●診察シュミレーション 〜突発性難聴U〜 ●
慢性症状・難治病でお悩みの方、真の中医学(東洋医学)・真の診断と治療を理解していただけると思います。

今回で4回目になります「診断シュミレーション」は前回に引き続き「突発性難聴」を紹介したいと思います。
前回の症例はストレスが原因となり起こった「突発性難聴」でしたので、今回は違うタイプの症例を紹介いたします。

尚、「突発性難聴T」をまだお読みでない方は、診察の基礎的な知識などを
「突発性難聴T」の方で説明してありますので、先ずそちらからお読み下さい。

▼シュミレーション▼

T、治療者は問診に入る前に患者さんに書いて頂いた問診表と質問表に目を通 します。
問診表には以下のことが書かれてありました。

 Bさん 男性  38歳  T160  W57
 初診:H19年11月4日

【主訴】
1年位前から、耳が聞こえづらい。
病院では突発性難聴と言われたが、色々検査をしても異常は見つからない。
又、過去に大きな病気やケガはしていない。

次に質問表を見ると、特にチェックはありませんでした。

U、問診表と質問表に目を通し終えたら、患者さんに問診室へ入ってもらいます。
問診表の身長体重のデーターからもわかるように、小柄な男性が入ってまいりました。
年齢のわりには白髪が多いようです。
椅子に腰を掛けていただき挨拶を交わしました。
身のこなしや顔色・表情からは特に異常は感じられず、声にも力がありますし、体臭や口臭も無いようです。

さてここで、治療者が問診表に目を通してから患者さんが問診室の椅子に腰掛けるまでにどの様な事を考えていたのか、頭の中を覗いてみましょう。

【1−1問診表】
前回の「突発性難聴T」の時にも説明しましたが、問診表を見て患者さんの主訴が「突発性難聴」であることを確認すると、「突発性難聴」を引き起す原因と特に関係の深い臓腑は中医学的に何があるのかを考えます。
先ず原因となるものには、外傷・ストレス・怒り・思い悩み・偏食・長患い・疲労・老化・過度な性行為や自慰行為・先天の不足、などが考えられます。(先天の不足については後で説明いたします。)
次に関係のある臓腑は「肝」「腎」「脾」「胃」などが挙げられます。
又、これも前回説明いたしましたが、中医学では一般的に病気を「虚証」「実証」「虚実挟雑証」の3つに大きく分類しました。
又、「虚証」と「実証」では原因から病気の成り立ちや特徴に大きな違いがありました。
ですから、「虚証」と「実証」の判別はとても大事なことと同時に、その後の問診時間の短縮に繋がりますので、問診の初段階では病気の原因追求と虚実の判別 をしてゆきます。

 ではもう一度、問診表を見てみましょう。
問診表から得られる患者さんの情報は、
@1年位前に発症。
A病院では「突発性難聴」と言われたが、検査では異常はない。
B年齢
C大きな病気・ケガはしていない。

 では、細かくみていきましょう。

@ 1年位前に発症。
「実証」には発症が急であるという特徴があります。
反対に「虚症」は徐々に発症する特徴があります。
前回も述べましたが、問診で患者さんに発症した日時を尋ねると、「実証」の患者さんは急に発症しているため、発症日時を記憶していることが多く、逆に「虚症」の患者さんの場合は徐所に発症することが多いので、日時を特定できず「だいたい○○頃」とか「気付いたら発症していた」とお答えになる方が多いのです。
又、通常は病気が長期化すればするほど影響を受ける臓腑も増してきますし、最初は実証であっても虚症へと変化している場合も多々あります。
更にもう1つ、発症してから初診日まで1年間あるということは、その1年の間の症状の変化などがあれば、そこから「虚・実」や「誘発素因」の情報が得られる可能性があるということです。
これは以降に必ず質問しなければならない項目です。

A 病院では「突発性難聴」と言われたが、検査では異常はない。
現代医学と東洋医学(中医学)の大きな特徴の違いの1つに、病気の捉え方があります。
現代医学は「ミクロの医学」と言われ、科学技術の最先端の検査機器を用い、病気を出来るだけ細かく捉えます。
それに対して東洋医学はマクロの医学といって病気を大きく捉えます。
このことにより、両医学には得意分野と不得意分野が存在します。
例えば、外科的処置などが必要な場合であれば、現代医学の方が治療は早いと思われます。
日本の現状では、難治性の病に侵された患者さんの場合、ファーストチョイスはやはり病院です。
鍼灸院には、様々な治療を受診したが良い結果が出なかったので訪れるといった患者さんが殆んどです。
しかし、まれにファーストチョイスとして、鍼灸院を訪れる患者さんもおられます。
このような患者さんの場合は「四診」を行いながら、現代医学の角度からも病状を診て、病院に行かれた方が早く完治すると判断すれば病院への受診をおすすめします。
我々は患者さん全てに対して中医鍼灸治療を行うわけではなく、その患者さんにとって最良の治療手段の提案もさせていただきます。
Bさんの場合は病院で検査を全て行って異常が無いと言われていますので、東洋医学の出番と言えます。

次に、Bさんが病院へ行ったのはいつごろなのかも気になります。
例えば、1年前に急に発症して慌てて病院行ったのか?
あるいは最近になって病院へ行ったのか?もしそうであるなら最近になって病院へ行った理由は何故か?
又、発症して1年も経っているのに何故今頃になって鍼灸院へ来院したのか?
その理由に病気の発症原因や誘発素因が隠されているかもしれませんので、これらについても質問する必要があります。

因みに病院で使われる病名はあくまでも現代医学の診立てによって付けられる診断名です。
それは我々が行っている中医学とは全く違う診立てであります。
ですから、中医学には「突発性難聴」という弁証名はありません。
我々は現代医学の診断名を参考にはいたしますが、それによって治療方針を考えるといったことはいたしません。
逆に皆さんが何処かの治療院へ行かれた時に、そこの先生が病院で言われた病名を聞いただけで、しっかりとした問診もせずに治療を開始したとしたら、その先生は東洋医学や中医学を、しっかりとは学ばれていないと判断された方がよいかと思います。
 
 さて話をもとに戻しましょう。

B 年齢。
「突発性難聴」の原因の1つに「老化」があります。Bさんは38歳ですから、原因から老化は外せます。
しかし、もし38歳のBさんに老化の特徴となるものが現れていたとすると、それは何らかの原因として考慮しなければなりません。

C 大きな病気・ケガはしていない。
このことから、原因の中から「長患い」「外傷」を外すことが出来ます。

【1−2質問表】
次に、質問表ですが、Bさんは特にチェックを入れていませんでした。
チェックが無いからといって、Bさんに質問表に書いてある症状が無いと思ってはいけません。
質問表ついては、細かくチェックを入れてくれる患者さんもいますが、逆にあまりチェックを入れてくれない患者さんもおります。
このような患者さんには2つのタイプがあります。
先ず1つは、質問表は冒頭で述べたように、様々なチェック項目があります。
患者さんが質問表にあるような症状と、ご自分の主訴とは無関係と解釈してしまい質問表をあまり重要視せずに、チェックを入れていない場合。
しかし、中医学では一般の方が考える体の成り立ちや病気の機序とは全く違う観点でそれらを捉えます。
ですから、一般の方が無関係だと思うような症状が、実は深い関係であったりすることが、よくあるのです。
もう1つは、患者さん本人が症状に気付いていない場合もあります。
このようなタイプの患者さんは、ちょっとした体の不調には気付かずに過ごしてしまい、症状が悪化してから病院や治療院へ来られる方が多いようです。

いずれのタイプにせよ、質問表にチェックが無い場合は、問診時に質問表にある項目を再度訊いていかなければなりません。

 治療者は以上の事を頭に入れて、患者さんを問診室へ招き入れます。

【2−1入室〜着座】
治療者は患者さんが問診室へ入って来る時から先ほど説明した「望診」と「聞診」を開始しており、患者さんから発せられる情報を得ております。
具体的には体型・身のこなし・顔色・顔から受ける患者さんの気質などチェックしており、更に患者さんの発する声や臭いにも気を配っています。
ではこの患者さんの場合はどうだったのでしょうか?
治療者が気にとめた点をまとめてみましょう。
@ 体格が小柄。
A 年齢のわりに白髪が多い。
ほとんどの皆さんは、体格や白髪と「突発性難聴」とは無関係ではないかとお考えになると思いますが、中医学では関係する場合があります。
 
 では、それぞれについて細かく考えてみましょう。

@ 体格が小柄
小柄な体格の人全てに体の異常があるという訳ではありませんが、「四診」を行う上では、たとえ少ない可能性でも疑っていかなければなりません。
その原因は幾つかありますが、ここでは代表的なものを2つ紹介しましょう。
1つは、「脾胃虚弱」が考えられます。
これは成長するために必要なエネルギーは、食べた物から作られるのですが、「脾胃虚弱」のため、エネルギーを飲食物から吸収できなくて成長に必要とするエネルギーが不足して小柄になってしまうものです。
そしてもう1つは「腎精の不足」によるものが考えられます。
「精」とは{人体を構成し生命活動を維持する基礎物質の1つ}と定義されるものです。
定義だけ聞くと難しいのですが、そんなに難しいものではありませんので説明します。
「精」は大きく「先天の精」「後天の精」に2分されます。
先程の飲食物から作られるエネルギーは「後天の精」と呼びます。
それに対して「先天の精」とは、産まれた時に既に備わっている精で、両親から受け継いだものです。
そして、これらの精を貯蔵しておく場所が腎で、腎に貯蔵されている精のことを「腎精」といいます。
精には様々な働きがありますが、特に「先天の精」は、人体形成の基礎となり、生殖・成長・成熟・老化に深く関与します。
(これらは現代医学でいう、DNAやホルモンといったものに近い存在です。)
以上の事から、「先天の精」が少ない場合、成長が他の人に比べやや劣る場合があります。
先程「突発性難聴」の原因にありました、「先天の不足」とは、生まれつき「先天の性」が少ないことをいいます。

では、これらの原因をどの様に判別するかというと、随伴症状を訊いていけばわかります。
「脾胃虚弱」の方であれば、「軟便」「食欲不振」といった、脾胃が損傷している特長的な症状が現れますし、腎精が不足してる場合は、「早期の老化」「膝や腰の不調」といった、何らかの腎精不足の症状が現れます。

ですから、これらについては後ほど問診時に質問する必要がありそうです。

A 年齢のわりに白髪が多い
白髪は老化の特徴的な現象です。Bさんの年齢で老化は少し早すぎます。
これは先程説明した「先天の不足」と関係があるかもしれません。

問診に入る前に、今まで得た情報をまとめてみると、
@ 先ず発症の原因についてはこれといって特定できる情報はありませんでしたが、老化・長患い・外傷、については除外していいでしょう。
A 臓腑の損傷については、今のところ「脾胃虚弱」と「腎精の不足」の可能性があります。
B 虚実については実証の情報はありませんでした。虚症については若干の可能性があるようです。

今の段階では上記の情報を得ております。
しかし、診察はまだ始まったばかりですので、上記の情報がBさんの身体のバランスの崩れと繋がるものとは限りませんので、あくまでも参考程度にとどめ、あまり固執しないように注意をしながら問診を開始します。

それでは問診の様子をみてみましょう。
V、先ずは「突発性難聴」を発症させた原因。虚実・寒熱といった病気の性質などを探る為に、発症当時についてや、発症時から初診日までの間の症状の変化について質問したところ、次の様な答えが返ってきました。
@ 自分ではこれといって発病の原因はわからないが、大体1年前位からいつの間にか耳が聞こえづらくなっていた。
A 耳が聞こえづらくなってから今日に至るまでの1年間では症状に大きな変化は無いが、 徐所に症状が悪化している気がする。
B 季節や天気の影響も無く、温めても寒いところへ行っても変化はない。
又、休んでも疲労しても変化はない。又、かがんだり、立ち上がっても症状に変化は無い。

W、次に発病の原因を探るために、発症以前に耳に何か異常があったか質問してみたところ、次の様な答えが返ってきました。
@ 発症前に耳の周辺に張ったような感じは無かった。又、耳がつまった様な感じや痛みも無かった。
A セミの鳴くような耳鳴りが若い頃から今だにあるが、それほど大きな音ではないので気にとめていな。
B 特に耳が聞こえづらくなり始めたのは1年位前であるが、今から思うとそれ以前から徐々に聞こえづらくなっていた気がする。
C 病院へ初めて行ったのは半年前で、その理由は症状が徐々に悪化してきており、電話の声が聞き取りづらかったりと生活にも支障が出始めてきたからで、鍼灸院へ来た理由は病院へ行っても症状の改善が無かったため。

X、次に耳鳴りについて詳しく質問したところ、次の様な答えが返ってきました。
@ セミの鳴く様な耳鳴りは今だに続いている。
音の種類としては、セミの鳴く様な音で低く細い。
重く濁った音ではなく、ヒューヒューという音でもない。
音量は気にとめるほど大きいものではない。
A 耳鳴りは夜間に増悪する気がする。
B 耳を按じると症状は軽減する。
C 難聴と同様に季節や天気の影響も無く、暖めても寒いところへ行っても変化はない。
又、休んでも疲労しても変化はなく、精神的な変化やストレスや怒りによって症状が変化することもない。

?、最後に随伴症状や生活習慣について質問をしたところ、次のような答えが返ってきました。
@ 最近、性機能の減退や物忘れがある。(難聴発症後から)
A 前から足腰がだるかった。(耳鳴りの発症以前から)
B 子供のころから歯が弱く、身体が小さかった。
C 立ち上がっても症状は悪くはならない。
D 倦怠感・気力が萎える・食欲不振・軟便、といった事は無い。
E 飲酒はしない、偏食もなくバランスよく食べている。
F 胸が張る感じ・口が苦い・頭痛、咽の渇き、便秘や乾燥便といったことは無い。
G 精神的な変化やストレスや怒りによって症状が変化することもない。
H 頭が重い感じや胃脘部の張った感じは無い。痰も無い。
I 動悸・不眠・息切れ・風邪をひきやすい、といったこともない。

 最後に舌診と脈診をしたところ、
 舌質は淡く、苔は少ない。脈は細く弱い。

では、患者さんの答えや、脈・舌から、治療者がどの様に弁証を立てるのか
又、治療者の頭の中を覗いてみましょう。

【3−1、発症当時についてや発症時から初診日までの間の症状についての問診】
この問診の答えをまとめると、
@ Bさん自身では発病の原因はわからない。
A 1年前位前からいつの間にか耳が聞こえづらくなっていた。
B 発症からの1年間では症状に大きな変化は無いが、徐所に悪化している気がする。
C 季節や天気の影響も無く、温めても寒いところへ行っても変化はない。又、休んでも疲労しても変化はない。
以上の4点です。
 
 それではそれぞれについて説明してゆきましょう。

@ については、先ず外傷の否定になります。更にABは「虚症」を意味します。
問診表の説明のところで述べましたが、虚症の特徴は徐所に発症することが多いので、虚症の患者さんは日時を特定できず「だいたい○○頃」とか「気付いたら発症していた」とお答えになる方が多いのです。Bさんの場合も「1年前位 前から〜」と言っております。
又、病気が長期に渡る場合、実証の症状は急激に良くなったり悪化したりするという特徴があります。
逆に虚症の場合は症状があまり変化しないか、変化する場合も徐所に変化するといった特徴があります。
やはりBさんは「1年間では症状に大きな変化は無いが、徐所に悪化している気がする。」と言っています。

C の質問は病気の原因や誘発素因を探る質問です。
例えば、梅雨時期に症状が悪化するのであれば、症状を悪化させる要因に湿気が考えられますし、夏であれば熱、冬であれば冷え、秋なら乾燥などとかんがえられます。
又、温めたり、冷やすことによって症状に変化があれば誘発素因がわかります。
これらがわかることにより病気の原因を知るヒントになることもありますし、病性といって病気の性質がわかりますので、弁証を立てる際や治療方法の選択の際に参考となります。
Bさんの場合は、季節の変化や、寒熱の変化はありませんから、これらが誘発素因にはなっていないようです。
又、休んでも疲労しても変化が無い・又、かがんだり、立ち上がっても症状に変化は無い。
とありますが、これは虚実を問う質問です。虚症の場合は疲労すると症状が悪化し、休息すると症状が軽減する傾向があります。
特に脾胃の損傷による難聴の場合の特徴です。

今回の問診をまとめてみると、ABは虚証を意味しており、Cのみが虚証を否定しておりますので、今の段階では「虚症」の可能性が高いようです。

では次の問診をみてみましょう。

 


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