妊娠腎について

妊娠腎は妊娠中毒症の一種で、妊娠後期に、蛋白尿・浮腫・高血圧などの症状があらわれる事をいいます。
頭痛や吐き気を伴う場合もあり、長く続くと胎児の発育も悪く、重症になると、母体や胎児の生命にかかわることもあります。
妊娠期間が終了すると同時に回復していくケースがほとんどですが、中には回復せずに慢性腎炎や本態性高血圧の経過をたどるものもあります。

妊娠中には強い薬を使えないため、現代医学的には治し難く、食事制限と安静を保つ事が主な治療です。

妊娠中は胎児の分も命を支えていかなければならないのが母体です。
胎児が成長していく上では、胎児も栄養を吸収し、老廃物を排泄していくわけですが、その老廃物の処理を自分の身体の老廃物の処理と一緒に担っているのが母体の腎臓です。
負担がとても大きくなるので、その負担を少しでも軽くし、身体も安静に保つべきだというのが、現代医学的考え方です。

中医学では、妊娠腫脹、妊娠眩暈、妊娠かん証などに相当し、体質や症状に合わせて様々な鍼灸治療・漢方薬を使い分けます。

中医学的に考えても、「腎」は妊娠の維持に大きくかかわっています。
(中医学的考え方の基本について、詳しくは、「わかりやすい東洋医学理論」が、病気別 わかりやすい東洋医学診断のまとめのページの上段にありますので、ご参考にして下さい。)

もともと腎気が弱かったり、脾胃の働き(胃腸の消化能力・吸収した栄養物をエネルギーや血に変える働き)が弱いと、胎児が養われなくなるので、妊娠が不安定になります。

中医学的治療は、妊婦さん一人一人の体質や症状に合わせて、身体全体のバランスを整える治療をします。
目的は、症状をなくすだけではなく、安定した妊娠を維持することです。
方針としては、「腎」の働きを補う・脾胃の働きを整える・気のめぐりを良くするなどが中心となります。

では、妊娠腫脹、妊娠眩暈、妊娠かん証について詳しく説明していきましょう。

【妊娠腫脹について】
妊娠腫脹は「子腫」ともいい、顔面・下肢に浮腫が生じ、次第に全身の浮腫を呈します。

―原因別症状と治則―
1.脾虚による妊娠腫脹
  もともと脾胃虚弱であったり、妊娠初期の飲食不摂生(食べすぎ・生もの・冷たいものの過食)が原因でおこります。

・症状
  妊娠数ヶ月で眼瞼・四肢に浮腫が生じ、次第に全身に波及。
皮膚色が淡黄・浮腫部の皮膚が薄く光沢があり、圧すると陥凹して戻りにくい。
息切れ無力感・四肢が温かくない。食欲不振。泥状便。
舌質が淡。舌苔が薄白で湿潤。脈が緩滑で無力。

・治則
  健脾利水(胃腸の働きを整え、水分の排泄を良くする治療をします)


2.腎虚による妊娠腫脹
  腎気が弱い、腎気の消耗が激しいなどの原因でおこります。

・症状
  妊娠5〜6ヶ月で顔面・四肢の浮腫が生じ、浮腫部の皮膚が薄く光沢があり、圧すると泥状に陥凹し、顔色がどす黒い・動悸・息切れ・下肢の冷え・腰や膝が重だるく無力。
舌質が淡・舌苔が白あるいは白膩で湿潤。脈が沈遅などを呈する。

・治則
  補腎・補陽利水(腎の働きを整え、水分の排泄が良くなる治療をします)


3.気滞による妊娠腫脹
  気の滞りがあるために、身体全体の気血のめぐりが悪くなるのが原因です。

・症状
  妊娠3〜4ヶ月で肢体の腫脹が生じ、下腿から始まって大腿に及ぶことが多く、腫脹部の皮膚色は正常で、圧すると陥凹するがすぐもとに戻る。
胸苦しい・脇部がはる・めまい感・いらいら・怒りっぽい・少食・
舌苔が白膩。脈が弦滑。

・治則
  理気行滞(気のめぐりを良くし、滞りをなくす治療をします)


―むくみをとる食品―
(とり過ぎると身体を冷やしてしまうので、少量 をバランス良くとりましょう)
  大麦、トウモロコシ、もち米、 桃、なつめ、 なずな、さつまいも
緑豆、黄大豆、落花生、小豆、そら豆、 インゲンマメ
コイ、フナ、ギムネマ茶、スギナ茶、生姜、杏仁 など



【妊娠眩暈について】
妊娠眩暈は「子眩」ともいい、妊娠の後期に生じるめまい・耳鳴り・目がかすむなどの 症状があります。
適切な治療を怠ると、次にあげる妊娠かん証を引き起こすこともあるので、早期治療が必要と考えられています。

―原因別症状と治則―
1.陰虚陽亢による眩暈
  胎児を養うために、血の働きが普段より多く必要になります。その為、肝腎の陰液(血のもとになり、身体の陰陽バランスをとるために、冷やす作用を持つ)が不足し、肝の陰陽バランスが崩れて、陽気(熱)が上にあがってしまうために起こります。

・症状
  妊娠5〜6ヶ月でのめまい・頭のふらつき・耳鳴り・目がかすむ・いらいら・焦燥感・動悸・不眠など
腰背部のだるい痛み・両下肢がだるく無力・ときに顔面紅潮
舌質が紅。舌苔が少ない。脈が弦滑。

・治則
  養陰清熱・平肝潜陽(陰液を養い、上にあがった気を静める。
肝の働きを整える治療をします)


2.脾虚挟痰による妊娠眩暈
  脾胃の働きがもともと虚弱の方が、妊娠後期に子宮が大きくなるために圧迫をうけてさらに脾胃の消化吸収やエネルギーを運ぶ力が弱くなり、痰湿が生じて気のめぐりが悪くなることが原因でおこります。

・症状
  めまい・頭のふらつき・頭重・目がかすむ・悪心・胸が苦しい・食欲不振。
四肢の倦怠感・尿量が少ない・
舌質が淡。舌苔が白膩。脈が滑で無力。

・治則
  健脾化痰・理気除湿(脾胃の働きを良くし、痰湿をなくす治療をします)


3.気血両虚による妊娠眩暈
  脾胃虚弱による気血不足、あるいは妊娠悪阻による胃気の損傷などで気血がともに不足することが原因でおこります。

・症状
  妊娠後期のめまい・ふらつき。動くと悪化。動悸・息切れ・声に力がない・焦燥感・眠りが浅い・元気がない・食欲不振・皮膚の乾燥・顔色が白い・口唇が淡色・
舌質が淡。舌苔が薄白。脈が細滑で無力。

・治則
  益気補血・補益心脾(気血を補い、心脾の働きを整える治療をします)



【妊娠かん証について】
妊娠かん証は「子かん」ともいい、妊娠後期・分娩時・産褥期などに、意識喪失・けいれん・項部強直などをおこすことをいいます。
発作を繰り返すこともあり、重篤な場合は命にかかわることもあります。
発病に至るまでに、一般には頭痛・めまい・目がかすむ・胸苦しい・嘔吐などの前兆がありますので、早期診断と早期予防が必要です。

―原因別症状と治則―
1.陰虚肝旺による妊娠かん証
  もともと陰虚体質の方が、妊娠により胎児を養うためにさらに陰液が不足し、肝陽を制約できなくなって、肝陽上亢をきたすことが原因です。
(陰陽のバランスが崩れた状態です。)

・症状
  妊娠後期に頭痛・めまい・視力減退・悪心・息切れ・四肢の痺れ・顔面 や下肢の浮腫などの前兆があり、突然に意識喪失・けいれん・口から泡をふくなどの発作をおこす。
舌質は紅あるいは絳。脈は弦数で有力。

・治則
  育陰潜陽・養血・平肝熄風(陰液や血を補い、肝の働きを正常に整える治療をします)


2.脾虚肝旺による妊娠かん証
  脾虚により運化作用が低下して水湿が生じ、経絡に停滞して水腫となり、気血の流れを滞らせるために、肝の濡養ができずに肝陽上亢をひきおこすことが原因です。

・症状
  妊娠後期に浮腫が次第に強くなり、尿量 減少・胸苦しい・悪心・食欲不振・頭痛・めまい・目がかすむなどの前兆があり、突然に意識喪失・けいれん・口から泡をふくなどの発作をおこす。
舌質は淡で胖。舌苔は薄あるいは膩。脈は虚弦で滑。

・治則
  健脾利湿・平肝潜陽(脾胃の働きを整え運化作用が良くなる治療と、肝の働きを正常に整える治療をします)


以上にあげたように、中医学では、強い西洋薬を使わなくても、妊娠腎(腫脹・眩暈・かん証)に対応した処置をすることができます。
どちらかが優れているというのではなく、現代医学とは根本的に、生命に対する基礎理論が違うからできるのです。
妊婦さんは現代医学的な健診を受けていくことも大切ですが、それだけに頼らずに、違った面 からの身体のケアも大切にしてください。
心豊かに妊婦生活を送ることもお腹の赤ちゃんの栄養になります。

身体に対してはもちろん、心に対しても優しく、学問的にも奥の深い中医学は、幅広くいろいろな疾患に対応することが出来ます。

個人個人の体質に合わせて治療を行います。
是非一度ご相談ください。


=本来の東洋医学の治療の姿に関して一言=

当院では局所治療に限定せず、あくまでも身体全体の治療・お手当てを目的としております。
例えば、ギックリ腰や寝違いといった急激な痛みに対して、中医鍼灸の効果 は高いですが、これも局所の治療にとどまらず全体的なお手当てを行なっているからなのです。
急性の疾患にせよ慢性の疾患にせよ、身体の中で生じている検査などには出てこない生命活力エネルギーのバランスの失調をさぐり見つけ出すことで、お手当てをしております。
ゆえに、慢性の症状を1〜2回の治療で治すというのは難しいのです。
西洋医学で治しにくい病・症状は、中医学(東洋医学)でも治しにくいのは同じです。
ただ、早期の治療により中医学の方が治し易い疾患もございます。
例えば、顔面麻痺・突発性難聴・頭痛・過敏性大腸炎・不眠・などがあります。
大切なのは、あくまでも違う角度・視点・診立てで、病・症状を治してゆくというところに中医学(東洋医学)の意味合いがございます。

当院の具体的なお手当てとしては、まず、普段の生活状況を伺う詳細な問診や、舌の色や形などを見る舌診などを行い、中医学(東洋医学)の考えによる病状の起因診断を行います。
これは、体内バランスの失調をさぐり見つけ出すために必要な診察です。この診察を踏まえたうえで、その失調をツボ刺激で調整し、元の良い(元気な)状態へ戻すことが本来の治療のあり方です。
又、ツボにはそれぞれに作用があり、更にツボを組み合わせることで、その効果 をより発揮させる事が出来ます。

しかしながら、どこの鍼灸院でもこの様な考えで治療をおこなっているわけではありません。一般 的には局所的な治療を行なっている所が多いかと思います。

さて、もう一点お伝えしたいことが御座います。
当院では過去に東洋医学の受診の機会を失った方々を存じ上げています。
それは東洋医学に関して詳しい知識と治療理論を存じ上げない先生方にアドバイスを受けたからであります。
この様な方々に、「針灸治療を受けていれば・・・」と思うことがありました。
特に下記の疾患は早めに受診をされると良いです。
顔面麻痺・突発性難聴・帯状疱疹・肩関節周囲炎(五十肩)
急性腰痛(ぎっくり腰)・寝違い・発熱症状・逆子
その他、月経不順・月経痛・更年期障害・不妊・欠乳
アレルギー性鼻炎・アトピー性皮膚炎、など
これらの疾患はほんの一例です。
疾患によっては、薬だけの服用治療よりも、針灸治療を併用することにより一層症状が早く改善されて行きます。
針灸治療はやはり経験のある専門家にご相談された方が良いと思います。

当院は決して医療評論家では御座いませんが、世の中で東洋医学にまつわる実際に起きている事を一人でも多くの方々に知って頂きたいと願っております。

少しでも多くの方に本当の中医鍼灸をご理解して頂き、お体のために役立てていただければ幸に思います。

 


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