乳腺炎とひとくちに言っても症状は様々です。
もともとあったしこりが、どんどんひどくなって熱を持ち、真っ赤になり、乳腺炎になる場合や、何の前触れもなく、ある日突然しこりができて、一気に高熱が出る場合や、熱はないものの、おっぱいが石のように固くなり、搾乳もできないほどになる場合もあります。どんな状態にしても、そのままにしておくとどんどん悪化し、切開(手術)しなくてはいけなくなります。
おかしい、と思ったら早めに対処することで悪化を防ぐことができます。
産婦人科だと抗生物質などを処方されて終わりということもよくあるようです。
お薬を飲んでも搾乳はできますが、一時的な対処法であり、根本的な解決にはなりません。

一般的に乳腺炎は母乳が出すぎて乳腺がつまってしまうことを想像される方が多いかと思います。実は張らないおっぱいでも溜まらないおっぱいでも乳腺炎になりえるのです。
これは何故でしょう?
はじめに西洋医学からみた乳腺炎の種類、症状、治療方法をご説明します。
その後東洋医学(中医学)からみた乳腺炎(乳少といいます)の説明をさせていただきます。

西洋医学からみた乳腺炎
@ 急性乳腺炎
  授乳中の乳腺に細菌感染(主にブドウ球菌)が起きて生じる
A 鬱滞性乳腺炎
  乳汁が分泌されず、に乳腺内にたまることによって起きる
B 慢性乳腺炎
  陥没乳頭(陥凹乳頭ともいう)が原因で起きる

症状
@ 急性乳腺炎
  乳房が赤く腫れあがり、激しい痛みと高熱を伴う。
感染は乳首を乳歯によって傷つけられることが原因と考えられています。
生後5ヶ月以上の乳児を育てているお母さんが発病します。

A 鬱滞性乳腺炎
  乳児への授乳が十分でない場合
  乳首の発達が悪くて乳汁が分泌されにくい場合
 (急性乳腺炎ほど激しい全身症状は出ません)

B 慢性乳腺炎
授乳とあまり関係せず、乳輪近辺に腫瘤が生じ、時々腫れて膿が出ることを繰り返します。

一般的な治療法

@ 急性乳腺炎
 抗生物質による治療が必要になります。
化膿が進み、膿瘍ができてしまった場合は切開・排膿せねばなりません。
治療が功を奏すると急速に症状は改善しますが、授乳はストップしなければなりません。

A 鬱滞性乳腺炎
  搾乳(乳しぼること)と乳房を冷やすなどの治療があります。

B 慢性乳腺炎
  炎症性腫瘤の切除と炎症のもとになっている陥没乳頭の処置療法を行わなければなりません。行わなければ、再燃する可能性が高くなります。
まず、抗生物質で炎症を沈静させ、それから根治手術を行います。
これから妊娠・出産を考えている人は形成外科で治療してもらうほうがいいでしょう。


東洋医学(中医学)からみた乳腺炎とは?

中医学は体に存在する活力エネルギーの失調部分を調整し、元のバランスの良い状態に戻し、体の元気を回復させる事にあります。
乳腺炎が引き金となって起こっている他の不快な症状も緩和されていくことが大きなメリットです。例えば、体のだるさ、食欲不振など様々な症状が乳腺炎と一緒に快方に向かっていきます。
中医学では専門用語がたくさん出てきますので、わかりやすい言葉でご説明していきたいと思います。

乳腺炎と関わりの深い臓腑
中医学では基礎物質(気・血・水)のほかに臓腑(内臓)がとても大切なものと考えられています。
現在、日本の西洋医学で使われている、内臓を表す用語は中医学の「五臓(肝・心・脾・肺・腎)」と同じ文字で表現していますが、機能は必ずしも一致しません。
肝臓ではなく、「肝」というように、中医学について書かれた文章の中で五臓の名前に「臓」の文字をつけないのは西洋医学と区別 するためなのです。
中医学独特の診断方法で、何が原因で、気・血・水のいずれが、どの様にバランスを崩し、五臓六腑のどの臓腑が、どの様に失調したかを見極めます。
これらによって治療方法が異なるわけです。
タイプによって治療方法が異なりますので、もちろん鍼を打つ場所や漢方の処方も異なるわけです。
乳腺炎にはおおまかに2つのタイプに分かれます。
ご自分の体調などと照らし合わせてどちらのタイプなのかご参照ください。

☆ タイプT☆
気血両虚によるもの

乳汁は「血」が化生したものであり、気によって運行されると考えます。したがって普段から気血生化の源である脾胃が虚して(不足している)いたり、分娩時や産後の出血過多で気血が不足すると乳汁の生成に影響し、乳少(乳腺炎)がおこります。
基本的に栄養状態が悪いことが原因です。

「血」とは中医学的な専門用語です。どのような働きをしているのか詳しく紹介していきたいと思います。
血の生成
血は五臓でいう「脾胃」で作られます。脾胃の消化吸収により「血」が生成される為、脾と胃は気血生化の源といわれます。

血の機能
・ 全身に栄養分を供給し、潤いを与えます。
・ 精神活動の主要な基本物質になります。例を出すと、血の運行が異常である場合には、精神不足、不安感、多夢などの症状が出やすくなります。

血の循環
正常な血の循環は気の推動作用(正常な生理活動に対し激発と促進作用があります)によい行われ、内蔵の生理機能と深く関係しています。
血は「脾」で飲食物から作られ、「心」と「肺」の力によって全身に運ばれ、「脾」の統摂と「肝」の貯蔵、疏泄機能の調整で行われています。

血の原料は五臓の中の「脾」で飲食物を消化して生成される水穀の精微(栄養分)です。生成された血は「心」と「肺」の働きで五臓六腑から皮膚にいたるまで全身に送られ続けます。
全身に送られる血は体の働きを支える栄養源として活用されます。
筋肉や骨格が丈夫でたくましくなるのも、物がしっかり見えるのもすべて血の働きです。
さらに血は気とともに精神活動を支える基本物質でもあります。
基本物質が十分にあるからこそ、意識がはっきりし、精神が安定するのです。

先ほども述べましたが、乳腺炎(乳少)は「血」が化生したもので、気によって運行されています。
では「気」とは何でしょう?簡単にご説明します。
「気」は先天の生まれつきと食べ物の栄養分(脾胃で血と一緒に消化吸収により作られます)呼吸(肺の機能により人体に吸いこまれます)取り込まれ、体内の様々な働きを支えています。
「気」は一種の活動であり、絶えず運動し、全身の内外の各組織、器官をめぐっているのです。そして「血」の項でも紹介しましたが、推動作用など、様々な働きを担っているのです。
「血」は「気」から作られ、その「血」は「気」に変化することもあるように、気血は車の車輪のように、密接に連動しながら人体の生理を支えています。
気血両虚とは、どちらか一方の乱れがもう一方に深刻な影響を与えて病気が起きることをいいます。

● 気血両虚による細かい症状 ●

● 産後に乳汁が分泌しない、または分泌量が非常に少ない
原因
母乳はお母さんの血液「血」からできています。
母乳のおおもとが気血不足になり、乳汁の生成が不足すると起こります。

● 皮膚の乾燥
原因
血虚のために皮膚を潤せないとおこります。
前項でも述べましたが、「血」には身体を潤す働きがあります。これらを滋潤作用といます。これらが不足すると皮膚の栄養失調状態になり、皮膚の乾燥感が起こります。
皮膚表面の皮脂膜を作る力が弱くなってしまっている状態です。

● 顔面蒼白
原因
気血が不足して顔面部をうまく栄養できないと起こります。
「脾」の運化作用には食べ物から気血を作りそれを上にある「肺」などに送る働きも含まれています。この気血を上に持ち上げることを「昇清作用」といいます。
「脾」の運化作用が失調すると気血を生成できなくなるばかりか昇清作用も減退してしまいます。その結果 、顔面部の栄養不足がおこり、顔面蒼白になるのです。

● 食欲減退・大便溏薄
原因
脾胃虚弱により運化機能(食べたものを消化吸収して全身に栄養分を運ぶ作用)が減退すると起こります。

★ タイプA ★
肝鬱気滞によるもの

産後に情志が抑鬱して条達が悪くなると、気機(気の運動)が滞って経脈の運行不利がおこります。そのために乳汁の分泌が阻害されると乳汁がおこります。

「肝」は肝臓だけでなく、体全体の機能を調節し、消化吸収や血流を正常に保ち、精神活動や情緒をも司る臓腑と捉えられています。
自律神経系の緊張や失調との関係が深いのです。「鬱」は機能の阻滞を表します。
つまり肝鬱には肝機能のストライキによる体調や精神活動の不調のことなのです。
「肝」は憂鬱、イライラ、思考力の低下、ため息などの精神面との関連が深い臓腑です。
こういう状態を「気滞」といいます。「気」は活気の気で、本来体内をスムーズに流れる生命エネルギーを指します。「滞」は渋滞の滞で、流れの悪い状態を指します。
つまり「気滞」は精神面、肉体面でのスムーズな気の流れが悪くなった状態です。
これが乳汁の分泌と深く関係していると考えます。


● 肝鬱気滞による細かい症状 ●

● 産後に乳汁が分泌せず、乳房は脹満して痛む
原因
肝気が鬱滞して気機(気の運動)の運行が失調するとおこります。

「肝」
「肝は女性の先天の本」とも古来言われているほど、女性にとっては大きな臓腑です。「肝」には「血を貯蔵する」「疏泄をつかさどる」という大きな2つの働きがあります。
生理時の血液量をコントロールしているのは、主に肝の「血を蔵す」働きによるものです。
女性の病気は、血の問題と切っても切れない関係にあります。
また、これらは感情、精神状態、自律神経の状態と密接に関連しています。
臓腑の中で、最も感情の状態や自律神経、血の問題と深く関連するのが肝です。
肝は「疏泄(全身の気・血を伸びやかにさせる)」という働きによって、全身の気・血を伸びやかに、滞りなく循環させています。

● 身体発熱
原因
「肝」はのびのびとした環境を好みます。しかし、過度のストレス・イライラなどの状況下では「肝」はのびのびせず、「肝の気」がスムーズに流れなくなってしまい、渋滞を起こします。気や血が渋滞を起こすと熱を生む特性を持っていますので、肝の気が渋滞したことで熱が生まれてしまいます。
これを肝鬱といいます。つまり肝鬱は肝機能のストライキによる体調や精神活動の不調のことなのです。気欝化火によりおこります。

● 胸脇部の不快感
原因
「肝」の働きは疏泄といって気血の流れを調節しています。肝の疏泄が失調すると気血の流れが停滞を起こします。
流れが悪くなると停滞を起こした箇所で不快感や痛みが生じます。
胸脇部に不快感が生じるのは「肝」のエネルギーが流れているルートが胸脇部を通 っているためです。

● 胃脘部の脹痛・食欲減退
原因
「気」の滞りが続いて「肝」の機能が異常に亢進すると、「気」は本来違う方向に働きます。このような症状を「気逆」といいます。
気逆には体の上のほうに向かう「上逆」と脾胃の機能を損なう「横逆(おうぎゃく)」があります。
横逆がおこると栄養素を「肺」に送る「脾」の働きと、不要物を大腸に送る「胃」の働きが乱れ、お腹の張り感や痛みなどの症状があらわれます。
人によって、ゲップやむかつき、吐き気、大小便がすっきり出ない、便がゆるくなるなどの症状も併発します。

乳汁不足の原因のひとつがストレスであることがわかっていただけたかと思います。
育児に家事と日々の生活に追われ、常に気が張った状態ではないでしょうか?
できる範で周囲の協力を得ながら、ストレス解消し、針治療をしながら、育児を楽しく乗り切りましょう。
さて、乳腺炎になってしまった場合、里芋湿布やじゃがいも湿布などを患部に当てると良いなどの知識を持ち、乳房マッサージの経験豊富な助産婦さんもいらっしゃいますが、残念ながら、現状はごくわずかしかいらっしゃいません。

最後に日常生活に取り入れて頂きたい食べ物、生活習慣について書きます。
タイプに合った食養生を1つでも取り入れて、毎日の生活の中に取り入れ、実践してみてください。
体質が徐々に改善し、体調が軽くなっていくのが実感できると思います。

気血両虚タイプ
さくらんぼ・桃
インゲン豆・キクラゲ
蓮根・さつまいも・きゃべつ
枸杞の実・栗・棗
真鯛・ヒラメ・カレイ・どじょう・フナ
鶏・卵・ウズラ・羊
生姜など

消化力が弱く、高カロリーや繊維質が多い食材などは消化吸収しきれず、胃腸の負担にえなるので、栄養価は高くても消化しにくいものは控えめに取りましょう。
肉を少なくし、冷たい飲み物や食べ物を控えめにすることが大切です。
また、牛乳にはカルシウムの吸収を助ける乳糖を含み、日本人の大多数はその乳糖の消化酵素の活性が低いので、牛乳を飲んだ後、むかつきや下痢、水太りなどの症状を引き起こしやすいので控えめに摂りましょう。
「血」を補うためには夜は早く寝るようにしましょう。正しい睡眠が「血」を増やすので睡眠不足や夜更かしは大敵です。
また、激しい運動やサウナ入浴のように多量の発汗を促すことはなるべくしないようにしましょう。
もともと足りないパワー(気)を汗とともに奪ってしまうのでよくありません。

肝鬱気滞タイプ
三つ葉・生姜・パセリ・紫蘇の葉
ジャスミン茶
レモン・きんかん・ゆず・グレープフルーツなど

このタイプの方はストレスは禁物です。
気血の巡りを悪くし、マイナス思考に陥りやすくなってしまいます。
ご自分にあったストレス解消法(アロマ・ヨガなど)を実践してみてください。

「食養」は漢方薬と同様、一人ひとりの体質にあう食品を摂取することが基本になります。
穀物類、野菜類、果物類、動物性食品をバランスよくとれば、氣力を養うことができます。

ご質問等ございましたら、お気軽に当院までご相談ください。


=本来の東洋医学の治療の姿に関して一言=

当院では局所治療に限定せず、あくまでも身体全体の治療・お手当てを目的としております。
例えば、ギックリ腰や寝違いといった急激な痛みに対して、中医鍼灸の効果 は高いですが、これも局所の治療にとどまらず全体的なお手当てを行なっているからなのです。
急性の疾患にせよ慢性の疾患にせよ、身体の中で生じている検査などには出てこない生命活力エネルギーのバランスの失調をさぐり見つけ出すことで、お手当てをしております。
ゆえに、慢性の症状を1〜2回の治療で治すというのは難しいのです。
西洋医学で治しにくい病・症状は、中医学(東洋医学)でも治しにくいのは同じです。
ただ、早期の治療により中医学の方が治し易い疾患もございます。
例えば、顔面麻痺・突発性難聴・頭痛・過敏性大腸炎・不眠・などがあります。
大切なのは、あくまでも違う角度・視点・診立てで、病・症状を治してゆくというところに中医学(東洋医学)の意味合いがございます。

当院の具体的なお手当てとしては、まず、普段の生活状況を伺う詳細な問診や、舌の色や形などを見る舌診などを行い、中医学(東洋医学)の考えによる病状の起因診断を行います。これは、体内バランスの失調をさぐり見つけ出すために必要な診察です。この診察を踏まえたうえで、その失調をツボ刺激で調整し、元の良い(元気な)状態へ戻すことが本来の治療のあり方です。
又、ツボにはそれぞれに作用があり、更にツボを組み合わせることで、その効果 をより発揮させる事が出来ます。

しかしながら、どこの鍼灸院でもこの様な考えで治療をおこなっているわけではありません。一般 的には局所的な治療を行なっている所が多いかと思います。

さて、もう一点お伝えしたいことが御座います。
当院では過去に東洋医学の受診の機会を失った方々を存じ上げています。
それは東洋医学に関して詳しい知識と治療理論を存じ上げない先生方にアドバイスを受けたからであります。
この様な方々に、「針灸治療を受けていれば・・・」と思うことがありました。
特に下記の疾患は早めに受診をされると良いです。
顔面麻痺・突発性難聴・帯状疱疹・肩関節周囲炎(五十肩)
急性腰痛(ぎっくり腰)・寝違い・発熱症状・逆子
その他、月経不順・月経痛・更年期障害・不妊・欠乳
アレルギー性鼻炎・アトピー性皮膚炎、など
これらの疾患はほんの一例です。
疾患によっては、薬だけの服用治療よりも、針灸治療を併用することにより一層症状が早く改善されて行きます。
針灸治療はやはり経験のある専門家にご相談された方が良いと思います。

当院は決して医療評論家では御座いませんが、世の中で東洋医学にまつわる実際に起きている事を一人でも多くの方々に知って頂きたいと願っております。

少しでも多くの方に本当の中医鍼灸をご理解して頂き、お体のために役立てていただければ幸に思います。

 


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