V、先ずは具体的に主症状(鼻水・鼻の痒み・くしゃみ)について質問をしたところ、次のような答えが返ってきました。
A)鼻水はそれほど激しくはない。
B)鼻水は透明でサラサラして、粘調又は黄色ではない。
C)くしゃみが連発する。
D)冷たい風にさらされると症状が悪化する。
E)疲れると症状が悪化する。

W、次にその他の「花粉症」の症状について質問をしたところ、
次のような答えが返ってきました。
A)粘調又は黄色の痰や目ヤニは無い。又目や鼻や咽に痛みや熱感も無い。
B)激しい鼻づまりはない。
C)熱い所・暑い日・温風に当たっても症状は変わらない。
D)咽や鼻の乾燥感、から咳も無い。

X、最後に随伴症状について質問をしたところ、患者さんからは次のような答えが返ってきました。
A)風邪をひきやすい・B)食欲がなく胃下垂がある。又むくみやすい・疲れやすい
C)寒がりではあるが、冷え症では無い。便に未消化物は混じらない。
D)性機能や聴力は正常で腰や膝にだるさや痛みは無い・E)家族に花粉症はいない。
G)鼻・目・耳・咽などに閉塞感は無く、ストレスが加わっても症状は特に変化しない。H)怒りやすくもない。

以上が今回の問診の患者さんの答えです。

?、最後に脈診と舌診をしました。
脈は力の無い脈で、脈速はやや遅めでした。
舌は白っぽく、ボテット膨らんだ感じでした。

では、患者さんの答えや、脈・舌から、治療者がどの様に弁証を立てるのか
又、治療者の頭の中を覗いてみましょう。

【3−1主症状についての問診】
先ず、主症状について詳しく質問をしています。
患者さんの答えから何がわかるか説明しましょう。
A)鼻水はそれほど激しくはない・D)疲れると症状が悪化する。
中医学では、一般的に激しい症状が「実」の症状で、緩慢な症状が「虚」の症状と考えます。
鼻水が激しくないということですから、症状は緩慢であるといえますので、「虚」の症状ととらえることができます。
又、疲れると症状が悪化するのも「気虚」の症状の特徴です。
これらは、先程の問診表や望診などで考えられてきた「気虚」の裏づけの1つの情報となります。

次に、
B)鼻水は透明でサラサラして、粘調又は黄色ではない。
C)くしゃみが連発する。
D)冷たい風にさらされると症状が悪化する。
以上の3点とも、主症状が「寒」の性質をもっていることを表わします。
これはそのまま外邪の性質に置き換えられます。
因みに鼻水が粘調又は黄色である場合は熱の症状になります。

さて、【1−1問診】の説明を思い出してください。
治療者は問診表や質問表から外邪の種類は「風邪(ふうじゃ)」か「風寒の邪」の可能性が高いと考えていました。
この問診で外邪が「寒」の性質であることがわかったことにより、この患者さんが受感した外邪が「風寒」の可能性が高いことが見えてまいりました。
しかし問診は正確に慎重に行わなければなりませんから、次は「風寒」以外の邪の症状があるかを患者さんに尋ねて、それらの症状が無いことを確かめて、初めてこの患者さんは「風寒」の邪を受感したと決定できるのです。
そこで次は主症状以外の「花粉症」の症状をみてみましょう。

【3−2主症状以外の花粉症の症状についての問診】
先ず、A)B)C)の質問ですが、
粘調又は黄色の痰や目ヤニの有無・目や鼻や咽に痛みや熱感、激しい鼻づまりの有無・熱い所・暑い日・温風に当たった時の症状の悪化の有無を訊ねています。
これらは全て「熱邪」の症状の特徴です。
患者さんはこれらの症状は無いと答えておりますから、上記の問診で「熱邪」は否定されました。
次に、D)の、咽や鼻の乾燥感、から咳の有無についての質問ですが、
これは「燥邪」の症状の特性です。
この患者さんの場合「燥邪」の可能性は低いのですが、念のために確認しております。
患者さんは上記のような症状が無いと言っておりますので「燥邪」の可能性も無いと言ってよいでしょう。
これで、「熱邪」と「燥邪」が否定されましたので、患者さんは「風寒の邪」を受感したと考えてよいでしょう。

さて今までで患者さんについてわかったことをまとめてみましょう。
この患者さんは季節性の「外邪」を受感したものと考えられます。
「外邪」の種類は「風寒の邪」です。
また、体質的にはエネルギーの不足である「気虚」の可能性が高いと言えます。
しかし、今の段階では「気虚」の可能性があるのはわかっていても、どの臓器のエネルギーが不足しているのかまではわかりません。
そこで、これ以降の問診では随伴症状の質問をしながらどの臓器が虚しているのかを探ってゆきます。

【3−3それ以外の随伴症状についての問診】
随伴症状は、闇雲に探ってゆくわけではありません。
しかし質問の仕方は各先生によって様々ですので、今回は先ず、問診表の説明で登場した「花粉症」に関連のある臓器をから質問していきます。
その中でも、今のところ一番可能性が高そうな「肺」から質問を開始してみました。

患者さんは、A)風邪をひきやすいと答えております。
これは「肺気虚」の典型的な症状です。
今までの問診や望診や聞診でも「肺」の可能性は高かったので、このへんでこの患者さんは「肺気虚」があると考えて間違いないでしょう。
次にほかの臓腑もチェックしていきます。
B)食欲がない・胃下垂・むくみやすい・疲れやすい、などの症状があります。
これは「脾気虚」の症状です。
今までにも「脾気虚」の症状は幾つかありましたので、この患者さんは「肺気虚」の他に「脾気虚」があると考えてもいいでしょう。
尚、「脾気虚」は進行すると「脾陽虚」になりますので、次はそこも確認しなければなりません。
それについての質問の答えがC)の、寒がりではあるが、冷え症では無い。
便に未消化物は混じらない。になります。
これによってこの患者さんは、冷えはあるものの「脾陽虚」までは進んでいないと判断できます。
次の答えは、D)性機能や聴力は正常で腰や膝にだるさや痛みは無い・E)家族に花粉症はいない。であります。
この答えは、腎についての質問の答えになります。
腎は性機能や遺伝に関わる臓器です。又、耳・腰・膝とも深く関与します。
腎についての質問は全てその症状がありませんので、この患者さんの腎は正常といえます。
次は、G)鼻・目・耳・咽などに閉塞感は無く、ストレスが加わっても症状は特に変化しない。H)怒りやすくもない。です。
これは肝の症状についての質問に対しての答えです。
本来「肝」が関与する基本病理は「気滞」によるものですから「実」の性質です。
この患者さんは明らかに「虚」の病症が出ておりますが、「虚」と「実」が混雑する場合もありますので、「肝」の質問をしています。
しかし患者さんの答えは「肝」の症状は無いと言っております。

したがって随伴症状を総合すると、この患者さんは「脾」と「肺」のエネルギー不足があるようです。

大体、弁証が組み立てられてきました。
最後に脈診と舌診をして、弁証が間違っていないか最終確認をします。
この患者さんの脈は力がありませんでした。力の無い脈は「気虚」を意味します。
次に脈の速さは「寒・熱」を表わし、遅い脈は「寒」を表わします。
次に舌ですが、白い舌はやはり「寒」を意味し、ボテット膨らんだ舌は「気虚」を意味します。
脈診や舌診の結果も問診と一致しましたので、最終確認も出来ました。

今までの四診を総合すると、この患者さんの弁証は「脾気虚」と「肺気虚」の両方がありますので弁証名は『脾肺気虚』となります。
更に、今の患者さんの病状は、体質的に『脾肺気虚』があったところに「風寒の邪」を受感し、現在の症状が発症したと考えられます。

ではどの様な機序を経て、現在の症状が発症したのかを簡単に説明したいと思います。

この患者さんの体質は『脾肺気虚』ですから「脾」と「肺」のエネルギー不足があります。
「脾」の働きの1つに「運化作用」があります。
「運化作用」とは食べた物をエネルギーに変え、全身へ運ぶ作用です。
「脾」はエネルギーを作り出し全身へ運ぶ仕事をしているのです。
更に「脾」のエネルギーを全身へ運ぶ仕事の手助けをしているのが「肺」の「宣発・粛降作用」です。
つまり、エネルギーは「脾」によって作られ、「脾」と「肺」によって全身へ運ばれます。
ところで、脾によって作られるエネルギーには幾つかの種類があります。
その中の一つに「気」があります。さらに「気」にも幾つかの種類や働きがあり、その中の一つに「衛気」があります。
「衛気」の働きの中には「防衛作用」といって、外邪が体に侵入しようとするのを防ぐ働きがあります。
この「衛気」は「肺」の「宣発作用」によって体表へ運ばれることによって、はじめて「防衛作用」を果 たすことができるのです。
「脾気虚」になってしまうとエネルギーが作られなくなります。その結果 「気」の生成能力が低下してしまい「衛気」の不足につながります。
更に、この患者さんは「肺気虚」もあります。「肺気虚」は「宣発作用」の低下をまねき、「衛気」が体表へ運ばれづらくなってしまいます。
この結果、「防衛作用」の低下が起こり、外邪の侵入が起こりやすくなってしまいます。
ですから「肺気虚」の方は風邪をひきやすくなってしまうのです。
この患者さんの場合も同様に風邪をひきやすいと言っておられます。
更に風邪だけに限らずその他の外邪の受感もしてしまいますので、毎年同じ様な症状に悩まされてしまうのです。

さて弁証が立てられた時点で基本的に問診は終了です。
患者さんには施術に備えて治療室へ移動をしていただき、ベッドに横になってもらいます。
その間に治療者は治療方針と使用するツボを決めなければなりません。
先ず最初に考えるのが治療方針です。
皆さんならどの様な治療方針を考えますか?
患者さんの主訴は、「鼻水・鼻の痒み・くしゃみ」です。
今、患者さんを苦しめているのは上記の三つの症状ですから、先ずはこれらの症状を取り除くことが最優先になります。
これらの症状を引き起こしているのは「風寒の邪」ですから、今回の治療は「風寒の邪」を体から追い払う治療と「肺」のエネルギーを上げる治療が主になります。
これが冒頭に出てきた「標治法」になります。
その後上記の症状が治まったら「本治」である「肺」と「脾」のエネルギーを高める治療に切り替えていきます。
最後に治療法が決まれば、それに沿ったツボを選択します。
問診が終わって針を打つまでに治療者の頭の中では上記の様なことを考えています。

我々はこのようにして弁証を立てております。
このような過程は決して珍しいことではなく、中医鍼灸ではごく普通 のことであります。
中医学の治療は『理・法・方・薬(穴)』という大原則にのっとって行われます。
「理・法・方・薬(穴)」とは中医学での診察から治療までの流れを表す言葉です。
「理」とは理解と言う意味で、具体的には「弁証」により病気を理解することをさします。
「法」とは弁証に基づいて治療方針を決定します。
「方」とは治療方針にのっとった漢方薬の処方やツボの選穴になります。
「薬(穴)」とは薬やツボの知識をさします。
つまり、本来の臨床の現場では「弁証」が立てられ、「弁証」に基づいて治療方針を決定して、それに沿った処方や選穴がしっかりした漢方薬やツボの知識により行われるのです。逆を言えば、「理・法・方・薬(穴)」の大原則に沿って行われる治療が中医学の治療となります。
以上のことから、いい加減な問診であったり、痛い所やコリが在る所や病んでいる所にのみ針を打ったり、この疾患にはこのツボといったような短絡的な選穴の仕方のみの治療は本来の中医学(東洋医学)ではありません。
人を治すには、それなりの理論や手順を踏まないと決して結果はでません。
ましてや、慢性症状を治療するには尚のこと繊細な弁証が必要になってまいります。

当院は患者さんと伴に病を治していこうと考えております。
真剣にお悩みの方は、お気軽に当院までご相談ください。
我々も誠意を持ってお答えいたします。

 


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