◇ 問診シュミレーション◇
では早速シュミレートをしてみたいと思います。

初診の患者さんは先ず問診表を書いて頂きます。
問診表には現在の病状を書いていただく箇所と、普段の生活・めまい・耳鳴り・のぼせ、などの有無を答えていただく質問表があります。
質問表は患者さんの症状により、上記の質問の他に20〜60位の質問が追加されます。
これらの質問にチェックを入れていただく事により、問診を行う前に治療者は現在の患者さんの病状に加え、患者さんの体質を大まかに把握することができます。
中医学では患者さんの体質を把握するということは、現在の病状を把握することと同等に重要な事だと考えております。
なぜなら中医学は病気を診るのではなく、病人を診る医学だからです。
例えば、風邪という病気は1つしかありませんが、風邪をひいた人(病人)となるとその人の体質に風邪が入っているわけですから、体質+病気=病人、となります。
中医学は病人をみる医学ですから、同じ風邪をひいた場合でも、体質が違えば弁証や治療法が変わってくるのです。
また、中医学では、風邪をひきやすい体質の方であれば、風邪の症状が治まっただけでは完治とは言いません。
このような患者さんの場合で、風邪の症状が辛い時は、先ず、「標治法」と言って風邪の症状を治める治療を行い、ある程度風邪の症状が治まってきた段階で「標治法」から「本治法」に切り替えます。
「本治法」とは風邪をひき易い体質から風邪をひき難い体質に改善します。
そしてこの体質の改善が終了して初めて「根治」といって、いわゆる完治となるわけです。以上のことから、治療者にとっては患者さんの体質を知るということはとても大事なことなのです。
さて、問診表に質問表が付属しているのにも理由があります。
冒頭でも述べましたが、「問診」は「四診」の中でも重要度が高い診察の一つです。
当院でも「問診」にはかなりの時間をかけております。
問診の前に治療者が患者さんの体質を大まかに把握できることにより、問診時間の短縮が可能となります。これは質問表にあった質問を問診時に省くとういうことではなく、質問表をもとに更に深い問診が可能になるということです。
患者さんは何らかの不調があって来られているのですから、問診は出来るだけ短く、正確に、より深く行うのが我々治療者の努めなのです。
さてシュミレーションにもどりましょう。

T、治療者は問診に入る前に問診表と質問表に目を通します。
問診表には以下のことが書かれてありました。

男性 21歳 学生   初診日:H19年3月15日
【主訴】
一週間前から、鼻水・鼻の痒み・くしゃみ、がある。
毎年この時期になると同じような症状が出る。
数年前に病院へ行ったところ「花粉症」と判断された。
耳鼻咽喉科で鼻の検査もしたが異常は無かった。

次に質問表を見てみると
軟便傾向・息切れ・落ち込みやすい性格、などにチェックがありました。

U、問診表に目を通し終えたら、患者さんに問診室へ入ってもらいます。
入り口から痩身な青年がゆっくり入ってまいりました。
顔色は白くツヤが無く、肌が乾燥しやや荒れているようです。
「こんにちは」と声をかけると、挨拶を返してくれましたが、どことなく声に力が無い感じがしました。
椅子に腰掛けてもらい改めて挨拶を交わしました。
患者さんはとりたてて体臭や口臭は無いようです。
又、目も充血していないようです。

治療者は患者さんが問診室へ入って来る時から先ほど説明した「望診」と「聞診」を開始しており、患者さんから発せられる多くの情報を既にキャッチしています。
具体的には体型・顔色・顔の肌の質感などチェックしています。
更に患者さんの発する声や臭いにも気を配っています。

さてここで、治療者が問診表に目を通してから患者さんが問診室の椅子に腰掛けるまでに治療者がどの様な事を考えていたのか、頭の中を覗いてみましょう。

【1−1問診表】
先ず問診表を見て患者さんの主訴が「花粉症」であることを確認すると、花粉症を引き起す原因には中医学的に何があるのかを考えます。
因みに、「花粉症」という病名はあくまでも現代医学の病名で、中医学には「花粉症」という弁証名は存在しません。
西洋医学では花粉症はアレルギー疾患の1つとして考えます。
当然アレルギーを引き起こす誘発物質はスギなどの花粉です。
中医学では花粉の様に、体の外から体内へ侵入して病気を引き起こすものを外邪と言います。
「花粉症」を引き起こす外邪は主に「風寒」「風熱」「燥熱」などがあります。
更に「花粉症」と関係の深い臓器には「肝」「脾」「肺」「腎」などがあります。
これらの臓器に何らかの損傷が起こると「花粉症」を引き起こすことがあります。
逆を言えば、「花粉症」の患者さんはこれらの臓器のどれかが損傷していることが多いわけです。
(外邪や臓器・花粉症について、詳しくは当HP『病気別・わかる東洋医学診断』の「わかりやすい東洋医学理論」「花粉症について」を参照して下さい。)
さて、もう一度「花粉症」を引き起こす外邪をよくみてみましょう。
「花粉症」を引き起こす外邪は、「寒」の性質のもの(風寒)と、「熱」の性質のもの(風熱・燥熱)の大きく2つに分けられます。
患者さんがどの外邪を受感したのかを判別する場合は、「寒」「熱」では現れる症状にそれぞれ違う特徴がありますので、先ず「四診」により「寒・熱」の判別 をしていきます。
その結果、もし「熱」の症状が認められれば、次に「風」と「燥」の症状の特徴をやはり「四診」により判別 をし、最終的に受感した外邪を特定していきます。
損傷を起した臓器についても同様に「四診」により各臓器それぞれの特徴ある症状を判別 して損傷している臓器を決定していきます。

問診表を見てみると
主症状は鼻水・鼻の痒み・くしゃみ、です。
これは「花粉症」の代表的な症状であります。
中医学的にみれば「肺」の機能失調時によくみられる症状です。

更に問診表を読み進めていくと、
毎年同じ時期に、同じような症状が出て、病院では「花粉症」と診断されています。
さらに鼻には器質的な異常が無いとなっています。
これは中医学的にみれば、季節的な外邪による病気の可能性をしめしています。
更に発病の時期をみてみると毎年春に発病をしています。
外邪には「風邪(ふうじゃ)」「熱邪」「燥邪」「湿邪」「寒邪」「暑邪」の6種類があり、この中で特に春に現れやすいのが、「風邪(ふうじゃ)」です。
ですから今の段階では季節的な外邪(風邪)の受感による病症の可能性が高いというところまでわかりました。
しかし、今の段階ではまだ情報が足りませんのであくまでも可能性があるというだけです。

【1−2質問表】
さて、問診表により患者さんの主訴がわかり、季節的な外邪(風邪)の影響による可能性が高いところまでわかったところで、次は質問表に目を通 します。
この質問表では、主に患者さんの体質や現在現れている病状の性質を大まかに掴むことができます。
勿論、患者さんによって詳しく書いてくださる方や、そうでない方もいらっしゃいますし、体質が現在の病状に隠されてしまい、患者さんの体質がわからない場合などもありますので、必ずしも質問表で体質や現在現れている病状の性質がわかるものではありません。
さて、それでは質問表のチェック項目を見てみると
「寒がり」・「軟便傾向」・「息切れ」・「おちこみやすい性格」、にチェックがされています。

A、「寒がり」
寒がりには患者さんの体質を表わす場合と、病状の性質を表わす場合
の2つの意味合いがありますので、この後の問診の際に更に確認する必要があります。
今の段階では体質的には体を温めるエネルギーが不足している「気虚」か、それが更に進行している「陽虚」の可能性と、病状の性質的には「寒性の病性」の可能性があります。

B、「息切れ」
息切れは、エネルギーが不足している「気虚」状態の時に現れる症状です。
特に「肺」や「心」の機能失調時の症状です。
この患者さんの主症状を考えると「肺」の機能失調の可能性が高そうですが、これも後ほど問診で確認しましょう。

C、「軟便傾向・落ち込みやすい性格」
軟便や落ち込みやすい性格は「脾」の機能失調の可能性を意味します。
脾の働きの1つに消化があります。脾が損傷され消化能力が低下すると軟便傾向になります。
又、エネルギーは飲食物から作られます。したがって消化能力が低下すると、エネルギーが作られず、「気虚」になってしまいます。
尚、過度な思い悩みは脾を損傷させてしまいます。
ですから、落ち込みやすい性格の人は脾を損傷させている人が多いのです。

問診表から、この患者さんは「風邪(ふうじゃ)」の受感による病症の可能性が高いと考えられます。
次に質問表を考慮すると、「風寒」の受感の可能性も考えられます。
体質的にはエネルギーの不足である「気虚」がある可能性も考えられます。
又、臓腑の失調については、今のところこの患者さんは「肺」か「心」及び「脾」の機能低下がある可能性も考えられます。

治療者は以上のことを頭にいれて問診を始めていきます。

【2−1入室〜着座】
患者さんが入室してきた時から「望診」と「聞診」は始まります。
ではこの患者さんの場合はどうだったでしょうか?
A 痩身である。 B 顔の肌が乾燥しやや荒れている。 C 顔色が白い。
D 声に力がない。 E、目の充血はない F、口臭・体臭はない
以上6点をチェックしています。

A、痩身
痩身をきたす原因は「気虚」「血虚」「陰虚」など沢山ありますが、問診表と質問表から考えると、「脾気虚」により栄養が吸収されず痩せている可能性が考えられます。

B、顔にツヤが無く、肌が乾燥しやや荒れている。
これは「肺」の機能失調を表わします。
「肺」は宣発といって、体表へ「気・血」といった、栄養や潤いなどを散布しております。
「肺」が損傷したことにより宣発能力が低下すると、栄養や潤いなどが体表へ散布されず皮膚の乾燥や肌荒れが起こります。

C、顔色が白い
顔色が白い原因は「血虚」など幾つかありますが、今までの経過からすると、この患者さんの場合は「肺」の宣発能力の低下により、血が顔まで行きと渡らなくなっている可能性が考えられます。

D、声に力が無い
中医学では発声は「肺」の働きが深く関与していると考えます。
ですから「肺」が失調することで、声に力が無くなってしまうことがあります。

E、目の充血はない
目の充血は熱症状を意味します。
ですから「花粉症」の場合、目の充血は外邪の種類が「風熱」の可能性を意味します。
この患者さんの場合は目が充血していないので、今の段階では風熱の可能性はまだありません。
しかしこれは今の段階の話で、これだけで風熱の否定にはなりませんので、 問診で再度確認する必要があります。

F、体臭・口臭はない
体臭は様々な病状を現します。治療者は体臭の種類によってその患者さんの失調している臓腑の情報を得ることが出来ます。
又、口臭は胃に熱がこもるとおこります。
この患者さんは特に臭いがありませんので、特に情報は得られません。

以上のことから、この患者さんに「肺」の失調がある可能性がかなり高いということがわかります。
それ以外については、まだ特に決定的な判断材料はありません。

治療者が問診表を見てから患者さんが着座するまでに、どの様なことを考えているかがおわかりになったと思います。
それでは、いよいよ問診の様子を見てみましょう。

 


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