそれぞれ一緒に引っ張られて下降してくることがあります。そのため、膣内に圧迫感がある、便秘や腰痛、腹痛を起こしたり、排尿困難や尿失禁を起こす場合もあります。

子宮下垂と子宮脱は子宮を保持している周囲の筋肉群や靭帯群などの緊張力がゆるまってしまったり、弱まってしまったときに起こるとされています。
そのため子宮下垂は加齢によるものが多く、閉経後5〜10年で始まるケースが多いようです。また多産によって子宮が下がったり、出産で分娩時に骨盤底の筋肉が引き伸ばされたり、出産後すぐに仕事を始めた方、重労働者、虚弱体質の方に見られます。

以下にくわしく、中医学的な子宮下垂の捉え方、タイプ別の治療法・日常生活の過ごし方をご紹介していきたいと思います。


▼中医学的子宮下垂の捉え方▼
中医学では主に「体全体のパワー不足」によって引き起こされると考えられています。
子宮下垂になりやすい方は上記でも少しふれましたが、加齢、多産婦、出産後すぐに仕事をした、虚弱体質など、すべての方に共通 してエネルギーの消耗による体のパワー不足があげられます。
その他、疲れ易い、疲れが取れにくい、倦怠感、息切れを起こし易い、話すのが億劫、食欲がない、風邪を引きやすいなどエネルギー不足による症状が全身に見られます。

では、なぜ子宮下垂がパワー不足で起こるのかといいますと、通常子宮をはじめとした各々の臓器は「一定の位 置を保つ力」を備えています。
その保つ力が生まれつき弱かったり、後天的に失ってしまった場合、一定の位 置からダランと下がってしまいます。これが中医学で考えます「パワー不足=下垂症状」になります。
皆さんもご存知の身近な例をあげますと胃下垂があります。生まれつき胃下垂がある方の特徴として、痩せていて食べても太らない、疲れやすいなど胃の虚弱症状がみられます。それに対し、子宮下垂は後天的なパワー不足によって起こることがほとんどです。


▼中医学的診察・治療方法▼

■診察方法
個人の体質やその時々の症状、体調を考慮したうえで、治療方法を決めていきます。
その他、食べ物の嗜好、生活習慣(睡眠時間、食欲、排便の状態など)を問診し、中医学独特の診断方法である舌診、脈診などを用いて診察していきます。
その診断に基づいて、個々の体質を把握し、その人その人に合った治療をしていきます。

■治療方法
中医学では、体全体をひとつの働きとして見るため、それが部分的にあらわれている症状だけなのか、或いは全身と関連した中で起こったことなのかという両方の視点で病気を見つめます。そして、全身のバランスを調整していきます。
一方、現代医学では体を細分化し、病巣であるひとつのパーツを中心に病気を見つめていきます。
中医学と現代医学では「身体を見る目」が異なります。こうした考え方の違いは治療にも反映され、それぞれの特徴になっています。

症状が軽度で手術の必要がない方は、鍼灸治療でエネルギーの補充を図り、日常生活の食事や体操などでエネルギーの保持・増進されることをおすすめします。

ここで簡単に、中医学的体のしくみについて、子宮下垂と関連の深いそれぞれの臓腑の働きについてどのように考えられているのかを説明していきたいと思います。

▼中医学的からだのしくみ▼

〜「気」「血」「水」とは〜
体全体の活動源である「気」、体内の各組織に栄養を与える「血」、血液以外の体液で体を潤してくれる「水」、これらの3つが体内に十分な量 で、スムーズに流れていることにより、体の正常な状態が保たれます。
もし、これらのひとつでも流れが停滞してしまったり、不足してしまったりするとからだに変調をきたし、様々な症状がでてきます。さらにこの状態を放置し、慢性化してしまうとお互い(気・血・水)に影響が及び症状が悪化してきてしまうのです。

〜臓腑の働きとは〜
「気・血・水」を作り出し、蓄え、排泄するといった一連の働きを担っているのがこの臓腑です。現代医学的な働き以外に中医学では「気・血・水」が深く関わってきます。
ですので、現代医学と全く同じ役割分担ではありません。ゆえに違う診たてができるのです。この点をまず理解してください。

<子宮下垂に関わる主な臓腑の働き>

「脾」・・ @ 食べたものをエネルギー(気・血・水を主に作り出す)に変え、体全体の機能を活発にします(運化作用)。
働きが弱まってしまうと、うまくエネルギーを生み出せないために疲れやすいなど全身の機能(臓器など)が低下してしまいます。
軟便または下痢、痰が多く出る、手足がむくむ、食欲がない、身体が重だるい

  A エネルギーを上に持ち上げる働きがあります(昇提作用)。
働きが低下すると、いいエネルギーが上にいかないために、めまい、たちくらみが起こり、さらに悪化すると子宮下垂、胃下垂、脱肛、など内臓の下垂が見られます。

  B 血を脈外に漏らさないよう引き締める働きがあります(固摂作用)。
働きが低下すると、不正出血、月経が早まる、青あざが出来やすくなったりします。


「腎」・・   生命力の源、生殖器・発育・成長関係と深く関わります。
「腎」には父母から受け継いだ先天の気が蓄えられています。生まれたときにこのエネルギーが少なく、足りなかったりすると、成長が遅い(初潮が遅い)、免疫力が弱い、小柄などの発育不良の状態があらわれます。
生殖器関係では、月経、妊娠、出産時のパワーの源であり、産後エネルギー不足になると子宮を一定の位 置に保つ事ができず下垂しやすくなります。
「腎」のエネルギー(先天の気)は、「脾」から作り出すエネルギー(後天の気)により補充されます。
年齢が増すにつれて、腎が支配する器官の機能減退症状があらわれてきます。
例) 骨や歯がもろくなる、耳が遠くなる、髪が薄くなったり、白髪が多くなる
婦人科疾患では無月経、不妊症、流産しやすい、子宮下垂
冷え症状が加わると、さむけ、下痢をしやすい(特に朝方)、手足、腰の冷え


▼ 現代医学的な診断・検査・治療法▼

〜子宮下垂・子宮脱のレベル〜

第1段階(子宮下垂)
子宮が元の位置より少し下がっている状態です。この段階では自覚症状がありませんが、膀胱がいっしょに下がっている場合には尿が漏れやすくなったり、残尿感がでることがあります。

第2段階
子宮が腟の入り口あたりまで下がっている状態です。入浴時などに陰部からしこりのような子宮の出口に触れてわかることが多いようです。

第3段階(子宮脱)
子宮だけでなく、膀胱や直腸の一部も腟の壁とともに下垂して外陰部の方に出ている状態です。
このように膀胱や直腸が腟の壁をふくらますように下がっている状態を膀胱瘤、直腸瘤と呼びます。歩くのが苦痛になり、排尿も排便もうまくできなくなります。トイレに行っても尿はわずかしかでませんが、手指で子宮をおしこむようにすると排尿できます。

■検査
子宮下垂の場合は腹圧をかけながら下垂度合いをみたり、子宮の一部(子宮膣部)を牽引しながらみます。
子宮脱の場合は膣外に脱出している子宮をみればわかります。

■治療
発症初期であれば、合成樹脂製の円形のぺッサリーという子宮を持ち上げる機器を利用しますが、ぺッサリーを外した時には効果 がなくなること、長期使用すると膣壁に炎症をおこしてしまうこともあります。その他手術による子宮保持装置の補強です。
子宮脱に膀胱脱、直腸脱を伴っている場合は膣式子宮全摘術に前・後膣形成術を行なう方法が現在もっとも多く行なわれている方法です。
膀胱脱のみ伴う場合は、前膣壁形成術を、直腸脱のみ伴う場合は、後膣壁形成術を行なうこともあります。
子宮脱があり妊娠を希望し子宮頸部延長症を伴う人の場合には、子宮頸部を切断後に子宮の保持装置を補強をする手術を行ないます。
高齢者の場合などでは前後の膣壁を中央で縫合閉鎖することもあります。


▼中医学的子宮下垂の原因▼

・虚弱体質
・産後・・・早くから仕事をした、力仕事をした
便秘になり力み過ぎた
長期間咳の症状がある
長期間軟便または下痢症状がある
・性交過多


▼中医学的子宮下垂のタイプと治療法▼

●気虚タイプ●
「エネルギー(気)が不足(虚になる)」により、全身のパワー不足がみられます。

○主な症状
疲れやすい、やる気がでない、息切れ、話すのが億劫
白いさらさらしたおりものが多くでる、頻尿

○治療法
エネルギーを益し、下がった子宮を持ち上げていく「補気・昇提・固脱」の治療をしていきます。

●腎虚タイプ●
腎は生命の源でありエネルギーが蓄えられている場所です。
疲れが長期間続きますと蓄えられているエネルギーが消耗し、さまざまな症状が現れやすくなります。

○主な症状
めまい、耳鳴り、腰膝がだるく脚に力が入らない、頻尿
疲れやすく取れにくい

○治療法
腎のエネルギーを益し、下がった子宮を持ち上げていく「補腎・益気・固脱」治療をしていきます。


▼タイプ別にみる生活養生・食養生▼
自分のタイプ(体質)を判断できた方はこれから説明していきます。
タイプに合った食養生を1つでも2つでも毎日の生活の中に取り入れ、実践してみてください。
体質が徐々に改善し体調がよくなり、症状が軽くなっていくのが実感できると思います。

気虚タイプと腎虚タイプは、ベースが気虚ですので生活習慣、食べ物はほぼ同じです。

●気虚タイプ・腎虚タイプ●
生活習慣 ・産後の方は、子育てがタイヘンでごはんもゆっくり食べられないというお母さんは多いと思います。
しかし食事を抜いたり、栄養素が偏ったりすると下垂状態を悪化させますので、消化が良く、栄養バランスの取れた食事と休養はしっかりとりましょう。

消化力が弱い気虚タイプの人は、消化・吸収をよくするためにもよく噛んでゆっくり食べましょう。
スタミナが切れやすいこのタイプの人は、穀物をしっかりとり、睡眠もしっかり取るように心がけて下さい。
ダイエットによる食事制限は禁物です。


食べ物 〜エネルギーを益す食べ物を(適度に)摂りましょう〜

○気虚タイプ・・ (穀類)うるち米、粟米、小麦製品
  (豆類)大豆や大豆製品、牛乳
  (肉類)牛肉、鶏肉、烏骨鶏
  (野菜)山芋、じゃがいも、里芋、かぼちゃ、人参
  (魚類)いか、貝柱
  (果物)なつめ、もも、さくらんぼ
  (お茶)杜仲茶、ほうじ茶、なつめ茶

○腎虚タイプ・・上記の食べ物にプラス
 栗、くるみ、黒ごま、クコの実

〜体を冷やす食べ物、辛い食べ物、油っこく味の濃い食べ物は 胃を刺激し気を消耗させるので避けましょう〜

辛い食べ物・・青唐辛子、ねぎ、コショウなど
冷やす食べ物・・すいか、バナナ、イチジク、なし、苦瓜、薄荷など


▼その他日常生活での注意点▼
出産によって子宮下垂になった人は産褥体操(さんじょくたいそう)をきちんと行えば、子宮の位 置は元に戻ります。
加齢にともなう子宮下垂はケーゲル体操がおすすめです。自力更正の方法で、ゆるんだ骨盤底筋を強化する体操です。

<ケーゲル体操>
●トイレでの体操
おしっこの最中に4〜5回、途中で止めてみましょう。止められるなら、筋肉が鍛えられています。

●気がついたときのくりかえし体操
1. 10秒間力強く肛門を締めてください。
このときに、肛門と会陰部の間に軽く指をあててみて肛門と会陰部の間が硬く少し持ち上がるように力をいれます。
2. 力を抜きます。
3. 3回ほど、肛門を素早く締めては、力を抜きます。
4. 1分間休みます。

毎日100回、最低3ヶ月間続けましょう。

●その他、骨盤底筋肉を鍛える簡単体操
・・あお向けに寝て・・
あお向けに寝て、脚を肩幅に開き、膝を立てます。
身体の力を抜き、肛門と腟をキュッと締め、そのままゆっくり5つ数えます。
この動作を繰り返します。

・・椅子に座って・・
床につけた脚を肩幅に開きます。
背中をまっすぐに伸ばし、顔を上げます。
肩の力を抜いて、お腹が動かないように気をつけながら肛門と腟をキュッと締め、そのままゆっくり5つ数えます。
この動作を繰り返します。

 


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