『遺精』とは性行為やマスターベーションによらずに精液が漏れる状態をいいます。
では早速現代医学の視点から『遺精』をみてゆきましょう。

★★現代医学からみた遺精★★
☆ 遺精とは?☆
『遺精』とは先程も述べたように、性行為やマスターベーションによらずに精液が漏れる状態をいい、「生理的遺精」と「病的遺精」の2つがあります。

☆生理的遺精☆
生理的遺精は病気ではありません。その代表的なものに「夢精」があります。
「夢精」は睡眠中に性的な夢を見て射精をしてしまうもので、未婚の男子によくみられ、年齢的には13〜16才位 が多いようです。
又、「夢精」意外に、昼間の覚醒時に何らかの性的刺激によって勃起を起こし、射精してしまうものも病気とはみなしません。

☆病的遺精☆
病的遺精とは昼間の覚醒時に、勃起や性感を伴わない射精が1日に2回や3回、あるいはそれ以上あるものをいいます。
また病的射精は射精後に疲労を伴うケースがあります。

☆遺精の原因☆
遺精の原因としては、脊髄神経疾患・精神的疲労・神経症・長期の禁欲
手淫・中絶性交・後部尿道・前立腺炎などがあります。

☆遺精の治療☆
治療は原因疾患の治療を行います。

以上が現代医学の視点からみた遺精になります。
現代医学による治療についての詳細は専門のHPをご覧下さい。

次に中医学による「遺精」に説明いたしましょう。


** 初めに **
中医学は独自の理論によって構成され、専門用語を多く使用します。
それらの理論や用語は現代医学に慣れ親しんでいる我々にとっては非常に難解で馴染みづらいものであります。
そこで、先ず、中医学による遺精の説明を読まれる前に、
「病気別・わかる東洋医学診断」に掲載されている
「わかりやすい東洋医学理論」をお読みになって、予め東洋医学の概念的なイメージを掴まれてから、この後を読まれることをおすすめいたします。
これ以降については、説明を出来るだけ簡素にするため、皆様が「わかりやすい東洋医学理論」を読まれているという前提で説明させて頂きますので、ご了承下さい。

さてここでは、中医学による遺精を理解するために、「わかりやすい東洋医学理論」をもう少し補足したいと思います。

★中医学による遺精を理解するために必要な基礎知識★
《陰陽論について》
陰陽についての概論的な事は既にご理解されていると思いますので、ここでは、人間を構成する基礎的なものである「気・血・水」や「働き」を陰陽で分類してみたいと思います。
『陽』に属す物としては「気」があります。
気はそれぞれの臓腑の働きを促進させたり、体を温める作用などがあります。
『陰』に属す物は「血と水」があります。
これらの働きには体を潤したり冷却する作用があります。
又、この分類はそのまま「働き」に置き換えることができます。
体を温める働きは「陽」に、体を冷却したり潤す働きは「陰」に属します。


≪気≫
「わかりやすい東洋医学理論」で幾つかの「気の作用」が紹介されていたと思いますが、その中で「遺精」と関係が特に深い作用が「固摂作用」です。
「固摂作用」とは体内から血や栄養物が漏れるのを防ぐ働きをいいます。
ですから固摂作用の低下は遺精だけでなく、尿失禁・頻尿・早漏・早産・子宮下垂・脱肛など、他にも様々な症状を引き起こします。
では固摂作用の低下が起きるのはどの様な場合か考えてみましょう。
固摂作用の低下が起きる場合は「心」「脾」「腎」の3つの臓器が関係します。
この中で、何らかの原因で「心」と「脾」が損傷し、固摂作用の低下が起きて遺精になる状態を、気が虚して起こる遺精と解釈できるので「気不摂精」と言います。
それに対して腎が損傷して固摂作用の低下が起きて遺精になる状態を「精関不固」といいます。
腎は固摂作用の働きで、特に精液・尿・胎児、などが漏出するのを防いでいます。
細かい事ですが、以上の理由から「心・脾」と「腎」とでは若干の違いがあります。
しかしながら皆さんは、どちらも固摂作用の低下による「遺精」と解釈していただいて結構です。

≪病因≫
病気を起こす原因のことを病因と言い、中医学ではこの病因を、外因・内因・不内外因の3つに大別 いたしました。
その不内外因の中に「飲食不節」がありました。
更に「飲食不節」の中に、「肥甘厚味の過食」「飲酒の過度」がありました。
「肥甘厚味」とは甘い物・味の濃い物・油っぽい物・といった食物でしたね。
この「肥甘厚味の過食」と「飲酒の過度」は体内で余分な水分を生んでしまいます。
「気・血・水」の説明で述べましたが、健康な状態とは「気・血・水」が適量 で且つスムースに流れていなければなりませんでした。
つまり体内で余分な水分が生まれてしまうということは、健康な状態ではないということになります。
このような体にとって不必要な水分のことを「湿」といいます。

〈湿〉
「湿」の特性には「重い」「粘性」があります。
体内で湿はその「重い」という特性から、下部である膀胱や足へと移行しやすくなります。
よく、梅雨時期に足が浮腫んだり、体や足が重だるく感じる方が多いと思います。
これは、梅雨時期の空気は多湿になりますので、湿気が体に入りやすい季節となります。
体に入った湿気は、体にとっては不要な水分ですから「湿」となり、その「重い」という特性から下部へと移行しやすいので足を浮腫させたり、重だるさを感じさせたりするのです。
更に湿の粘性の性質から、体内に入り込んだ湿は気血の流れを阻滞させてしまいます。
体内で生まれた「湿」は体外に上手く排出できないと、体内で滞りを起こします。
気や湿は滞りを起こすと熱化する性質があります。
この様に熱化した「湿」を『湿熱』と言います。
「飲食不節」に含まれていた「過度の飲酒」は体内で『湿熱』を生みます。
『湿熱』は遺精の原因となりますので、是非覚えておいて下さい。

《臓腑について》
臓腑については「わかりやすい東洋医学理論」で大まかな説明がありますのでここでは、「遺精」に関係のある臓腑についてもう少し説明をします。

『心(しん)』
心の主な生理作用には大きく分けて2つあります。
@血を全身へ行き渡らせる働きがあります。
これは現代医学と同様な考え方ですので、皆さんも理解しやすいと思います。
「心の気」は推動作用(臓器の働きや気血の流れを促進させる働き)が強いので、その推動作用により血を全身へ行き渡らせております。
ですから「心」の異常は、動悸・不整脈・息切れなどの症状が現れます。
A精神活動の統括をしております。
この考え方は中医学独特のもので、「心」は「神(しん)」を蔵するという考えからきております。
「神」とは、精神・意思・思考活動といったものを指す言葉です。
「心」は「神」を蔵していることから、精神活動の統括をしていると言われるのです。
又、心が携わる血のことを「心血」といい、「心血」は神を栄養します。
ですから、「心」が充実していると精神は安定しておりますが、「心」の異常や「心血」の不足は不安感・不眠・夢を多く見るなど、様々な精神症状をきたします。

*心陽と心陰
「心陽」と「心陰」という言葉はお互い相対する意味で用いられる言葉です。
「心陽」とは、「心」の機能活動をしめすもので、体全体の機能活動を推動させる働きを意味します。
心の「気」の働き(心の機能)を意味する言葉と理解してください。
心陽は「心火」又は「君火」とも言われます。
しかし、「心陽」の過剰な亢進は遺精のみではなく不眠など様々な症状をもたらします。
それに対して「心陰」とは主に心が携わる血(心血)のことを言います。
「心陰」の不足は動悸・健忘・不眠などの症状が現れます。

陰陽論の概念にあるように陰と陽はお互いに抑制し合うことにより全体の平衡を保っておりました。
ですから、何らかの原因により心陰が消耗すると、陰が陽を抑えきれず心陽が亢進してしまいます。
これは遺精の原因の1つになりますので是非覚えておいてください。
病因の中の内因に含まれていた情志の失調や心労は心陰を損耗させてしまいます。

『腎』
腎の「遺精」に関する生理作用に「蔵精を主る」と「固摂作用」があります。
精とは広義の意味と狭義の意味があります。
広義の精とは簡単に説明すると、「生きるために必要なエネルギー」とイメージして下さい。
狭義では生殖や発育を意味します。
腎は精を貯蔵しておりますので、腎に貯蔵されている精のことを「腎精」と言います。
腎精は虚弱体質や過度の自慰行為や性交渉によって損傷されてしまいます。

次に腎の働きを陰陽で分類してみましょう。
腎の働きの中で陽に分類される働きを腎陽と言い、体を温める作用などをさします。
逆に、陰に分類される働きは腎陰と言い、体を冷却したり潤したりする作用をさします。
先程の「腎精」は腎陰に含まれます。

さて、遺精と関係のあるもう1つの生理作用の「固摂作用」を説明しましょう。
固摂作用とは「気」の働きの1つで、体内から血や栄養物が漏れるのを防ぐ働きをいいます。
腎はこの固摂作用を用いて尿や精液が漏出するのを防いでいます。
腎の固摂作用が低下した状態を『腎気不固』と言い、遺精・早漏・尿失禁・多尿・頻尿・流産・早産、といった症状が現れます。


〈心と腎の関係〉
今までは心と腎について個別にその働きを見てまいりました。
心や腎の働きは、各々の中で陰陽に分類されており、平衡を保っておりました。
今度は心と腎の関係を見てみましょう。
実は心と腎は陰陽に分けられ、お互いを抑制し合い『体温調整』をしている関係にあります。
ここで「わかりやすい東洋医学理論」にでてきた「五行学説」を思い出してください。
「五行学説」とは世の中の全ての事物・現象を「木」「火」「土」「金」「水」の5つの性格に分けました。
当然五臓もこの中に分類され「心」は「火」へ「腎」は「水」へ分類されます。

さて、話を『体温調整』に戻しましょう。
『体温調節』とは体温をある一定の範囲に保つ働きであります。
その働きをしているのが「火」と「水」に当たります。
「心と腎」はお互いの「心陽・心陰」「腎陽・腎陰」の働きを用いて体温調節をしています。
では具体的にどのように体温調節をしているのかを簡単に紹介します。
@ 心陽が腎陽を温めています。
A 心陽に温められた腎陽は、腎水を蒸化することにより、腎陰を適量 に保たせます。
このことにより体が冷え過ぎないようにしております。
B 腎陰は心陰を滋養しています。
C 心陰は心陽の亢進を抑えることにより熱くなり過ぎるのを防いでおります。

上記の関係をイメージしやすいように図にしてみましょう。

【心陽】→→(腎陽を温める)→→【腎陽】
  ↑                 ↓
  ↑                 ↓
(心陽の亢進を抑える)   (腎陰を抑える)
  ↑                 ↓
  ↑                 ↓
【心陰】←←(心陰を滋養)←←【腎陰】

心と腎の正常な状態は上の図の様な関係になっており、体温は一定に保たれます。
ところが、何処かに異常が起これば上図のバランスが崩れ体温調整ができなくなります。
このような状態を『心腎不交』と言います。
『心腎不交』は「遺精」の原因になりますので、上記の関係をしっかりイメージしておいて下さい。

『脾』
脾の「遺精」と関係のある生理作用としては「運化作用」があります。
【運化作用】
「運化作用」の『運』は転運輸送を、『化』は消化吸収を意味します。
つまり、飲食物から栄養分を吸収して、全身へ運ぶ作用です。
運化作用は栄養分を吸収する働きがありますので、脾が損傷してしまうと気血を作る能力が低下してしまい、気血の生成不足をまねきます。
また消化吸収能力が低下を起すと水分代謝能力の低下につながり、体内に余分な水分(湿)を生んでしまいます。
運化作用の失調の症状には、食欲不振・下痢・軟便・むくみ・精神症状などがあります。
又、「脾は四肢を主る(つかさどる)」や「脾は肌肉を主る」などと言われ、脾のエネルギー不足(脾虚)になると、四肢のだるさを感じることがあります。

「飲食不節」に含まれる「肥甘厚味の過食」や「過度の飲酒」は体内で「湿」や「湿熱」を生み、最終的に脾を損傷させることになります。
又、思い悩み過ぎる(思慮過度)と損傷を受けてしまいます。

『肝』
「遺精」と関係のある肝の生理作用に「疏泄」があります。
疏泄の「疏」は流れが通じるという意で、「泄」は発散や昇発の意です。
疏泄とは、「気血の運行を良くし、体の中の様々な働きを促進させる作用」と理解して下さい。
もし、肝が障害されると正常な「疏泄」が出来なくなり、様々な臓器の機能低下や機能失調をまねきます。

『膀胱』
体を巡ってきた水液は一旦「腎」へ集められ、再利用できないものが膀胱へ送られてきます。
膀胱は送られてきた不要な水液を溜め、気化作用によって尿として体外へ排出します。
ですから、膀胱の主な生理作用は貯尿と排尿です。
又、何らかの原因により熱の影響を膀胱が受けると、尿の色が赤や黄色になります。

『精室』
精液を溜めておく場所のことをいいます。
「遺精」は精室が湿熱などの影響を受けておこります。

★★中医学からみた遺精★★
『遺精』とは、性行為やマスターベーションによらず精液を漏らす事が頻繁に起こり、めまい・精神不振・不眠・足腰がだるい、といった症状を伴う病症をいいます。
別名を「失精」「遺泄」ともいいます。
『遺精』は大きく2つに分けられ、睡眠時に夢をみて精液を漏出するものを「夢遺」といい、これは現代医学で言う「夢精」と同じです。
もう1つは覚醒時に精液が漏出してしまうもので「滑精」といいます。

☆病因・病機による分類☆
「遺精」の病因・病機には
@「心と腎」の働きのバランスが崩れて起こる『心腎不交』によるもの
A「湿熱」が下部へ移行する『湿熱下注』によるもの
B「腎」のエネルギー不足の『腎虚』によるもの
C「心と脾」のエネルギー不足の『心脾労傷』によるもの

以上の4種類があります。
それでは、上記の分類により、「病因・病気」〜「弁証名」〜「症状」〜「治療」の順に説明をしてゆきましょう。

【心腎不交による遺精】
《病因・病機》
既に説明をしましたが、「心」と「腎」はお互いに協力して体温調節をしていました。
この協力体制のバランスが崩れてしまった状態を「心腎不交」といいます。
「心腎不交」が病因となる疾患については、心と腎の関係がある程度イメージできていないと理解することは難しくなりますので、もし心と腎の関係がイメージできていない方はもう一度、心と腎の関係を読み直して下さい。
さて、「心腎不交」は様々な原因によって引き起こされ、熱や冷えといった様々な症状がでます。
「心腎不交」の「遺精」は、心労や情志の失調、又は長期の妄想が病因となって起こる遺精です。
情志の失調とは簡単に言えば、過度な感情やこれらが長期にわたった場合に起こるもので病因のなかの内因に含まれるものでありましたね。
(詳しくは「わかりやすい東洋医学理論」の〈病因〉を参照してください)
さて、心労や情志の失調は「心陰」を損耗してしまいます。
心と腎の生理作用で説明しましたが、「心陰」は「心陽」が亢進しないように「心陽」を抑制する働きをしておりました。
「心陰」の損耗は「心陽」を亢進させてしまいます。
ここでもう一度「心」と「腎」の体温調節の関係を思い出してみましょう。
「心陽」に温められた「腎陽」は腎陰が適量になるように「腎水」を蒸化しておりました。
「心陽」の亢進は当然「腎陽」を亢進させてしまいます。
結果として、「腎水」は通常より多く蒸化されてしまいますので、「腎水」が正常時より少なくなってしまうわけです。
次に「腎水」の不足は「心陰」の滋養能力の低下につながり、「心陰」は「心陽」を抑制できなくなってしまい、巡り巡って更に「心陽」が亢進を起こし悪循環になります。
この様な熱は、「陰」が損耗して生まれる熱ですから、「陰虚熱」とか「虚熱」と呼びます。
「虚熱」がさらに亢進した状態を「陰虚火旺」といいます。
その熱が「精室」といって、精を貯蔵しておく部位に悪影響を及ぼし遺精が起こります。
又、長期に渡り妄想にふけると心火が亢進してしまいます。
「心火」の亢進は「心陽」の亢進と同義と解釈していただいて結構ですので、後は上記で説明した悪循環の流れと同じ状態になります。

さて「心腎不交」について説明をしてまいりましたが、簡略して言ってしまえば、何らかの原因により、腎陰(腎水)が消耗してしまい、熱が精室へ影響を及ぼして起こる「遺精」です。

《弁証》
心腎不交による遺精ですから弁証名は「心腎不交遺精」となります。

《症状》
〈主症状〉
◎夢遺・・・・・・・精室が熱の影響を受けて起こります。
◎不眠・夢を多くみる・・・・・陽の亢進の特性は陰を損耗させます。
心腎不交は心陽が亢進しますので、先程の特性で心陰を損耗させてしまいます。
心の生理作用で説明しましたが、心陰(心血)の不足は様々な精神症状(不眠・夢を多くみるなど)を引き起こします。

《治療》
「清心泄火」・「滋陰安神」といって、心の熱を下げて腎陰をふやす治療を行います。

 


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