?、Dさんのアトピーのタイプを知るための問診
 さて、実証についてのタイプ分けの質問をしたところ次のような答えが返ってきました。
@ 湿疹は肘と膝の内側に多く、特に膝が酷い。
A 患部は水疱を伴っている。
B 甘いものや脂っこいものを食べた後に悪化する。
C 梅雨時にも悪化した。
D 浸出液がでる。
E 患部に熱感がある。
F 掻いても血は出ない。
G 患部が真っ赤になることも無い。
H 皮膚や顔色色が浅黒いことは無い。
I 皮膚の肥厚も無い。
 
 以上の問診のからどの様なことがわかるかというと、
@〜Dは湿の存在を意味します。
E は熱症状を意味します。

 さて、Dさんが問診室へ入って来てから望診・聞診・ここまでの問診を総合すると、高校時代と現在アトピーは「湿熱」タイプのアトピーであると判断してよいでしょう。
 しかしアトピーは複雑な疾患ですので、1つのタイプだけとは限らず、幾つかのタイプが混ざっている場合もありますので、「オ血」「血熱」についても質問をしなければなりません。
そこでそれらの質問がF以降になります。
F Gは血熱の特徴の否定です。
 この答えからDさんは血熱タイプのアトピーでは無いことがわかります。
HIはオ血の特徴の否定です。
 この答えからDさんはオ血タイプのアトピーでは無いことがわかります。

以上の問診から高校時代と現在は「湿熱タイプ」のアトピーであることがわかりました。
次に、大学時代のアトピーについて質問をしたところ、軽度ではあるが、症状自体は現在や高校の時と同じだということです。
以上のことから、大学時代も「湿熱タイプ」のアトピーであると判断してよいでしょう。

さて、ここまでの問診でアトピーのタイプはわかりました。
しかし、これで問診が終わりというわけにはいきません。
中医学は病気のタイプを分けるだけでは弁証をたてたことにはなりません。
病気のタイプの判別と損傷を受けている臓腑や経絡を明確にし、且つ病気の原因である「病因」と、病気を起したメカニズムである「病機」をも明確にしなければ弁証をたてたことにはならないのです。

 では、今までの問診でわかったことをまとめてみましょう。
@病因:ストレス
Aタイプ:湿熱タイプのアトピー性皮膚炎
 以上の2点です。

ですから今後の問診は、損傷を受けている臓器、病機を明らかにしてゆかなければなりません。
これらを明らかにする問診は随伴症状を訊いてゆくことでわかります。


?、随伴症状についての問診
随伴症状につて質問したところ次のような答えが返ってきました。

―口が粘る・痰がよくでる・足のむくみ・などの症状がある。
これらの症状は体内に余分な水分である「湿」が存在する方の特徴であり、「脾」のエネルギー不足である「脾気虚」の方の特徴でもあります。
更に、質問表にあった「食欲不振」「軟便」「疲れやすい」というのも「脾気虚」の特徴であります。
又、Dさんの体格は少し太めでした。中医学的に太っている方には、エネルギー不足である「気虚タイプ」や体内に「湿」が存在するタイプの方が多くおられます。
以上の情報を総合するとDさんの体質は脾気虚と湿の存在は否めないかと思います。
 実は「脾気虚」と「湿」はとても深い関係にあります。
「脾」の働きに「運化」というものがあります。これは消化吸収を意味する言葉で、飲食物を吸収してエネルギーに換える働きです。
「脾気虚」になってしまうと、飲食物の消化吸収能力が低下してしまい、体内の水分代謝が効率よく行われなくなってしまい「湿」を産んでしまうのです。
ですから言い換えれば、脾気虚の方は「湿」が存在している方も多いのです。
 さて、ではDさんはいつ頃からこの様な症状であったのかを質問してみました。
先ず体格については、子供の頃から太めであったとのことです。
更に、他の「脾気虚」や「湿」について質問したところ、いつ頃かは覚えていないが、昔からだったそうで、高校に入った時には上記の随伴症状はあったと思うとのことです。
以上の問診からDさんは高校入学した時点では脾気虚によって、湿が生成され体内に「湿」の存在があったようです。
子供の時から太っていたとのことですので、「湿」を溜めやすい体質的であったのかもしれません。
体内に「湿」が溜まると熱化することがあります。この状態を「湿熱」といい、Dさんのアトピーのタイプになります。

これでDさんの体質は脾気虚で湿が溜まりやすく、熱化してしまっていることまではわかりました。

 さて、今までの問診でDさんのアトピーの誘発素因はストレスとわかっておりました。
次に、ストレスが症状を悪化させる機序を明確にしなければなりません。
そこで、気になるのが質問表にあった、「最近、便秘と下痢を繰り返す」という点です。
先ず、最近の大便について細かく質問したところ、次の答えが返ってきました。
@「最近、便秘と下痢を繰り返すようになったり、通勤中に何度もトイレへ駆け込むようになってしまったので、病院へ行ったところ『過敏性大腸炎』と診断された。」
A実はこの様な大便の状態は高校3年生の秋にも起きたことがある。

大便について以上の情報を得たので、次にその他の随伴症状について質問してみたところ下記様な答えが返ってきました。
B 口が苦く感じることがある。
C 胸や脇が張った感じがする。
(B〜Cについては最近になり感じるということで、高校時代については覚えていないとのこと)
D イライラや怒りやすい(高校時代も現在も同様であるとのこと)
E 側頭部やコメカミの頭痛(      〃         )
F 物忘れはない
G 腰や膝に異常は無い
H 風邪をひき易いことはない
I 息切れもない
J 動悸もない

 さて、それでは@Aについて説明をいたします。
@ についてはお医者さんに「過敏性大腸炎」と言われているわけですが、中医学では、下痢や便秘を繰り返す症状を起す疾患の中に「肝気犯脾」というのがあります。
「肝気犯脾」とは、ストレスなどの精神の抑鬱状態により、「肝」が損傷を受けてしまいその影響が「脾」に及んでしまった状態をいいます。
「肝気犯脾」のキーポイントは誘発素因が「ストレス」であります。
現在Dさんは仕事のストレスを多く受けております。
又、高校時代にも過度のストレスを受けておりました。そこでAの質問をしたわけです。
すると案の定、高校時代にも同様の症状がありました。
以上のことから、Dさんの「便秘と下痢を繰り返す」といった症状は「肝気犯脾」による可能性が高くなってきました。
 
 そこで次にB〜Eの質問に繋がります。
B〜Eについては、ストレスなどを受けて肝が損傷を受け、気の流れに滞りが起きた特徴です。又、どの症状も高校時代や現在に起きている症状ですから、ストレスを過度に起きている時期とも一致します。
以上の事からDさんは高校時代及び現在と過度にストレスにより、肝が損傷を受け更に脾がその影響により損傷を受けてしまったということがわかりました。
 これでストレスによりアトピーが発症したり悪化するメカニズムもわかったことになります。
F〜Jについてはその他の臓器の損傷の有無を確認した質問です。
Dさんの主訴についてはその他の臓器はそれ程損傷を受けている可能性が少ないので問診時間の短縮のため質問の数もへらしております。
FGについては腎について、HIは肺について、FIJについては心についての質問です。
やはり、腎・肺・心、については特に問題はないようです。

 さて、以上の質問で問診は終わりになります。
それでは今回の四診でわかったDさんのアトピーについての病因・病機・弁証名を説明してゆきましょう。

?、総合解説
=高校時代(アトピーの発症の病因・病機)=
?で説明したようにDさんはアトピーが発症した高校生以前から、「湿」が体内に溜まりやすい体質ではあったようです。
そこに高校生になり、現役で大学に合格しないといけないというプレッシャーと受験勉強のストレスを受けてしまいました。
「肝」は抑鬱状態にとても弱い臓器ですので、この当時の過度なストレスやプレッシャーによって損傷を受けてしまいました。(症状としてはイライラや怒りやすい、側頭部やコメカミの頭痛が根拠になります。)
「肝」の働きの1つに「疏泄作用」というものがあります。
これは気の流れを促進することにより、臓器の働きを促進させるという作用です。ストレスなどで「肝」が損傷してしまうと、「疏泄作用」の低下がおきてしまいます。
この影響を受けやすい臓器の1つに「脾」があります。
この様な機序で、Dさんの場合は先程説明した「肝気犯脾」が起こってしまいました。
さて、「肝気犯脾」の時の「脾」は「脾気虚」の状態です。
「脾気虚」は「湿」が生産されやすい状態であるのは先程説明いたしました。
ですから、ストレスなどが強くなればなるほど「肝」は強く損傷を受け、その影響が更に「脾」に及び、結果 として「脾気虚」の状態が悪化してしまいます。
つまり、ストレスの増加は「脾気虚」の悪化を助長させてしまうわけであります。
そのことにより益々体内で「湿」が産まれてしまい、体内で「湿」が多く溜まってしまうことにより熱化し「湿熱」へと変化します。
その結果「湿熱タイプ」のアトピーが発症してしまったわけです。

=大学時代(症状軽減の機序)=
Vの問診でわかるように、Dさんは大学受験が終わって病院で受診されております。
その後直ぐにアトピーは軽くなったと言っておられますが、はたしてアトピーの症状を軽くしたのは病院で出された薬だけの効果 でしょうか?
おそらく大学受験のストレスからの開放が一番の薬になっていると思います。
その根拠は、大学在学中に軽くなっていたアトピーが定期試験の度に悪化して、試験が終わると薬を飲まずしても又軽くなるという点です。
 さて、ここでもう一度高校時代を振り返ってみましょう。
高校時代はストレスにより「肝」が損傷を受け、その影響で「脾気虚」となり湿熱タイプの痒みの強いアトピーを発症させました。
その後Dさんは見事入試に合格して受験のストレスから開放されました。
このことにより、「肝」もストレスから開放されます。
今まで「脾」は常に「肝」から影響を受けていたわけですが、受験後は「肝」がストレスから開放された分だけ「脾」への影響は軽減されます。
この軽減された影響分が、大学時代の症状が軽減された分に値します。
しかし、ストレスから開放されたことにより「肝」は元の状態に戻っても、「肝」の影響を受けた「脾」については何も改善はされていない状態です。
ですから、大学在学中もDさんのアトピーは軽減したものの完治はせず、「脾虚湿盛」タイプのアトピーとして残ってしまったわけです。
ですから大学受験ほどのストレスはかからないものの、定期試験といったストレスを受けても直ぐに悪化してしまったわけです。

=今現在のアトピーについて=
 さて、今のアトピーについては、仕事の過度なストレスにより、高校時代のアトピーの状態に逆戻りしてしまったことになります。

 以上がDさんのアトピーの病因・病機になります。
全般を通してみると、『湿熱タイプ』のアトピーということになります。
しかし、損傷をうけている臓腑に注目してみると、高校時代・今現在と大学時代とでは若干の違いがあるのがおわかりになると思います。

高校時代・今現在については、肝鬱と脾気虚でありました。
中医学的に言うと、「肝」が「脾」を相乗した、「脾虚湿盛」による「イン疹」となります。

一方、大学在学中はそれ程「肝」の損傷はみられません。あったとしても定期試験前の一時的なものです。
ですからこの時代のアトピーは「脾虚湿盛」による「イン疹」となります。

 さて弁証が立てられた時点で基本的に問診は終了です。
患者さんには施術に備えて治療室へ移動をしていただき、ベッドに横になってもらいます。
その間に治療者は治療方針と使用するツボを決めなければなりません。
先ず最初に考えるのが治療方針です。
皆さんならどの様な治療方針を考えますか?

治療方針としては、今現在については「疏肝解鬱・健脾利湿・清熱止痒」といって、ストレスによって損傷を受けている「肝」の気の流れを整えてあげ、「脾気虚」となっている「脾」をたて治してあげることにより、体内の「湿」を排除する治療と、熱を取り去り痒みを抑える治療をおこないます。

これに対して、もし大学時代の定期試験前以外のDさんを治療するのであれば、「疏肝解鬱」の必要はなく、「健脾利湿」のみの治療を行います。

ですから、同じアトピーでも発症した時期や環境によっては同一の人間であってもタイプの違うアトピーになってしまうこともあれば、損傷を受けている臓腑が違ってしまう事もあるのです。
当然タイプや損傷を受けている臓腑が違えば、治療方針は変わってきますし使用するツボも変わってまいります。
そして、治療方針が決まれば、それに見合ったツボを選択します。
因みに、アトピーの出ている患部以外にも、体幹や足の先のツボに至るまで、全身のツボを使用します。
問診が終わって針を打つまでに治療者の頭の中では上記の様なことを考えています。

如何でしたか?
以上が「アトピー性皮膚炎」のシュミレーションでした。
診察中の治療者がどの様に患者さんの身体の中のバランスの崩れ具合を見極めてゆくのかイメージできましたでしょうか。
我々はこのようにして弁証を立てております。
そして、このような過程は決して珍しいことではなく、中医鍼灸ではごく普通 のことであります。
中医学の治療は『理・法・方・穴(薬)・術』という大原則にのっとって行われます。
「理・法・方・穴(薬)・術」とは中医学での診察から治療までの流れを表す言葉です。
「理」とは理解と言う意味で、具体的には「弁証」により病気を理解することをさします。
「法」とは弁証に基づいて治療方針を決定します。
「方」とは治療方針にのっとった漢方薬の処方やツボの選穴になります。
「穴(薬)」とは薬やツボの作用をさします。
「術」とは鍼灸の手技を意味します。
 つまり、本来の臨床の現場では「弁証」が立てられ、「弁証」に基づいて治療方針を決定して、それに沿った処方や選穴がしっかりした漢方薬やツボの知識により行われ、最後にどのような手技を施すかを考えるのです。
逆を言えば、「理・法・方・穴(薬)・術」の大原則に沿って行われる治療が中医学の治療となります。
 以上のことから、いい加減な問診であったり、痛い所やコリが在る所や病んでいる所にのみ針を打ったり、この疾患にはこのツボといったような短絡的な選穴の仕方のみの治療は本来の中医学(東洋医学)ではありません。
人を治すには、それなりの理論や手順を踏まないと決して結果はでません。
ましてや、慢性症状を治療するには尚のこと繊細な弁証が必要になってまいります。

中医学ではアレルギー疾患を単にアレルギーだけを理由に捉えません。
本日読んで頂いたシュミレーションの内容からもわかるかと思いますが体の何処で、何が、どうなったかを追って症状判断をしております。

当院は患者さんと伴に病を治していこうと考えております。
真剣にお悩みの方はお気軽に当院までご相談ください。
我々も誠意を持ってお答えいたします。

 


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