夜尿症とは、いわゆる「おねしょ」のことです。3歳以上の子供が寝ている間にオシッコをし、目が覚めたときに気付く、という病気です。症状の重い場合ですと、毎晩1〜2回ということもあります。この病気は、はっきりした原因がまだ解っていません。
中国医学では夜尿症には「体の虚弱と冷え」が関係していると考えられています。冷えが、特に下半身に停滞して腎と膀胱の機能を低下させ、その為小便が多くなったり、止めることが出来なくて遺尿となるわけです。
また、腎の活力エネルギーが不足すると、膀胱を引き締める力が弱くなり遺尿を起こすとも考えられています。虚弱タイプの方は、体全体を整える力が不足している状態なので、体の制御機能が損なわれ、遺尿を起こしてしまうのです。
武蔵野市吉祥寺東町在住の小学生
の場合。
息子さんが「おねしょ」をするという事で、母親が当院へ相談に来られました。息子さんは小学6年生。半年後に修学旅行を控えているということでした。そこで私は、一度お子さんを連れて来院するようにとお伝えしました。
後日、息子さんは母親と一緒に当院へやって来ました。息子さんは色白で、同じ年頃の子供に比べ背が低く、少し痩せ気味でした。生活状況を尋ねてみると、食は細く、便は軟らかい、オシッコの色は透明で、トイレが近い。時々頭がボーッとする。どちらかというと寒がりだ、ということでした。手足に触れてみますと確かに冷たく、舌を診ると色は淡くて、型は胖大、脈は細くて遅いということがわかりました。これらのことから、この子の体質が脾腎気虚から脾腎陽虚証という状態になりかけていると判断いたしました。
「脾腎気虚」とは、食が細く軟便気味で体の活力が不足している状態のことをいいます。本来なら小学6年生といえば、食欲旺盛で活動的、背もぐんぐん伸びる時期です。しかし、このお子さんは食が細く軟便気味であるので、栄養が吸収されず成長が遅れていました。そして、栄養が足りないため、人間が持って生まれたエネルギーをも消耗している状態でした。「持って生まれたエネルギー」というのは中国医学では、腎にあると考えています。これを「先天の気・エネルギー」といいます。そして「後天の気・エネルギー」は脾で生産されると考えています。中国医学では脾は食べた物を消化して人間が生活していくのに必要な気・血というエネルギーに変えていくと考えます。
このお子さんの場合、常に軟便気味になっていたので、気、血のエネルギーが不足していました。そのため、持って生まれたエネルギーを貯蔵している腎から少しずつエネルギーをもらっていたため、腎のエネルギーが不足し、冷えの現象が出始めたのです。それに伴い、腎の働きが低下してきたので、遺尿という症状も出てきたと考えられました。
中国医学では腎のエネルギーは尿の働きと深い関係があると考えられています。
それらの事から、私は体を温め食欲を増す事が大事と考え、「温補脾腎」の治療を行いました。腎のエネルギーが補強されるように、週2回のペースで通
っていただきました。 2カ月後、夜尿症はすっかり治りました。食欲も増し、軟便も治りました。そして、治療後もしばらく家でお灸をするよう勧めました。母親もこれらの治療を積極的に取り入れてくださって、3ヶ月間お灸を行っていただけました。
その後、母親が息子さんと共に来院された頃には、あの色白で虚弱だった彼が、約半年で背が8センチ伸び、体重は6キロ増え、見違えるほど成長していたのです。そして、心配していた修学旅行にも無事行けたということでした。私は、この時は本当に嬉しく思いました。「おねしょ」もその原因を考え治療することによってこのように改善していく事ができるのです。
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